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「ちょ、やめてよ恥ずかしい」
前足での猫パンチで撫でていた俺の右手を払うルナ。ちっ、結構気持ちよかったんだが残念。手を引っ込める。
「ねえ二人とも」
ホーらしくない鋭い声。もしかして怒らせたか? と少しばつが悪くなって頬を掻いた。その瞬間だった。ピカリと稲光のような閃光。
「この光ってまさか」
「ぼくたちと別のプレイヤーだよきっと」
光の出所は道から外れた木々の中。緑が邪魔して様子は見えない。が、嫌な予感がする。おそらくゴブリンやそれに類する厄介ごと。思わず声を張り上げる。
「急ぐぞ! ホー、俺の背に乗れ!」
ルナを撫でるためにしゃがんでいて助かった。ホーがどれだけ足が速いか知らないが、確実に俺がおぶって走った方が速い。
「わかった!」
言うが早いかホーは俺の背に飛び乗る。見た目通りの重量。これなら大丈夫。一足先に駆け出したルナに追いつける。道から外れ、木と木の間を縫うように走る。目印は数秒ごとに光る閃光。
「ルナ、魔法の準備しとけよ!」
「わかってる!」
ほんの少し先を行くルナの叫ぶような返事。確実に荒事の雰囲気。この場で唯一頼りになる存在。俺なんかが行ってもしょうがないかもしれないが、それでも身体が動いちまったからには仕方ない。それにもしかしたら何かしら役に立つかもしれない。
しばらくして少し開けた空間。そこにいたのは一人の女性、二人の子供。そしてその三人囲うように襲い掛かろうとする
一メートルくらいの小さな体躯。身に着けているのは腰に巻き付けてあるボロ布一枚。緑の肌に卑屈さと悪意に歪んだ顔つきはまさにファンタジーの世界から飛び出してきたよう。思わず身体が強張る。けれどもルナは冷静だった。
「『氷の槍』」
ルナの頭上に無数の
「さあ、かかってきなさい!」
その言葉で三人を囲んでいたゴブリンたちが、ルナの存在に気が付き顔を向ける。そしてすぐさま黒板を爪でひっかいたような不快な雄たけびと共に、一斉に跳びかかってきた。
「いけ」
一言。主人の号令とともに迎撃する氷の槍。空を駆けるそれらは、討ち漏らすことなくゴブリンの緑の皮膚を貫く。血は出ない。代わりにボフンッという音共に煙となってゴブリンたちは消えていった。
一矢一殺。その見た目通りゴブリンの知能は低いのだろう。いや低いというよりむしろ本能に忠実すぎるといった感じか。この場にいた全てのゴブリンたちは一斉にルナに襲い掛かり、そして全滅した。
氷の槍はまだ八本ほど残っている。ルナは油断なく睨みつけるように、周囲を見回し続けている。
「だいじょうぶだよ。もうちかくにこわいのいないよ」
俺の背中にいるホー優しい声。それでようやっと安心したのか、ルナの上に浮かんでいた氷柱が消え、臨戦態勢が解かれた。
「ふう。アンタたち大丈夫だった?」
「正直助かりました。ありがとうございます」
そう言ってぺこりと頭を下げる俺と同い年くらいの女性。ピシリとした黒のパンツスーツを着こなし、長い黒髪はポニーテールで結ってある。細い眉と切れ長の釣り目は生真面目さとどこか育ちの良さのようなものを感じさせる。そんな彼女の後ろで、怯えて隠れている男の子と女の子が迷子の二人なのだろう。二人ともホーと同い年くらいで男の子はくしゃくしゃとした金髪。女の子は輝く銀髪を二つに結んでいる。エルフの例に漏れず、二人ともテレビなんかでよく見る子役の子たちなんか目じゃないくらい綺麗な顔立ち。そういえばトパーズの酒場にいた奴らも、強面だったが顔立ちそのものは整っていた。まったくこの世界の顔面偏差値高すぎだろ。なんて悪態を吐きたくなる。
「ショーゴ、ショーゴ」
背中のホーが、小声で俺の名前を呼んでくる。「ん?」と聞き返したが、ホーの言葉を聞くより先に言いたいことがわかった。しゃがみ込み、ゆっくりホーを
「やあ。ぼくの名前はホー。こっちがショーゴ。そしてキミたちを助けた黒猫がルナ」
ホーらしい見ているこっちが安心してしまうような、ほんわかした笑顔を浮かべる。同い年くらいで、そんな雰囲気のホーで警戒心が薄れたようだ。二人の子供たちは恐る恐るといった雰囲気で、前に出て名乗る。
「僕の名はトーマス。こっちが…」
「エリカよ。で、この人がアスカ。あたしたちをここまで連れてきてくれた人。黒猫ルナさん、助けてくれてありがと」
「本当に助かりました。わたしだけだと、あの数のゴブリンを対処出来ず、全滅してたでしょう」
「そう何度もお礼を言わなくってもいいわ。それより早くここから離れましょ。またゴブリンが襲い掛かってこられたら面倒だし、なによりあんまし長くここにいたら迷子になりそ」
確かにそれは不安だ。元居た道から大分離れてしまったし、なによりルナは若干方向音痴の気がある。迷子を捜しにいって自分たちが迷子になって遭難したんじゃ洒落にもならない。それこそミイラ取りがミイラになったなんてことわざの通りの展開だ。
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