1-5
「つまり俺たちはオープンワールドVRゲームをプレイしているようなものか」
「おーぷんわーるどぶいあーる? なにそれ?」
「未来のゲームシステムだよ」
「ふーん、そう」
どこか興味なさげなルナの返答。興味ないっていうよりむしろわからなさすぎて適当に返事したってだけだろう。
VRゲームなんて言葉は最近になって普及し始めたものだ。っていっても存在そのものは何十年も前からあった。ようやくきちんとした名前がついたってだけだ。言われてみれば珍しいものじゃない。
景色が変わる。段々と田んぼや民家の数が減っていき、また森が見えてきた。ゆったりとしたカーブ。森に入る。しばらくして看板が見えた。何か書いてあるが、見たことない文字のせいで読めない。
「この森を抜けたら、アクアマリンの町だってさ」
「ルナは読めるのか?」
「うん。あとこの先行き止まりだってさ」
「助かる」
ちらりとタコメーター近くの時計を見る。74:90。やっぱり時間が狂っている。まあ体感で三十分は走っただろうか。
緩やかカーブが終わり、道は直線に。しばらく先に、信号と踏切のようなゲート。森の出口が見えてきた。
アクセルから足を離し、エンジンブレーキを利かせる。六十キロから五十キロ四十キロと徐々に速度を落とし、ゲートの停止線で止まる。そのまま十秒ほど待つと、信号は赤から青へ。それと同時にゲートが開いた。ゆっくりと入る。中は、百台は停められるだろうか。それなりの広さの駐車場。面倒だからとまっすぐ目の前の駐車場に、頭から突っ込んだ。
車のシフトをドライブからパーキングに変え、ようやく一息つく。
「着いたぞ」
「じゃあ降りましょ」
「ありがとね、ショーゴ」
車から降りて伸びをする。寝起きからいきなり運転したせいか、若干身体が固まっていた。そのまま周囲を見回す。右を見れば、俺たちが入ってきた入口とは違うゲート。左を見れば、大きな塀と、ファンタジー作品なんかでしか見たことがないような木製の門。しっかりと閉められた門の上には、やっぱりあのよくわからない文字がでかでかと書かれているが、多分あそこがアクアマリンの町だろう。とはいえあの塀のせいで、中は見えないが。
「ほら。ぼうっとしない! さっさと行くわよ」
いつのまにかルナが、俺の前に立っていた。俺に声をかけると、とてててとホーと一緒に先に行ってしまった。どうやら本当にぼうっとしていたみたいだ。気合をいれるために、自分の頬を両手でパチンと叩く。
「ああ、すぐ行く」
少し先に歩いていたルナとホーに追いつくために軽く小走り。すぐに追いついた。
「確認なんだが、あの門がアクアマリンの町なんだよな?」
「まあ入口なんだけどね。あそこに書いてあるでしょ? …ごめん、読めないの忘れてた」
若干申し訳なさそうなルナの声。読めないものは仕方ないし、むしろ読める奴がここにいて助かるくらいなんだがな。
門の前に着いた。遠目から見てても思ったが、近くでみるとより一層大きさと重さが伝わってくる。これ俺が押したとして、開けられるか?
そんなわけで、門の前で立ち尽くして数秒ほど。ゴゴゴゴという重いものを引きずる音とともに、ひとりでに門が開いた。
「うわぁ…!」
ホーの弾むような楽し気な声。門の向こうは大通り。幾人もの人が陽気に歩き、雑貨やら簡単な軽食なんかを売っている屋台が立ち並ぶ。ここまで静かな田舎道だったから、しなびたような町なんじゃないかと不安だったが、結構賑やかじゃないか。
「アクアマリンの町の酒場トパーズ。そこにMAMを知っている人がいる。
「つまり次の目的地は、この町のどこかにあるトパーズって名前の酒場ってわけか」
「はやく行こう! そのトパーズってお店に」
町の陽気さに
「そうね。トパーズに向かって出発しんこー!」
「おー!」
元気に片足を突き出すルナ。同じように右手をあげるホー。まったく、お子様とにゃんこは呑気なもんだぜ。なんてニヒルに肩を落とす俺。歩き出すと同時に、背後の門が重そうに閉じた。
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