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「ねえキミたちは、ここからの帰り道ってわかる? ぼくたちあわててここまできたもんだから、もとの道までもどれるかしんぱいなんだ」

「大丈夫! 僕たちこの森には何度も遊びに来てるんだ! ほらこっち!」

 トーマスはそう言ってホーの手を取り歩き出す。ホーはホーで同い年くらいの男の子と出会えて嬉しいのだろう。楽し気に引きずられていく。

「待ちなさいよトーマス! あたしたちを置いてくつもり?」

 まったくこれだから男の子って困ったモンだわ、なんて思ってそうなエリカの態度。これくらいの年の女の子はませてるというか、しっかりしているというべきか。ちょっと申し訳なさそうに俺たちへと声をかける。

「トーマスのヤツがゴメンね。置いてかれないようあたしたちもいきましょ」

「エリカのせいじゃないから大丈夫よ」

 なんて言いながらルナとエリカは並んで歩き出す。そしてその後ろをついていく俺とアスカさん。

 横目でちらりと隣を見る。つんと澄ましたアスカさんの横顔。…マズい、話題がねえ。職場はオッサンばかりの工場で、いる女性といったら事務所のおばちゃんおばあちゃん。社会人になってからとんと女性と縁がなくってしまった。なんの話題を出せば盛り上がるのか、まるで見当がつかない。前を行くルナとエリカは、何言ってるかわからないが取り敢えず会話は盛り上がっているってのに俺ときたら…。

「すいません。えぇと将吾さんでしたっけ? 貴方たちも|魔女の箱庭《Wich Craft

》のプレイヤーでいいんです、よね?」

「ああ。アスカさんもプレイヤーなんだろ」

 助かった…。そうだよな、今俺たちはこの魔女の箱庭Wich Craftっていうゲームをプレイしているんだ。それを話題にすればよかった。まったく女っ気がなさすぎて、そんな単純なことすら気が付かないだなんて。

「なぜプレイヤーがこんな所に? まさか貴方たちもMAMを追って?」

「正解。トパーズの酒場の狼男のマスターからの依頼でな。…スマン。美味しいところを横からかっさらうみたいになっちまってるよな、俺たち」

「気にしないでください。助けられたのは本当ですから」

 ふわりと笑うアスカさん。思わず心の中でほっと安堵の吐息を漏らす。助かった、この人が優しい人で。この依頼を受けるときに、密かに心配だったことだ。人によってはここで難癖つけられるかもしれない、そうなったら面倒だぞと。とはいえそれは杞憂に終わってよかった。

 そうこうしているうちに、元いた道が見えてきた。はしゃぐホー、ほっと一息をつくルナ。一先ずこれでクエストクリアまでがみえた。

「これでようやっとアクアマリンの町に戻れるわね」

「そうですね、ルナさん。ひとまず一安心です」

「ありがとうみんな! この森を抜けて、アクアマリンの町に着けばもう大丈夫! あそこはMAMの力が働いてる! 悪いものは入ってこれない!」

「トーマスの言う通りよ。みんな早く行きましょ」

 トーマスの言葉で、狼男のマスターがMAMのことを話す時のことを思い出し、納得がいった。自分たちの住んでいる町を守っているとなれば、そりゃ誇らしくもなる。

 それと同時に町にさえ辿り着いてしまえば安全ということと、俺たちのせいでゴブリンが町に襲い掛かるなんてことがないってことがわかって安心した。

 俺たちは少し速足で進む。急いで帰りたいのはやまやまだが、走るのは得策じゃない。町までまだまだ距離はある。ここで走ってしまったら、いくら疲れにくいっていったって絶対に体力なんてもたない。それになによりホーやトーマス、エリカのちびっこ三人衆がいる。俺たちより確実に足は遅いし、子供に無理はさせられない。背負って走ろうにも俺一人で三人は無理だ。

「ねえアスカ。そういえば聞いていい?」

「なんですかルナさん」

「森の中でもの凄い閃光が見えたから、アタシたちアスカたちのこと見つけられたけど、あの光ってなに? アスカの魔法?」

 そういえばと思い出す。閃光弾みたいなあの光。あれは一体なんなのだろうか。状況証拠から察するに、アスカさんの魔法ってのはわかるが、詳しい話を聞いておきたい。もしかしたらまたゴブリンが襲い掛かってくるかもしれないのだ。戦力の把握はしておいたほうが絶対いい。

「凄いんだよ! アスカお姉ちゃんは! 二つも魔法が使えるんだよ! それで僕たちを守ってくれたんだ!」

 トーマスは頬を紅潮させ、興奮したように喋る。それはまるでちょっと憧れのお姉さんについて話しているみたいで、エリカは面白くなさそうに頬を膨らませていた。

「二つって凄いわね!」

「別にそんなことないですよ。ルナさんの魔法、おそらく任意の形の氷を生み出し、それを射出できるで合ってます?」

「そうよ! 大正解!」

「ルナさんの魔法に比べてわたしの魔法は一発一発がとても弱いです。ゴブリンを倒すのがやっとの闇と、目晦ましくらいにしかならない光。この二つがわたしの魔法ですね」

「威力は低くても、使い分けが出来るって凄いじゃん。いいなぁ、アタシも使えるようになりたい!」

 キラキラと瞳を輝かせるルナ。俺はルナの願いを知っているから、それが妙に微笑ましく感じた。

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