有名配信者の不穏?

 昼食を摂ることになり、まず久道と鈴香はショッピングモール、四階に位置するフードコートへと足を運ばせた。

 利用客が多いのか、家族連れや中高生、高齢者などなど様々な年齢層が散見できた。

 久道はうどんをチョイスしたのだが、正対して座る鈴香に久道は苦笑を浮かべてしまっていた。


「……佐々宮さんって結構甘いものずきなんだな」

「ん? 好きだけど……なんか悪い?」

「いや案外子供っぽいところもあるんだなって思ったから」

「何よ、それ」


 鈴香の手には苺のクレープが握られている。

 昼食のチョイスとしては微妙なところだが、鈴香からすれば好物だから仕方がないそうだ。

 久道は何となく鈴香は茶道や武道を嗜んでいそうな渋いイメージを勝手に持っていてしまったため自然と親近感が湧いてしまっていたのだ。

 だから思わず笑みをこぼしてしまう。


「もうっ……なんだかムカつくんだけど」


 口角が上がっている久道を見かねたのか、鈴香はそんな発言を久道にしてくる。


「ごめんごめん……。それと、口にクリームついてる」

「……っ。ありがと」


 眉が寄って恨めしい顔を向けてきた鈴香であるが、それも一瞬のこと。

 行き場のない羞恥が胸の中で渦巻いているのか、彼女の顔は薔薇色に染まっていた。

 そんなしおらしい鈴香が何だか可笑しくて内心で久道は笑みをこぼす。

 と、そんな食事をしている時だった。

 彼女の羞恥に染まっていた顔が一瞬で暗くなる。

 不信に思い、久道は鈴香に尋ねた。


「……何かあった?」

「いや、別に。ただこうやって私が認めた以外の人と食事するのって久しぶりだなって」


(その言い方だと、俺認められてないってことじゃん……)

 それに、と晴也は内心で付け加える。

(……俺、ゲーム組織に入って認められたって思ったんだけどなぁ)

 と、なぜだか悔しい気持ちにさせられた。

 久道は平静を装って苦笑を浮かべながら頷く。


「そ、そうなんだ」

「……ねえ、今日一緒に付き合ってくれてるからさ。一つだけ忠告しといてあげる」


 冷え切った声で、目からも光を無くして、鈴香は続けた。


「あんまり人を信用しない方がいいよ……」

「え?」


 一瞬ではあったが、距離が近くなった気がしていた。

 こうして食事を共にしたり、鈴香の優しい意外な一面を見たことで、勝手に彼女のことを知った気に久道はなっていたのだ。

 だが、久道は何も鈴香のことを知らない。

 この酷く冷め切った声に久道はぞっと背筋が震え、目を見開き、息を潜めてしまう。


「斉木君はさ、純粋な目をしてるからそれだけ言っとく。友達も何となく多そうだし」


 ふっと自嘲する様にそれだけ言った鈴香に久道はしばしの間、言葉を失った。

 何とか紡ぎだして久道は口を開く。


「それってどういう……」

「ううん、別に……。ごめん、私行くとこあるから」


 言って鈴香は立ち上がりその場を後にしようとした。

 鈴香の変わりように驚愕して振り返ればそこには二人の女性が立っていた。

 風貌は可愛らしくクラスで一軍の女子をやっている……そんな雰囲気が伝わってくる女子の二人組だ。

 こちらを見てヒソヒソと話し込んでいるあたり、何か訳ありなのだろうか。

 鈴香が迷いなくそちらに歩みを運ばせているあたり、きっと訳ありなのだろう。

 凛とした鈴香の背中がこのときは何故だかとても小さく久道の目には映った。


(……こないで)


 鈴香の後ろ姿が寂しげにそう告げている様な気がする。

 が、久道には放っておくことができなかった。短い時間ではあるものの、鈴香に優しい一面があることを久道は知ったからだ。


(放っておけないよな……)


 ましてや久道は同じ組織の者なのだ。

 仲間が困ったいる以上、見過ごすことはできないだろう。

 迷うことなく久道は彼女に気づかれない様に、鈴香の後を追うことにした。


♦︎♢♦︎


 恥ずかしくて、くすぐったくて、鈴香は一時の間……忘れてしまっていた。

自分には配信しかないことを。

 リアルなんて捨てるしかないことを。


 鈴香には美也を始めとした配信者の仲間がいるが……あくまでそれも同業者だから仲良くしているだけ。


 友達なんて、作っても裏切られるだけ。

 作っても痛い想いを自分からしてしまうだけ。


 そう。元々、久道をゲーム組織に入れたのも配信で伸びそうだから。

 仲良しごっこをしようとしたわけではない。

 短い時間の中ではあったが、食事をするまで鈴香はそのことを失念してしまっていたのだ。


 が、あのかつての友達と呼べていた者が目に映って正気に戻った。

 今だけは感謝しよう、と鈴香は彼女たちに内心で感謝を告げる。


 きっと彼女たちは鈴香に対する当て付けや言いたいことがあるのだろう。


(………私は別に逃げない。ただ全てに失望してるだけだから)


 その想いから、鈴香はかつての友人の元へと足を運ばせて話を聞くことになるのだが……。


『……君たちは友達なんかじゃない』


 静かな怒気を孕んで、鈴香の肩に手を置く一人の男が姿を現すのだ。


 リアルの全てに失望している鈴香の心を徐々に溶かす出来事が一人の男によってもたらされるのを鈴香は知らない。


『佐々宮さんは友達の定義が大きすぎると思うかな』


 ———そんな言葉をかけてくれる一人の配信者の姿を鈴香はまだ知らないのである。








あとがき


 主人公が主人公する回ががが……。

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