第一話 1-9
「……っていうか、ネイアらしくないね。なんか悩んでるのが似合わない」
そう言って、健康的な褐色に日焼けした顔で笑いかけている。屈託のない、そして邪気を少しも含まない男の子らしい笑顔だった。
しかし、その頃のネイアにすればその無邪気さにすら、自身の憂鬱さと劣等感を刺激される。
「アベルってほんと、お気楽よね。悩みなんてなさそうで、な〜んか羨ましいし〜」
思わず口に出た心ない言葉。発した次の瞬間、ネイアは後悔した。その言葉を聞いたアベルの表情がほんの一瞬だけ曇ったのを、ネイアは見逃さなかった。
アベルは、幼年学校に入ったネイアのことを羨ましがり、会う度毎に学校での話を聞きたがった。
天涯孤独。身寄り、親戚のいない孤児であるアベルは学校へ通う事は叶わない。
たとえ特待生資格を得て、学費は免除されたとしてもそれ以外の費用、寮費や食費代や学業において必要な教材を揃えるための資金、成績如何によって多少の補助はあるが、それら諸経費を彼は用意できないからだ。
私は彼ら孤児院の子供達よりはるかに恵まれている。普段からそう強く意識していたわけではないが、このときばかりは自身の環境と、彼らとの違い。その格差の大きさに少なからぬ負い目を感じて、ネイアは俯いた。
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