有名配信者とデートの幕開けです?
久道と鈴香が警察官から解放されることになったのは連行されてから三十分足らずのことだった。
「良かった……なんとか弁明できて」
「……わ、悪かったわよ」
どこか唇を尖らせながら、隣に佇む鈴香が謝罪の言葉を口にする。
どうやら思わず本音が口に出たとのことらしかった。
ねえ、俺泣いていい? 泣いていいよな。
とはいえ鈴香は不器用ながら優しい一面を持っていることを今回の一件で知ったため久道は強く鈴香に当たれそうになかったのだ。
「それにしても、佐々宮さんが迷子の子に声を掛けたら泣かれたなんて……」
「もうっ、笑わないでよ……どう話かけたらいいか分からなくて……でも、周りの人たちも見て見ぬフリしてたし……仕方ないじゃない」
そう。鈴香は迷子の女の子の力になろうと動いたが、怖がられてしまい泣かせてしまったらしかった。
大学では素っ気ない美人の印象だったのが久道の中で崩れて思わず笑みをこぼしてしまう。そんな久道を恨めしそうに頬をほんのりと紅潮させながら鈴香は彼を睨みつけた。
「はあ、ほんっと最悪……」
「あはは。まあ俺としては佐々宮さんの意外な一面見れて良かったけど」
「他の人に話したら容赦しないから……これホント」
顔を薔薇色に咲かせて、ビシっと人差し指をこちらに突き付ける鈴香。
これ以上この話をされたくないのか、彼女は誤魔化す様に「ところで」と話題を変えてくる。
「なんで、斉木君がここにいるの?」
「それは俺が聞きたいというか……なんというか」
「……おかしいわね……美也先輩と遊ぶ予定だったんだけど」
「あれ? 佐々宮さんもですか?」
「ん? その言い方だともしかして斉木君も?」
と、そこで久道と鈴香は目を見合わせた。
そしてどこかはっと気づいたことがあったのか鈴香は慌てて携帯を取り出して、画面に見入る。それから片眉を上げてため息をついた。
「はぁ……そういうこと」
「………?」
言っている意味が分からず久道が首を傾げると、鈴香は説明をし始めた。
「あの……例のさ、下着見られたことあったでしょ? その一件で私達の仲が悪いんじゃないかって疑った先輩が私達が仲良くできる様にって……私たちを二人きりにする状況を作ったらしいわ」
言って、彼女は携帯の画面を見せてくる。
画面に表示されていたのは美也のメッセージで確かにそこにはそんな文言が書かれてあった。
久道も何となく美也からメッセージが来てないか、確認すれば―――。
『配信者だって絶対バレたら駄目だから……それだけ気をつけて』
と、そんな一文が追加で送られていた。
久道は思わず首を傾げる。
もっとも、久道は配信のことを鈴香に話す気なんて更々ないわけであるが……なぜこんな忠告をしてくるのだろうか。
そこではっと久道は何かに気づいた。
それは、配信者大会のメンバーにおいて『もう一人の仲間と仲良くするため』に美也から呼び出しを受けていたこと。
(……ということは、佐々宮さんも配信者ってこと……だよな)
表情をひくつかせながら、鈴香の方に久道が目を向ければ彼女はこてん、と首を傾げてきた。
「ん?」
「あっ、いや……あはは」
「はあ、それにしても参ったわね。写真を送れとまで言ってきてる……先輩」
「あ~口裏合わせて遊んだことにするのを封じられた、と」
「そういうこと……仕方ないけど買い物に付き合ってもらうしかないか」
肩をすくめて、ジトっとした細い双眸を久道は向けられた。
その瞳に背筋をピンと伸ばしながらも久道は苦笑を浮かべる。
「じゃあ、まずはご飯でも食べにいこうか……」
「そうだな」
鈴香の発言に頷いて彼女の後に続いてくと、何か気づいたことがあったのか彼女は「あっ」と声を漏らして足先を止めた。
「これ……デートじゃないからね」
「分かってます」
「なら良いんだけど」
かくして、久道と鈴香は美也の策略により一緒に遊ぶ時間を共有することとなった。
♦♢♦
駅前には地元民だけでなく多くの者が足を運ばせる。
―――だからだろうか。不穏な視線が鈴香には向けられていた。
「うわっ。ねえあれ……あいつじゃない?」
「ホントだ。隣にいる冴えない男子って彼氏とかかな?」
「……っくす。ムカつくけどお似合い」
「ねえねえ。私たちから逃げたあいつの前にさ、今現れたらどんな反応するんだろ」
「ん~でも男いるならだるくない?」
「大丈夫でしょ……見るからに弱そうな感じだし」
「あはは、言えてる」
かん高い声で言って盛り上がる二人の女性。
そこまで言ってから、ひっそりと久道達の後をつける不穏な気配が近づいていた。
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