きっかけ

 起きると、光が氾濫していた。思わず目をほそめる。机の上に置いた携帯はその光を反射し、埃がゆっくりと踊っているのが見えた。腕の産毛は黄金に染まっていた。それはまるで、おとぎ話に出てくる、未知の植物のようだった。上半身を起こし、窓の外を見る。思わず息を呑む。喉から声にならない声が響く。鼓動が激しくなり、鼓膜が波打つ。瞳孔の動きが手に取るようにわかり、血液の流れている場所を感じる。

 そこには太陽の姿があった。いつも写真で見ている太陽の姿ががそこにあった。大きくて、オレンジ色で、周りの空気を揺らしていた。それは本当にそこに『存在』していた。でも一つだけ、確かに違う部分があった。熱だ。熱を感じた。顔いっぱいに。その熱は、心の暗い部分を照らし、凍っていた部分を溶かしていった。心はすぐに本来の活気を取り戻し、光が心の隅までまんべんなく広がった。そして、僕にある考えを授けた。

「姉ちゃんと話せるかもしれない。」

ころげ落ちるようにベットから降り、姉ちゃんの部屋へ向かった。でもそこには、姉ちゃんの姿はなかった。混乱した。今まで、寝室で寝ている以外に、姉ちゃんの姿を見たことがなかったから。

 無月はその時まで一度も日没開始時間に遅れたことはなかった。部屋の時計も、自身が常につけていた腕時計も、1分たりとも遅れないように、毎朝調節していた。(と動画の中で言っていた。加えて、お前もやったほうがいいと。)

 もしかしたら、まだ学校にいるかもしれないと思った。中学校で勉強したことは一度もなかったが、何度か夜の学校を眺めに行ったことがあったから、学校までの道のりは知っていた。そして気づいた時には、スニーカーの踵を踏みながら走っていた。靴をしっかり履き直そうともしたが、その1秒が惜しかった。何かの拍子で、神様がミスをしたのかもしれない。いや、もしかしたら普段の行いを見て、ご褒美をくれたのかもしれない。そんな考えが頭を埋め尽くした。とにかく、神様の気が変わる前に姉ちゃんに会いたい。その一心だった。靴が脱げ、体が前のめりになる。四つん這いになりながらも前に進む。空は、今までに見たことがないほど真っ赤に染め上げられていた。

 

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