第16話 伊達にあの世は見てねえぜ!
『──世界的オペラ歌手を目指してるマリアちゃんを、あなたが馬鹿にしてるアイドルを目指してる私が倒してみせる!』
『──私が勝ったらマリアちゃんには私たちと一緒にアイドルになってもらう! いいわね、首洗って待ってなさいよ、天乃マリア!』
と、マリアちゃんに挑戦状を叩きつけた、その日の夜──
「だぁぁぁぁぁ、言っちゃったぁぁぁ。頭に血が昇ったからって、マリアちゃんに歌で勝つって言っちまっただー。アホか私は、あほの子なのかぁぁぁ」
私は自室で一人苦悩に満ちた叫び声をあげていた。
「我ながら盛大に啖呵を切ったもんだよ……」
いや、仕方ない。仕方なかったの。
……ねぇ、仕方なかったよね!? 私悪くないよね!?
「これが噂に聞く〝音楽性の違いによる解散〟というやつに違いないわ」
だからこんなんよくあることなんだよ! ね、ね、ねっ!
と、言い訳して自分を慰めてみるものの、それじゃなんの解決にもならない事は分かっている。
「くぅぅぅ、アイドルを馬鹿にされると見境なくなっちゃうのは悪い癖だぞ、黒岩宮子ーーー!」
と、まくらに顔をうずめて、じったんばったんする私(小学二年・美少女)
三つ子の魂百までも。
魂にまでへばり付いた悪癖は死んでも治らないらしい。
前世でもそうだった。自分がどれだけ馬鹿にされても我慢出来たけれど、ジャンルを問わず、アイドルという概念を悪く言われると、どうしても言い返さずにはいられなくなってしまう。
そのせいで──
『黒岩さんって普段喋らないくせにアイドルの話になると急に熱くなるよね。必死過ぎてウケるんだけどwww ていうか早口すぎて草www』
──なんて何度草を生やされたことか……。
あ、思い出しただけでムカついてきた。
どうせ死ぬんだったら、一発ぶん殴っておけばよかったわ、あの同僚。
「って、現実逃避してる場合じゃないよね。そんなことより、どうやって歌でマリアちゃんに勝つかを考えないと……」
分かってはいたけれど、今日のマリアちゃんの歌を聞いてより強く思い知らされた。
歌でマリアちゃんを超えるということが、どういう意味を持つのか……。
「マリアちゃんは間違いなく世界でもトップクラスの歌声の持ち主なんだよなぁ」
大袈裟でも何でもない。
それほどまでに、マリアちゃんの歌声は遥か高みにある。
「けど……本物の美夜様は、たった一年でマリアちゃんを倒したんだよね……」
美夜様がやった。成し遂げたというなら、この
カレプリの世界を守るために……。
でもそんな芸当が、ただ美夜様の身体に転生しただけの、私なんかに真似できるのだろうか。
「バレエコンクールだって、結局、私は負けちゃったのに……」
あの時は偶然どうにかなったけど、あれは私の力じゃない。
泣きじゃくっている私にあかりちゃんが同情してくれただけ──私は何も成し遂げてはいないのだ。
「はぁ……あのままマリアちゃんと仲良しになれていたら、あかりちゃんの時みたいに泣き落としが通用してたかもしれないのになぁ……」
……って、この考え方は良くないよね。
この思考は、黒帳美夜としては絶対に在ってはならないものだ。
分かっている。分かってはいるけれど、後ろ向きにならざるを得ない。
それほどまでに私は追い詰められていた。
「この半年、自分の全てを歌につぎ込んできたけれど、現状マリアちゃんの背中すら見えないと言っても過言じゃないんだよね……」
むしろ、歌の実力が付いてきたからこそ、マリアちゃんとの実力差がより鮮明に分かってしまった。
「でも……」
【妖精の恋歌】──天乃マリアちゃん。
前世の社畜時代。
マリアちゃんの歌声に何度となく救われた。
そして、きっと、マリアちゃんの歌声に救われた人は、私以外にも沢山居るはずなんだ。
「マリアちゃんはカレプリに絶対必要なアイドルなんだよ……」
天乃マリアという最高のアイドルがカレプリの世界から居なくなるなんて絶対に嫌だった。
理屈じゃない。
実力差があるとか関係ない。
とにかく、私が嫌なんだ。死んでも守り抜きたいものなんだ。
「死んでも守りたいか……」
一度死んだ私が、死んでも守りたいって……何だか変な感覚だ。
「…………」
そうだ……私は一回死んだのだ。
死ぬより怖い事なんて無いよね、普通。
だったら、何を恐れていたんだろう。
死ぬ気で頑張ればやれないことなんて無いはずだ。
そうだ、ただでさえ時間が無いんだ。うじうじ悩んでいる暇なんてあるはずもない。
「〝死ぬ気で頑張る〟ことぐらい〝本当に死ぬ〟あの感覚と比べれば大したことじゃないよね」
たしか昔の偉い人も言ってた。『伊達にあの世は見てねえぜ』って!
「ふふふふふ、覚悟しなさいマリアちゃん。死から蘇った女児向けアイドルアニメ限界オタクの生き様ってやつを見せてあげるわ!」
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