有名配信者の闇です?

 河川敷には不穏な空気が漂っていたのだが、久道の登場からか、女性二人組は思わず狼狽えていた。


「……っち。男呼ぶとか卑怯じゃん」

「それ。どういうこと!?」


 久道の背後にいる鈴香に向けてそんな叱責が投げかけられる。

 どうやら彼女達は鈴香が久道を呼んだものだと思っているらしい。

 いまだに唖然としている鈴香を他所に久道は続けた。


「俺が勝手に来ただけで、佐々宮さんは関係ない」


「……あっそ。でも、これは私達の問題だから」

「そう、いくら男が出てこようが関係ない」


 向こうはどうにも強気な様子である。

 引くに引けない理由があるのだろうか。

 詳しい事情は分かりかねるが、こうして出てきてしまった手前、久道も引けない。


「関係ないこと、ない。あんたら今佐々宮さんを殴ろうとしてただろ……!」


 ギロッと睨めつけて言ってみせれば、女性の二人組は後退してみせた。


(お説教する立場じゃないのは重々承知してるけど、効いたみたいだ)

 と、勝手に久道が感心していると女性二人組は『チッ』と舌打ちをし次には口をそ揃えてこう言ってみせる。


「「声が大きい」」


 自覚はなかったため、おそるおそる鈴香の方を振り返ってみれば彼女も同意見なのかジトっといつもより鋭い視線を久道に向けていた。

 現にトラブルなのか、と通行人の何人かがこちらを遠くから確認しているのが目に取れる。

 大衆の目があることには痺れを切らしたのか、女性二人組は互いに顔を見合わせ引くことを決めた様だ。

 ただこちらに向かって「ずるい」「卑怯」といった意見を寄せてくる。

 久道は罰が悪くなったが言い返してみせた。


「……これに懲りたらこんなことはもうやめてくれ」


 内心では羞恥に染まっていた久道だが、最後くらいはカッコつけることに。

 女性二人組は舌をだし、次には下唇を噛んで退散していった。

 この場に久道と鈴香の二人が残される。

 鈴香と目が合うと彼女は感謝の言葉を口にした。


「ありがと」

「……えっ」

「『ついてくるなって忠告した』って怒られると思った?」

「……うん」


 鈴香には余計な手出しをするな、と怒られる覚悟で飛び出したのだ。

 久道は彼女の真意が読み取れず、首を傾げる。


「本音は斉木君が考えてる通り。だけど、私のためを想って行動してくれたんでしょ?」

「ええ、まあ」


 そこに嘘はない。

 それを確認すると、鈴香は退屈げに続けた。


「だったら、私は感謝する。それだけ」

「そ、そっか」

「うん、それであの二人だけど……」

「あっ、無理には話さなくて大丈夫だから」


 どうにも彼女には触れて欲しくない話題の様に久道には映ったのだ。

 そのため、一応ストップをここでかけておく。


「ううん……まあ、余計なお世話だったのには違いないけど助けてくれたお礼と思って聞いて」

「…………」

 黙って先を促せば、鈴香の静かな告白が始まった。


「私って、まあ人並み以上には容姿が優れてるからさ。好きでもない異性から好意を持たれることがすっごく多くて。だから、あの二人はそのやっかみ。あの子達とは友達だったんだけど、あの二人の好きな男子が私だったみたいで……まあ、それでこじれたっていうそれだけの話」


 鈴香は前を歩きながら、そう言った。

 要は誰かの好きな人を勝手に奪った、みたいな扱いを彼女は受けていたのだろう。


 久道はその話を聞いて合点がいく。


 きっと彼女の友達なんていらないといった発言はそこからきているのではないか、と。

 自分でも気づかぬうちに久道は口が動いていた。


「話してくれてありがと。きっと佐々宮さんは友達の定義が大きすぎるんだよ。本当の友達って絶対できるはずだから」


 確信を持っていってみせれば、鈴香の足先がピタリと止まる。


「……そんなのできっこない」


 酷く冷え切ったそんな声音の様に久道は感じられた。

 久道は思わず鼻を掻きながら口を開く。


「そ、その……まあ俺とかも友達になれたらって思ってるから」


 その発言を聞くと、ビクッと鈴香は肩を揺らしてみせた。

 それから翻って続ける。


「……それは告白?」

「えっ、い、いや」


 自分で言ってて恥ずかしい。

 久道は思わず羞恥で顔を薔薇色に染めた。

 そんな久道の反応が面白かったのか、鈴香は柔和な笑みを浮かべる。


「調子乗りすぎだから……」

「……っ」


 久道は思わず目を丸くさせ固まった。

 彼女の発言にはトゲがあったが何もトゲあったから唖然としたのではない。

 トゲのある発言にはどこか優しい声音を感じられたからだった。


「それじゃ……」


 唖然とする久道を他所に鈴香はその場を後にする。

 鈴香はおかしい、と言わんばかりに口角を緩めていた。

 対する久道はといえば。


(……まったく、佐々宮さんの考えが分からない)

 と、困惑していたのだった。


♦♢♦


 さて、その日のこと。

 夜の時間帯にて有名配信者でありVtuberでもある『桜ヤミ』の配信が行われた。


 話題に上がるのはの女性。

 河川敷でのこと。

 それを楽し気に話す配信者の姿が確認されたのだった。







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あとがき


 更新お待たせしました!

 次回は桜ヤミの配信回です‼︎


 新作を書き始めました。

 悪役転生のラブコメです!


https://kakuyomu.jp/works/16817330652056427406


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