第13話 歌姫襲来
聖ペガサス合唱団へと入団し、
【妖精の恋歌】こと、天乃マリアちゃんと出逢ってから半年が経った。
聖ペガサス合唱団の練習日は週三回。
私とひかりちゃんは毎回欠かさず通っている。
だけれども……歌に打ち込んだこの半年間は、想像していた以上に、〝未来のスタープリマの壁は厚い〟ということを思い知らされた半年だと言わざるを得なかった。
当然だが、私は努力を惜しんだりはしていない。
バレエコンクールで全国優勝を目指した時と同じく、練習がない日も練習日以上に猛特訓を続けていた。
──だがしかし、天乃マリアは正真正銘の天才だった。
そして、天才でありながら、一切妥協することなく高みを目指し続ける覚悟を抱いていた。
この半年間で、私もひかりちゃんも見違えるほど歌が上手くなったと思う。
だけど、上手くなればなるほどに、自分とマリアちゃんとの距離がどれほどのものかを痛感させられる。
「残りの時間は四か月か……」
「美夜ちゃん? 残りの時間って何の話?」
レッスンの休憩中、無意識に漏れてしまった言葉にひかりちゃんが反応する。
「あ……えっと、それは……」
完全に不意を突かれた形になった私が返答に戸惑っていると、
「なに? 美夜ちゃん? 何か言いづらいことがあるの? もしかしてひかりに秘密とかがあるのかな? もしかして事件です?」
妙にぐいぐい来るひかりちゃん。
ちょっと目が怖いような気がするけれどきっと気のせいだ。私の元気がないから、きっととても過剰に心配してくれているのだろう。
「いや違うよ。内緒とかじゃなくてね、ただ……」
転生の話や、カレプリの話をするわけにはいかない。
けれど、『聖ペガサス合唱団』での私の目的くらいは話しても問題ないだろう、と思い直す。
「実はね、私、天乃マリアちゃんに歌で勝ちたいの」
「マリアちゃんに? 歌で? えへへー、それは大変むずかしいですねー」
大抵のことであれば『美夜ちゃんなら絶対にできるよ!』と太鼓判を押してくれるひかりちゃんが、珍しくそれは難しいと断言する。
私とマリアちゃんとの実力差がどれほどのものか、ひかりちゃんも分かっているのだろう。
正直なひかりちゃんの反応が、私の目標にすでに黄色信号が灯っている、という事実を顕著に教えてくれた。
「でも、なんで残り時間があと四か月なの?」
ぐいぐい来るのは止めてくれたけれど、ひかりちゃんは何故かピタッと私にくっついたまま会話を続ける。
正直、押し倒したくなるから自重してもらいたいんだけど……。
最近はやっとひかりちゃんのボディタッチにも慣れてきたけど、最初はかなり大変だった。
推しアイドルが事あるごとにハグハグしてくるのだから心臓に悪いったらありゃしない。
この半年で一番向上したのは歌唱力じゃなくて〝冷静な黒帳美夜〟と〝アイドルにどきゅんずきゅんしている黒岩宮子〟の、分割思考にも似た使い分けかもしれない。
「あのね、噂で聞いたのだけれど、マリアちゃんが日本に居るのは一年だけらしいの。来年の春には彼女はアメリカに帰ってしまうのよ」
「え、そうなの?」
「そう。だから、マリアちゃんをやっつけるために残された時間は、あと四か月しかないのよ」
天乃マリアちゃんはアメリカ人の父と日本人の母を持つハーフであり、幼いころの生活基盤はアメリカが中心だった。
それまでのマリアちゃんの夢は、世界一のオペラ歌手になるというもの。
しかし、父親の仕事の関係で日本に住んでいた小学二年生のとき、マリアちゃんは生まれて初めて歌というジャンルで美夜様に敗北。
その後、美夜様の輝きに心惹かれたマリアちゃんは、オペラ歌手という夢を捨て、日本で美夜様と同じアイドルを目指すことになる――。
というのが天乃マリアちゃんの公式設定なのだ(出典:カレイドプリンセス設定資料集26ページ)。
「あら、私をやっつけるとは面白い話をしていますのね?」
「な、マリアちゃ……じゃなくて天乃さん!? 今の話、聞いて……」
突然の声に振り向くと、そこに立っていたのは噂の張本人――天乃マリアちゃん、その人だった。
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