メンバー集めのお時間です?
『ザクさん……配信者大会でるなら……一緒に組まない?』
翌日のこと。
配信者大会でメンバーが組めそうになく悲嘆に暮れていた久道を救ったのはそんな『紫桃マホ』のメッセージであった。
(……美也先輩めっちゃ優しい)
寝ぼけ眼をこすりながらそんな感想に浸って、久道は美也に返信をする。
『ありがとうございます……是非お願いしたいです』
『ん……それでさ、ちょっと問題があって……』
『問題ですか?』
『ん……私、実はもう一人仲間の先約がいてね』
何か困ることがあるのだろうか。
チームは三人制のためその仲間も入れるなら久道と美也を加えてちょうど規定の三人。
一見すると問題はない様に思われるが……
『その仲間がさ。きっとザクさんの加入を認めないと思う……』
『………』
『気を落とさないで……上しか見てない人だから』
実際、配信者大会に出るメンバーのほぼ全員が上、つまり勝ちに貪欲なプレイヤーばかりであろう。
ゲームで負けの実績しかないザクを甘んじて入れてくれる者の方が少ないというもの。そのため、久道は諦観の表情を浮かべることしかできない。
『すみません……』
『謝る必要はないよ……でもその人とさ、仲良くできたらきっと意見変わるはずだから……今日の昼から空いてる?』
『今日の昼ですか……』
と、久道はスケジュールを確認したところで今日の予定は特に入っていないことが分かった。
今日は土曜日。
大学も休講でゲーム組織の活動も基本自由と伝えられているため、せいぜい気が向いたら配信するくらいだった。
『はい、大丈夫ですよ……』
『良かった……それじゃあ駅前に集合してくれると助かる』
急な提案であるため、不信感は拭えないものの久道がチームに入るためには美也の言うことを吞む意外もはや手立てがない。
チームに入れるなあら、何でもする気概が久道にはあったのである。
『はい分かりました』
と、久道は即答すると美也はその詳細について久道に伝えた。
『———外にでたら自分が配信者だということは絶対、言わないで』
なんて意味深な忠告には久道は首を傾げざるを得なかったが。
♦♢♦
外に出ると爽やかな風と太陽の陽射しを精一杯に浴びる。
空はどこまでも澄み切っていて、天気は紛れもない快晴だった。
久道は一人、身支度を整い終わり、美也に指定された待ち合わせ場所に到着する。
……が、到着早々、久道の視界に入ってきたのは泣いている小さな女の子とどこか不機嫌そうな顔を向けている女性だった。
周囲の者は腫物というより、様子を伺うような視線を向けるだけで彼女たちの間に入ろうとする者はいない。
面倒ごとに巻き込まれたくないのだろう。
あるいはこれから用事があるのか、とにかく関わろうとする者は確認できなかった。
そんな中、久道は迷うことなくトラブルが起きたであろう現場に直行するが……。
ちょうどそのタイミングで一人の警察官が姿を現した。
すると、それと同時に女性の目が久道の方に向かれる。
女性と目が合うと久道は思わず目を丸くした。
気だるさを目に宿しながらも煌めく髪を靡かせるこの美少女は見間違いようもない。
大学で美少女と名高く有名な『佐々宮鈴香』、その本人であったのだ。
彼女は久道のゲーム組織加入を認めた張本人であるのだが、一体なぜこんなところにいるのだろう。
と、久道が困惑の表情を浮かべていると同じく目を丸くしていた彼女は平然とこんなことを零してくる。
「あっ……覗き魔」
「……っ」
間違いなく、以前に下着姿を目撃してしまったことを指しての発言であろうがこの場でその発言はまずかった。
場に居合わせた警察官の目が久道に向けられる。
「……い、いやっ。え、えっと」
「とりあえずそこの方も同行してもらいましょうか」
かくして泣いている女の子、そして鈴香、久道の三人は警察官に連れられることになった。
(俺は何にもしてないのに……)
久道は内心で泣きながらも渋々動向を認めた。
♦♢♦
さて、一方その頃。
そんなハプニングなど知る由もなく美也は、久道と鈴香の二人のことを内心で考えていた。
配信者大会のメンバーは『ザク(久道)、美也(紫桃マホ)、鈴香(紫ヤミ)』この三人ででることを美也は望んでいる。
……が、鈴香はザクの招待を間違いなく望まない。
そのため、美也は二人にリアルで仲良くなってもらおうとし二人を嵌めたのだ。
鈴香には自分と遊びに行くことを伝え、久道にはメンバーと仲良くしてもらうことを伝えて—――。
「……大丈夫かな。……ザクはきっとすぐに鈴が配信者だって気づくだろうけど、鈴に斉木君がザクだって知られたら……一環の終わり」
リアルのザク、つまり久道と親密度が高まってからザクだと知ることで鈴香はチームを組んでくれる。
それが美也の算段だ。
大して仲良くなってないのに、ザクだと知られれば『騙してたんだ、じゃさよなら』で一環の終わりだろう。
だからこそ、美也は久道に伝えていた。
くれぐれも、配信者だとは口にださないこと。そして、配信者だと身バレさせないこと。
―――つまり、これは久道に課せられた極秘任務なのだ。
「……今頃、仲良くしてくれてるといいけど」
キャンディ―を舐めながら、少女は自室でそう呟いた。
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