第一話 1-10

「僕は学校に行ってないからよくわからないけど、別に魔法の1つや2つ使えなくてもいいんじゃない? できることから始めれば、そのうち何とかなるって」


 ネイアの複雑な心情を知ってか知らずか、アベルは一人話す。わからないなりの精一杯の励ましのつもりなのだろう。

 その少年の言葉で、心に残る罪悪感をそのままに少しだけ気持ちが前に向き始めたネイアだったが、


「……でも案外、ネイアってば男だったりしてねえ。胸もなんかペッタンコだし……」


 と、笑いながら言葉をつなげた。

 肩まで伸びた母親譲りの艶のある美しい金髪。少しつり上がった蒼く澄んだ瞳と薄い眉毛。鼻筋の通った顔立ちは切れ味の鋭い刃物のような冷たい印象を与えるが、まず美少女と称してよい。

 容姿は大人びて見えるかもしれないが、やはりまだまだ子供といってよい、幼さを持っていた。少年のからかい気味な指摘のあるなしに関わらず。

 そんな子供っぽい心ない言葉に、ネイア自身がひそかに抱いている劣等感を刺激され、心の中で張り詰めていた何かプツリと、音を立てて消えた。


「なぁ〜んですってぇ〜っっ!?」


 そう怒号を発する彼女の表情に、アベルはあり得ざる悪鬼・魔神の顔を幻視した。

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