1-6
ルナを先頭にして、俺とホーは並んで歩く。往来は賑わっているが、道幅は広く、歩き辛さは感じない。とはいえ案内しているのが、小さな黒猫なせいで若干視線を下にしなきゃならないのが辛いところといえば辛いところ。ルナからはぐれないようにしながら、街並みを眺める。
町全体の雰囲気はファンタジーなんかでお馴染みの中世ヨーロッパ風。あくまで風ってのがミソで、所詮なんちゃって。小さな指輪や、ネックレスなんかを売っている露天商。軒下で白く、トゲトゲした白い野菜を売っている店。よくわからないケバブもどきを売っているキャンピングカー。それら全てがピンクやイエロー、グリーンだったりとカラフルに彩られている。更にマットや屋根、扉に柱なんかは、幾何学的だったり、いやに丸っこかったりと、デザインばかりが先行して実際に住む人使う人のことを考えられていないとしか思えない家々。どこか
「え、うそ…。そんな…。ホントなの…これ…」
ルナの小さな声が耳に届いた。誰に伝えるわけでもない、驚きと嬉しさのあまり思わず漏れ出たもの。何か気が付いたんだろうか。
「なあどうしたんだ」
「エ、エルフやドワーフがいる…!」
「あー…」
言われて初めて気が付いた。周りをもう一度見渡す。幾人もの人々が町を歩いている。けれどもそこに普通の人は一人としていない。ルナが言っていたエルフやドワーフの他に、犬耳や猫耳の人間。あるいは二足歩行で人間のように服を着て歩くウサギ。亜人や獣人なんかで溢れていた。
「フィクションでしか見たことない人たちがここにいるんだよ? 無理無理! これが叫ばずにいられるかってのよ!」
振り返って熱く語るルナの瞳はキラキラと輝いていた。まあ確かにアニメや漫画でしかみたことないのがリアルにいたら、こうなるのもわからんでもない。ようは芸能人と会って話しているみたいなもんだろ? とはいえ…。
「なあ。あとどれくらい歩けばトパーズに着くんだ?」
「え、知らない」
「へ? じゃあどこに向かってるんだ?」
「とりあえず町を見て回ろうと思って」
その言葉に思わず頭を抱えた。あんなに自信満々に歩きだしてたもんだから、すっかり騙された。
俺が若干不機嫌になったことを察したのか、半目でこちらを睨むルナ。
「…なによ」
「いや。俺が勝手に勘違いしただけだ。すまん」
はあと溜息を一つ頭を掻く。思い返せばルナは言ってたじゃないか。トパーズにMAMを知っている奴がいるってことしか知らないって。
俺が謝ったことでルナの機嫌が若干戻る。とはいえ空気が悪くなってしまった。そのせいで隣のホーがあわあわと慌てている。…これは俺が悪いよな?
「ちょっと待ってろ。そこら辺の奴に、トパーズの場所聞いてくるわ」
なんて言い訳をしながら、逃げるように二人から離れる。こういう時は少し時間を置いたらいい。別に喧嘩というわけじゃないし、そもそもが解決している。ちょっとしたモヤモヤが残っているだけだ。
さて。数メートル離れ、目に入った適当な奴に声をかける。
「すみません」
「どうしましたか?」
おおう。随分とイケメンな兄ちゃんだこと。凛々しく細い眉に、宝石と見紛うばかりの蒼い瞳。さらりとした金髪は、オールバックに纏められ、なにより特徴的だったのは、ピンと尖った耳。道理でイケメンなわけだ。この兄ちゃんエルフってやつだ。
「トパーズって酒場を探しているんですが、ご存じないですか?」
「ああ、それならこの先二つ目の曲がり角を右に曲がって、しばらく進めばありますよ」
「ありがとうございました。助かります」
「どういたしまして」
ラッキーラッキー。一人目から当たりを引くとは、俺も運がいい。
優しいエルフの兄ちゃんに片手をあげ別れを告げ、軽く小走りで二人の元へ戻る。
「この先二つ目の曲がり角を右に行ってしばらく歩けばトパーズがあるってさ」
どうだったんだろう、と不安そうな表情の二人の顔が一変。大きく目を見開き、すぐに笑顔に変わる。
「でかしたわ!」
「ありがとう! さすがショーゴだ!」
ピョンピョンと跳ねまわり、はしゃぐホーとルナ。俺としてはさっきまでのモヤっとした空気が変わってくれて万々歳。
「ほら、はしゃいでないでさっさと行くぞ」
「おー!」
今度は打って変わって俺が先頭。一歩後ろからルナとホーが付いてくる。二人との歩幅を考え、曲がり角を目指しゆっくりと歩く。
角を曲がり、しばらく歩く。幾つもの建物が立ち並んでいて、俺じゃぱっと見どれがトパーズなのかわからない。
「ホントにあった…トパーズだ…」
「わかるのか?」
「うん。あそこの看板に書いてある」
ルナの視線の先、ここから十メートル程離れたところのウェスタン風の店。どうやらそこが目的地である酒場トパーズのようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます