第22話 イケメンと腕から離れない幼馴染
「あの、
「あ、ありがとう……ね」
レッスンの休憩中。
私はひかりちゃんを連れ立って、水筒のドリンクを勢いよく喉に流し込んでいるクレアちゃんに声をかけた。
するとクレアちゃんは、濡れた口元を手の甲で拭いながら、何のことはないと爽やかに笑う。
「いやボクは当然のことをしただけだよ。桜塚を目指すものとして、清く正しく美しく在らねばならないからね。だから君たちが気にする必要は無いさ」
そう言うと、クレアちゃんは汗に濡れた金色のベリーショートを片手でかき上げる。
「…………」
「……? どうかしたのかい、
私はクレアちゃんに背を向けると、手にしたタオルで口元を塞ぎ、
「────ふ、ふぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおおlじょwdkjs!!!」
魂の限りに咆哮する。
「っ!? く、黒帳くん!? だ、大丈夫かい?」
「み、美夜ちゃん、大丈夫!?」
イケメン! ボクッ娘! か、かっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
惚れてしまうじゃないのおおお!
凛としていて、少し掠れた品のある乙女の声。
心配そうなその表情も高貴で麗しい。
額の汗と、曇りのない蜂蜜髪が爽やかに煌めいている。
――ふぉぉぉぉ、ふ、ふつくしい! あ、あのクレアちゃん(小6)がわたすなんかの目の前にィィィッ!
格好良いと言えばいいのか、美しいと言えばいいのか。
フランス系のクォーターであり、日本の血は四分の一というのも頷ける。
マリアちゃんも完成された顔面をしていたけれど、クレアちゃんはまた方向性の違う完成度! とにかくかっこいい! 顔が良い!
「本当に大丈夫かい? もし具合が悪いようなら先生を呼んでこようか?」
「い、いえ、大丈夫よ。これは私の持つ
なんとか美夜様キャラを取り繕う。
いや、ほぼ取り繕えていないような気もするけれど……ごめん、クレアちゃんを目の前に
「大丈夫なら良いんだけれど」
クレアちゃんは私の奇行に少々面を喰らったようだが、そこはそれイケメンパワーでコホンと一つ切り替える。
「そうだ、二人に聞きたいことがあったんだけれど……」
「私たちに聞きたいこと?」
「ああ、レッスンの事なんだけれどね。黒帳くんも、日野くんも最近凄く調子が良さそうだから、意見交換とかできたらな、と思ってね」
意見交換か……真面目なクレアちゃんらしいなと、心の中でくすりと笑う。
少しずれているところと、カッコいいところが合わさって、絶妙な可愛らしさを生む。
これがクレアちゃんの転生の魅力なんだと思う。
「調子いいかな……? 私に関しては、まぁ年の功というか……色々と経験してきたからね」
気を抜くとすぐニヤけそうになる頬を引き締めつつ、私は美夜様っぽくさらっと答える。
「色々って……まだ十一年しか生きてないだろうに。黒帳くんは面白いことを言うね」
その言葉そっくりそのまま返すっての。
中身アラフォーの私より、クレアちゃんの方がよほど小学生離れしてるからね。
「それより黒帳って呼ぶの面倒じゃない? 美夜って呼んでくれて構わないよ?」
「えっ!?」
隣で黙って聞いていたひかりちゃんが大袈裟に驚く。
そのままぶつぶつと「下の名前……美夜ちゃんはわたしの……わたさない」途切れ途切れ何かを言っているようだけれど、よく聞こえない。
ひかりちゃんは恥ずかしがり屋さんだから、クレアちゃん相手に緊張してるのかな?
「じゃあお言葉に甘えて、美夜くんと呼ぼうかな。私のこともクレアと呼んでくれて構わないよ。日野くんも、ひかりくんと呼んでも構わないかな?」
「いえ、日野でお願いします。わたし名前より苗字の方が短いので、呼びやすいですよね? そうですよね、立花さん」
緊張からか、急激にスーンっとなったひかりちゃんが感情のない声で返事する。
「あはは、そんな警戒しないで、誰も美夜くんを盗るつもりは無いから。それに……」
クレアちゃんがひかりちゃんの耳元で「二人はお似合いだよ思うよ」と囁く。
「え、そうですか? そう思います? えへ、えへへへ」
数秒前の不機嫌もどこへやら、にへーと上機嫌に笑うひかりちゃん。
うーん、私たちは将来アイドルユニットを組んでデビューするんだから(予定)、お似合いなのは当然だと思うけど。
ひかりちゃんがこんなに喜んでくれるとは。
そんなに私とアイドルになることを楽しみにしてくれているんだ、と思うと身が引き締まる思いだね。
「クレアちゃんって意外といい人なんですね!」
意外とは失礼だと思うけど、もちろんひかりちゃんに悪意はない。クレアちゃんも怒っていないみたいだった。
良かった。二人の仲が改善されるのは、クレアちゃんをアイドル界に誘いたい私にとってもプラスに働くに違いない。
「ひかりくんも、おっとりしているようで歌、ダンス、演技ともに優秀だよね。のんびりマイペースな子に見えたから最初は心配してたのだけど、
「えへへ、クレアちゃんありがとうね。でも、わたしは美夜ちゃんに引っ張られてるだけだから。美夜ちゃんが頑張ってると、不思議と私も力が湧いてくるんだー」
てれてれと笑いながら、ひかりちゃんが私の腕にしがみ付いてくる。
何この生き物。クォッカワラビーの二億倍可愛いんですけど!
嬉しいこと言ってくれるし。
ああ、抱きしめい。これが母性ってやつかしら?
前世では子供どころか、彼氏いない歴=年齢だったから初めての感覚だわ。
ちなみに、気が弱くておっとりしているひかりちゃんが成績優秀なのを意外に思うかも知れないけれど、とんでもない。
やはり、さすがは未来のスタープリマ様。
憑依型アイドルとでもいうのだろうか。
歌でもダンスでも演技でも、一旦集中すると別人のように圧倒的パフォーマンスを発揮する。
そしてそれが終わると再び元の可愛らしいひかりちゃんに戻るというギャップの魅力。
そこが原作アニメと変わらない、ひかりちゃんの一番の武器と言えるだろう。
「それはそうとひかりちゃん、どうして私の腕にギュッとしがみついてくるの? というか、妙に胸を押し付けられているような気がするんだけど?」
ひかりちゃんのそれは小学六年生の平均サイズを遥かに超える立派サイズで、あまり押し付けられると、新たな地平を開拓しそうなほど頭がクラクラする。
「えへへ、クレアちゃんありがとうね。でも、わたしは美夜ちゃんに引っ張られてるだけだから。美夜ちゃんが頑張ってると、不思議と私も力が湧いてくるんだー」
「あれ、デジャビュ? また私の声聞こえてない? なんかリピート再生に入ってる?」
そんなに私にくっ付いてたいのかな?
確かにアニメでもひかりちゃんは美夜様と大親友だったし、女の子のスキンシップってこんなもんなのかな?
前世で仲の良い友達とかできたことなかったから、よくわかんね。
……自分で言っててちょっと悲しい。
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