配信者大会メンバーの発表です?
書店のバイトから帰宅してからのこと。
夜も更け始めそうな時間に入ったときに、久道の姿は自室で確認された。
そして、久道は目を丸くさせながら興味津々そうに画面を凝視している。
それは『配信者大会』のメンバーについて、公式のチャンネルで正式な発表がなされていたからだった。
バイト中に発表は終わっていた様だが、久道は一から飛ばさずに目を輝かせる。
(……この中に俺がでるなんてな)
今思い返してみても信じられなかった。
プロやそれに引けを取らない実力者が集まる中に自分が入ることになろうとは。
『さあ……これよりメンバーの発表の時間に映っていきましょうか』
編集とテロップ、そして音楽が流れ視聴者のコメント欄は加速を見せる。
【きたああああああ】
【ようやく!】
【このときを待ってたんだああああ】
一年に一度の配信者大会。
各々の配信者のファンたちはこぞってこの時を心待ちとしていたのだ。
久道も生配信ではないと言えコメント欄の空気に思わず固唾を飲んで息を潜める。
『お待たせ♪ 皆』
司会進行役に続いて姿を現したのは有名配信者の『ゆうだま』だった。
ザクを始めにバズらせ……またザクをこの大会に招待した張本人である。
ゆうだまの発言に視聴者は再びコメントを加速させた様だった。
(凄いな……この人気ぶり)
ザクの配信時とは比べものにならない程コメント欄が流れていくのは早かったのである。
司会進行の者とゆうだまは、早速本題へと移る。
『……それにしても、今日の配信者大会は新規メンバーも入られるということで』
『はい♪ 皆盛り上がってくれるんじゃないかな♪』
『これは期待できそうですね~視聴者の皆さん』
期待を煽る発言に視聴者は熱狂を見せ――――。
【誰だよ、一体!】
【いつメンだけじゃないのっ!】
【なにそれ……初耳なんだが!】
【激熱すぎてw】
など、気持ちを昂らせてコメントを打ち込んでいるのが窺えた。
『正直言って私は新規で入ってくるこの方を確認したときはビックリしましたよ』
『でも……アリだと思ったでしょ~?』
『そうですね。この手は考えられなかったです』
『私、招待の件送って快諾いただいた時はすごく嬉しくてっ♪』
『へえ~意気込みばっちりとのことなので、ぜひ頑張っていただきたいところです』
そんなやり取りを交わすゆうだまと司会役にコメント欄は全員一致の意見を溢した。
【焦らすな、焦らすなw】
【だから一体誰なんだよ(笑)】
【教えてくれええええええ】
コメント欄を確認したところで、ゆうだまはクスクスと笑う。
『じゃあ、発表タイムする?』
『ええ、もう時間ですし……発表といきましょう!』
『では~どうぞっ♪』
そんな鈴を転がす声が響いた瞬間である。
メンバーの発表が画面にて表示された。
すると、視聴者は推しや好きな配信者を確認したのか、
【きたああああああああ】
【今回も盛り上がりそう!】
【チーム分けがいつも以上に大変そうだけどw】
など、盛り上がりを見せ話に花を咲かせていた。
……が、ひょっこりとプロやそれに引けを取らないメンバーの中に新参者を視聴者は発見したのだろう。
『ザク』との単語が途端にコメント欄を埋め尽くしていった。
そして、この配信者大会のルールや仕組みを熟知しているからか視聴者は『w』や『草』などと言ったコメントが多数寄せていく。
【絶対仲間集められんだろw】
【ザク……疫病神やんけ(笑)】
【ザクは草なんよ】
と、ザクを笑うコメントが多く散見されたのだ。
それも仕方のないことだろう。
キレ芸のザクはこの配信者大会に置いて場違いなのは明白だからだ。
しかし、『ゆうだま』の予想通り……コメント欄は困惑よりも期待に満ちた声で溢れていく。
【ザクがこの大会とか神回やんw】
【チームがどうなるかが見どころ(笑)】
【マジでザクチームとか爆笑不可避だろ】
と、盛り上がりを見せていたのだがそんな中、ザクこと久道当人はというと。
(ん? チームってランダムなんじゃないのか? あれ、もしかして違う?)
コメント欄では疫病神など言われはしていたが、久道は気には留めていなかった。
それ以上に気になるコメントがあったのである。
それは【チーム組めないだろw】といったもの……。
久道はこの大会について漠然的にしか知らないでいた。ただランダムで組まれてチームが出来上がるものかと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
久道の困惑に応える様に、ゆうだまは補足する。
『コメント欄で言われてる通り新メンバーは今バズって知名度を上げているザクさんでした~♪』
『そうなんですよ……視聴者の皆さん。ザクさんにはこのメンバーの中でチームを組んでもらわなきゃいけないので、そのメンタル尊敬しております』
(ん? メンタル? なに、どういうこと?)
久道の困惑は増すばかりである。
久道は慌てて配信者大会の詳細についてこのとき始めて細かく目を通した。
『ゆうだま』が招待してくれた際に送ってもらったメッセージ。
それを深く読み込んでいけば……久道は固まった。
そんな久道を置いて気ぼりにして、配信は続く。
『うん♪ メンバーを組むのはあくまで自主的にって感じだけどザクさん快諾してくれたからさ。そこはホントに助かったんだよね♪』
『ザクさんの英断……すごいですね~』
目を見開いて久道は固まった。
そう。自主的にメンバーを組まなければならないのだ。
つまりプロのメンバーにどうにかしてチーム入れて貰える様に頼みこまないといけないということ。
キレ芸の自分が……。
ただでさえ、場違いな自分が……。
ザクは心臓をバクバクと高鳴らせながら配信をそこで閉じた。
プツっと音が切れゆうだまの綺麗な声音がそこで止まってしまう。
今更ではあるが、しっかり募集要項の確認……ゆうだまの長文メッセージを深く読み込むべきだと久道は自分の愚かさを嘆いた。
―—―だからだろう。ザクのSNSアカウントにはザクを弄るメッセージが多く確認されたのだ。
【ザクくん、頑張ってメンバー募集してな♡】
【無理難題で草すぎるw】
【ザク、頑張れ! メンバーを頑張って募集募集】
【ザクが入るチーム……どうなるか楽しみだわ(笑)】
そんなメッセージを確認してザクは思わず項垂れる。
(これ……終わっただろ、マジで。何してんだよ……俺)
その日、SNSでは『ザク、配信者大会』のワードがトレンドに入っていた。
(勘弁してくれ……マジで)
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