1-2
柔らかな陽光が瞼の裏を突き刺す。眠りの世界から徐々に覚醒し始める意識。そんな中で俺の意識は僅かな疑問が生まれ始めていた。
一秒ごとハッキリとしていく意識。疑問の答えが出たのは僅か6秒後だった。
「あ、朝ぁ⁉」
思わず跳ね起きる。車のシートで長時間眠っていたせいか、身体が僅かに痛むがそんなことお構いなく、跳ね起きた勢いのまま俺は頭を抱えた。
「やっべえ! 完全に寝過ごしちまった」
思考がフル回転する感覚。覚えている最後の記憶は、そうコンビニの駐車場だった。
仕事帰りの運転中、急な眠気に襲われた俺は、仮眠でも取ろうと近くのコンビニに入った。思わぬところでのマシントラブル。想定外の生産の遅れに、上司のねちっこい嫌味とともに泣く泣く残業届を出した俺は、有体にいうと疲れていた。それこそこのまま運転したら、確実に事故を起こすだろうということがわかるくらいには。
一時間、一時間だけ眠ったらコンビニに入って、眠気覚ましの缶コーヒーと夕飯用に適当な弁当を買って、その後帰ろう。
幸い俺が止まったコンビニは、トラックなんかもよく利用する所で、駐車場は広く作られていたし、店側から大分離れている所に停めたから文句も言われない。春先で気温もそれなりに暖かいから風邪をひくこともないだろう。そんなわけで俺は安心してシートのリクライニングを全開に倒し目を閉じたんだった…。
「クソッ! こんなことならアラームかけとくんだった!」
叫びながら過去回想終了。おはようございます今現在。
「マジどうしよ。シャワー浴びてねえ。このまま仕事いけるか?」
ぐるぐる回る思考を、頭を振って冷静さを取り戻す。
「とりあえず会社に電話しねーと」
身体を助手席側に傾けて、無造作に放り投げられたスマホを手に取る。そのまま電話帳で会社の番号を検索し、そのままかけた。けれども耳に聞こえるのは「おかけになった電話番号は」から始まるアナウンス。圏外の証拠。
「は?」
いやいや今どき圏外なんてどこぞの山奥や離島じゃあるまいし、そこら辺のコンビニだぞ? 圏外なんぞありえない。思わずスマホの画面をまじまじと覗く。
「なんだこれ…?」
慌てすぎて、まったく気が付かなかった。32:98おかしい時刻が画面に表示されている。圏外だけじゃない。スマホブッ壊れた⁉ ネットも繋がらない、勿論アプリも全滅。
「どういうことだこれ…」
呟きながら、思わず周囲を見回す。
「つーかここどこだ?」
いつも見慣れたコンビニはそこになく、どこぞの自然公園だろうか。見慣れぬ駐車場と森が広がってた。
ゆっくりとドアに手を伸ばし開ける。そのまま恐る恐る外に出た。足に伝わる確かなアスファルトの感触。あと数十歩も歩けば森につく。まるで見覚えのない場所。
よろめきながら、思わず車に寄り掛かる。そのまま落ち着けるように胸ポケットから、煙草を取り出し火をつけた。ふうと一息つく。多少落ち着いてきた。
見たことない景色に繋がらないスマホ。異世界転生という言葉が頭に浮かんだ瞬間、思わず頭を抱えた。イタい、この考えはイタすぎる。とはいえそれ以外に説明がつかない。
「さてこの後どうするか…」
紫煙を吐き出しながら思わず独り言。こういう時取れる選択肢は二つ。この場に留まるか、はたまた進むか。じっとしてたって何か変わることはなさそうで、俺の場合ここは進む一択。一先ずあそこの森にでも行ってみるか。
靴の裏で煙草の火を消し、車のドアを開け、ドリンクホルダーにセットしてある灰皿に捨てる。そのまま頭を掻きつつ、歩き出そうとした矢先のことだった。
「ねえおじさん」
背後から柔らかな高い声。思わず振り向いた。そこにいたのは少年というにはまだ幼い、十歳くらいの金髪の男の子だった。気配もなく、突然そこに現れたかのような不自然さ。
「おねがいだよ。ぼくといっしょに星を探してほしいんだ。たのむよおじさん」
一瞬俺の頭に電流が走った。「星を探して」その言葉でフラッシュバックする朧気な夢の記憶。俺は直観する。この男の子が鍵だと。
男の子の不安そうな顔。よく見れば目尻に涙まで浮かんでいる。ふうと溜息一つ、俺はガシガシと頭を掻いた。
「まあいいけどよ」
「ほんとう? ありがとうおじさん!」
さっきとは打って変わって、飛び跳ねそうな笑顔の男の子に、ぴしりと人差し指を突き付ける。きょとんとした男の子を無視し、そのまま中指を上げ二本指を立てる。
「ただし条件が二つだ」
「ふたつって?」
俺は笑顔で、男の子の目線に合わせるよう腰を折る。
「俺の名前は将吾っていうんだ。頼むからおじさんはやめてくれ…」
自分の老け顔はコンプレックスの一つだし、なにより幼い子供に悪意なくおじさん呼びされるのはきつかった。
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