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 鈴香の後を追ってから久道はすぐさま不穏な空気を感じ取ることになった。

 ここは、ショッピングモールを出た、人目につきにくい場所の河川敷である。

 久道は物陰に隠れながら、鈴香と彼女を取り囲む華やかな女性達の様子を伺っていた。


「久しぶり」

「お久~」


 取り囲む女子の二人が明るい声で鈴香に声をかけた。

 この二人は鈴香の友達なのだろうか。

 それにしては、鈴香の表情と眼はひどく冷めきっていている様な気がしたが……。


「———で、私に何の用?」


 鈴香は淡々とした様子で静かに二人に尋ね返す。凛とした声音と冷たい表情に思わず遠くから様子を伺っている久道でさえ、背筋がぞっと震えた。

 それは二人の女子も同じだったのか、一歩だけ後退して狼狽えているのが目にとれる。


「な、なによ……釣れない反応してくれちゃって」

「それ。元はといえばあんたが悪いのに」


 過去に何かあったかの様な言い回しである。

 二人の女子は狼狽えながらもキリッと鈴香を咎める目つきを向けた。

 ただ黙って話を聞く鈴香に二人の女子は続ける。


「まぁ今回は相手が冴えない男だから、私たちみたいに恨みを買わずにすんだんでしょうけど……」

「それ。あんたと友達したせいで散々な目に遭わされたこと……私、忘れてないんだから」


「…………」


 散々の言われようであるにも関わらず、鈴香は澄ました態度。

 退屈そうに『それだけ?』と言わんばかりの毅然とした様子を鈴香は続けた。


 それがきっと気に食わなかったのだろう。

 二人の女子が鈴香を睨みつけ、怒気を彼女に伝える……。


「なんなの、その態度……? 私たちを馬鹿にしてるかの様なその態度は……!!」


「はぁ。勝手に向こうがこっちのこと好きになっただけでしょ……違う? それに、あなたたちが友達? 冗談じゃない。私に友達なんて必要ないってあのとき初めて知らせてくれた。だから、そこは感謝してる。あなたたちに対して、悲しい気持ちもないし怒る気ももさらさらない。言いたいことがあるなら聞いてあげる。あくまでそのスタンスを私は取ってるだけだから」


 と、鈴香は淡々と答えてみせた。

 それに対して痺れを切らしたのか、女子達は『何なのっ!』とその場で地団駄を踏んでみせる。


 女子達は怒りからか、肩を震わせて手を上げそうになったところで—————。


 久道はガシッとその手首を掴んでみせた。


「………っ」


 鈴香の目がこのとき大きく見開かれる。

 久道は女子達二人に対して物おじせずに告げた。


「事情はよく分からないけど……あんたたちは一体なんなんだ……!」


♦︎♢♦︎


 その様子をふと偶々通りがかった一人の女性が静かに見つめていた。

 おどおどと挙動に落ち着きが見られない、一見すると自信が見られない女性である。


(……あ、あの人は)


 内心で声を漏らしながら、その女性は目を輝かせる。

 彼女は以前、久道とは面識があった。

 書店で親切に対応してくださった店員さんとのことで覚えていたのだ。


(名前はたしか、さ、斉木さん………)


 自分は動き出せなかったのに、颯爽とイジメ現場を止めに入った久道の姿に彼女——六条早雪は目を丸くさせ、胸を高鳴らせた。


(………か、カッコいいです)


 いつかまた交流したい、と早雪は強く想い自身の胸の前できゅっと握り拳を作ってみせる。


(あ、兄に相談しないと………)


 きっとこれは淡い恋心。

 胸がとくん、とくんと熱く彼から目が離せない。


 早雪は耳を真っ赤にしながらも、とろんと蕩けた表情を浮かべていた。









あとがき


 最近リアルが忙しくて短め&不定期更新となってしまい申し訳ないです。


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