1-9
「まあいきなり魔法って言われたって信じられないよね。ちょっと見てなさい『氷の槍』」
その言葉と共に隣にいるルナの上、一メートルほど上に三本の氷の
「す、すげー…」
思わず漏れ出た感嘆の声。得意げにふふんと鼻を鳴らすルナ。びっくりして目を見開くホー。ああ、確かにこれならゴブリンなんて怖くないだろう。
「じゃあ行きましょ。子供たちも心配だし」
「そうだね! しゅっぱつだー!」
跳ねるように前に出るホー。今まで俺かルナの後ろについていくだけだったから先頭を歩けることが嬉しいのだろう。ずんずん進んでいく。幸いなことに森の道は一本道。はぐれることなんてない。
「ほら、二人ともはやくはやく!」
「そんなに慌てると転ぶぞ」
先を進むホーに置いてかれないよう、けれども焦ることなく道を進む。確かにゴブリンがいる以上、迷子のことを考えるなら急いだ方がいいのかもしれない。けれどもこのクエスト、どこかゲームのイベント染みた感覚があるのだ。なんというか全てが予定調和で決められているような、急いで向かってもゆっくり向かっても結果は変わらないというか、そんな奇妙な感覚。もし本当に緊急事態だったら、あの狼男のマスターももっと焦っていたはずだし、大きな騒ぎになっていたはずだ。
先を進むホーから視線離さず、隣で一緒に歩いているルナに話しかける。
「それにしても氷の槍だったか? さっきの魔法凄かったな」
「ありがと。アタシの魔法は氷を創り出し、それを操ることができるの」
「そいつは凄い。どんな形にも出来るのか?」
「あんまり難しい形は無理ね。簡単なものだけよ」
「へぇ。ちなみに何発くらい打てるんだ?」
「さあ? 試したことないからわかんない。けどさっきのくらいだったら何発でも打てるわよ」
ふむふむ。まあそこはゲームと違ってMPゲージなんてないし、具体的な数はわからないか。とはいえさっきのを何発も打てるってだけで心強い。ゴブリンが現れたら頼りにさせてもらおう。
「ねえルナ。聞いていい?」
ルナの見せてくれた魔法についてあれこれ考えていたせいで気が付かなかった。少し先を進んでいたはずのホーが振り返り、神妙な表情でこちらを、ルナを見つめていた。
「なに?」
「どうしてルナは星紫の塔にいきたいの?」
そういえばと今更になってそのことを疑問に思う。星紫の塔へ行くことがゲームクリアの条件。そしてどうやらホーが探してる星とやらがそこにいるということしか知らない。こんなけったいなゲームを攻略するんだ。もしかしたらなにか特典があるんだろうか?
「そんなのこの世界を創った魔女に会うために決まってるじゃない」
「なんで会いたいの?」
「んー。そっかこれも知らないんだ。この
「そこは願い事を叶えてくれるじゃないのか?」
「なんでも魔女は魔女であって神様じゃないんだってさ。どんな願いも叶えてあげれるとは保証できないんだって」
なるほど。魔女の魔法も万能じゃないってことか。とはいえこんな世界を創り出しちまったくらいだ。殆どの願い事なんて簡単に叶えてくれそうな気がするが。
「魔女に会って頼むことなんて一つだけでしょ? 魔法を教えてもらうの」
「さっきの氷の魔法とは別にってことか」
「……。実はね、さっきの氷の魔法って別に凄くないの。このゲームのプレイヤーが貸し与えられる力の一つ。アタシの力じゃないんだ」
そう言うルナはしょんぼりと落ち込んでいた。けれどもすぐさま明るい、誰が見ても作ったとわかる笑顔で続けた。
「好きな魔法を自在に操れたらさいこーじゃない? アタシは魔女に会って魔法を教えてもらう」
「ふーん。いいじゃんそれ。夢があってさ」
「……。笑わないの?」
「まあな。ルナのそれってさ。誰もが一度は考えることだろ?」
男なら一度でも真似したことがあるだろうかめはめ波のポーズ。超能力を使っての無双や、ただただ自分にとって都合がいいだけの妄想。馬鹿馬鹿しくて大人になるにつれて段々そんなこと考えなくなる。そりゃそうだろう。絶対にそんなこと叶うはずないのだから。ただルナと他の人との違いは、そんなバカげた妄想が叶うかもしれないってだけだ。
「だったら目指せばいい。なによりそっちの方が面白そうじゃね?」
「…アンタってさ、変わってるって言われない?」
「言われたことないな」
「ふーん。まあいいわ。でもありがとね」
そう言って笑うルナの顔はどこか憑き物が落ちたように、すっきりとしたものだった。やっぱり変に作った表情なんて見てて気持ちいいもんじゃない。思わずしゃがみこんで、ルナの頭をかりかりとひっかくように撫でる。
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