配信者大会の準備です?

 ここは、とある会議室の一室。

 企画の発起人にでもある、大物Vtuber『ゆうだま』は裏方の者と談義を交わしていた。


 談義の内容は『配信者大会』について。


 FPSの大会で配信者同士がそれぞれチームを組んで配信するという至ってシンプルなものである。


 心なしか気分の良いゆうだまはその待機室で一人、ご機嫌よくSNSアカウントを眺めていた。


(……あっ、ザクって人。またまたバズってる……! 配信者向けのプレイングしているし……この人入れたら絶対盛り上がるよね♪)


 内心でそう思い込んでニヤリ顔を浮かべるゆうだまであるが———。

 そのことを裏方の者に伝えると、反応は思ったほど芳しくなかった。


「今バズってる個人配信者の方ですか……」

「え〜何その反応は!?」

「全然バズってる方ですし盛り上がるのは分かるのですが……」


 裏方の者はザクの資料を確認しつつ苦言を呈す。大会に参加すること自体に異論はない様だが……ある問題があった様子。

 では、その問題とは一体何なのか。


 裏方の者は苦笑を浮かべながら答えを口にする。


「この方とパーティーを組みたい方がどれだけいらっしゃるかが問題かと……」


 例年行われる配信者大会は三人で一チームの構成とされている。

 プロゲーマーやプロに匹敵するゲームの実力をもつVtuberなどが主な参加メンバーなのだ。

 そのため……。


「ただでさえ、勝ちに飢えているプレイヤーが多く参加する大会です。そんななかでこのザクさんと組みたがる方なんて……」


 キレ芸を武器としたゲーム実況者ザク。

 バズりを見せ、知名度は上がっているもののゲームで悉く負けてしまうその才能に付き合いたがる者はいないだろう。

 余程の物好きくらいしかまずいないと断言できる。


「ふっふ〜ん♪ 私がバズらせたんだよ? ね、凄いでしょ褒めて褒めて‼︎」

「ゆうだまちゃんが凄いのは認めますが、彼の参加は……」

「要は彼と組みたがる人がいないってことだよね?」

「はい……なので見送るしかないかと。良い提案だとは思うんですけどね」


 と、裏方の者が苦笑を浮かべたそのときである。ゆうだまは閃いたと言わんばかりに口角をつりあげるのだ。


「ならさ♪ 私が組むってのはどう?」

「な、何を言ってるんですか!?」


 思わず裏方の者は席から立ち上がって声を上げた。数瞬で慌てて席につくも、ゆうだまを咎め始める。


「ゆうだまちゃんには他のメンバーがいるじゃないですか。なので突然そんなことを言われても困ります」


 ましてやゆうだまのチームは優勝候補ともされているほどのチームなのだ。

 裏方としてはゆうだまの提案を飲むことはできないだろう……。


「う〜ん、それもそっか。でもやっぱり勿体ない気もするんだよねぇ」


 バズって影響力が出てきてのこの才能。

 そして、タイミング的に噛み合う配信者大会。正直言ってできすぎていた。

 そして、この大会を見てくれる視聴者も盛り上がってくれるに違いないと確信があるからこそ、ゆうだまは残念でならない気持ちになる。


「もし、このザクさんがチームを組めたら参加は問題ないんだよね?」

「新しいメンバーを急に持ってくるとかはなしですよ? 参加する既存内のメンバーで組んでもらう、これが条件です」


 すでにこの大会への参加が決まっている有名配信者の中からザクと組みたい者を二人募れば参加自体はOKだという話である。


「うげぇ」

 ゆうだまはわざとらしく可愛らしい舌をぺっと出した。


「それは結構厳しそう……」

「当然です。皆さん影響力が欲しい人たちではないですからね。勝ち、優勝を本気で目指している人たちなんですから」

「……そっか〜。ホントもったいなくて残念だよ……」


 と、ほぼ諦観の表情をゆうだまも浮かべたところで————。

 ガチャと扉が開かれた。


「あっ、ヤミちゃん……来てくれたんだ〜」

「ヤミさんお久しぶりです」


 登録者数410000人を超え、あるプロゲームチームに所属する有名Vtuber『桜ヤミ』の登場である。

 実はこの大会の主催にあたってヤミを呼び出すことにしていたのだ。

 ヤミは色々と忙しない日々を送っているためこうして遅れての登場となる。


「今日は大学だったの〜? ヤミちゃん」

「そんなんじゃないですよ……あっ、マネージャーさんご無沙汰です」

「ね、ね! 私この間さ〜マホちゃんとのコラボ見たけどザクさんに似てるっていう子、組織に入れたんでしょ!?」

「……まぁ数字が稼げる逸材でしたからね。下心はなさそうでしたし」


 もっとも、ヤミこと鈴香は下着姿を見られるというハプニングは発生してしまったが……。


「それで、今回の大会の参加メンバーを確定させるために私がここに呼び出されたってわけですよね?」


 騒ぎたてるゆうだまを無視して、裏方の者に鈴香は尋ねた。

 すると、裏方の者は小さくその場で頷いてみせる。そして参加メンバーの資料を一通り鈴香に提示した。

 彼女はずらっと参加確定メンバーを眺める。

 多くが例年通り参加している有名配信者だったため、驚きなんてものはなかった様子だ。


「なるほど……まぁ私としては問題ないかと思います」

「このザクさんはどう思う? ヤミちゃんはさ」

「もっとも、参加自体は別にいいと思いますけどまぁチームが組めないと思いますよ?」


 それは裏方の者と全く同じ指摘であった。


「登録者数もそれなりに多いですしね」


 そう付け加えると、ゆうだまは項垂れてため息をついた。


「やっぱりそこだよね……。はぁ、ヤミちゃんが組むってのはどう? 数字は取れると思うけど」

 ゆうだまの提案に鈴香は瞳を冷たく細めて答える。


「私は数字も取りたいし優勝もしたいんです。ザクって方がどんな方かは分からないですけど……ゲームに負ける才能を持っている方とは断じて組みません。当たり前じゃないですか」


 そこまで言ってから一白置いて、鈴香は続ける。


「優勝した上で数字も稼ぐ……それが私のやり方です」

 どこまでも貪欲で傲慢なその瞳に思わずゆうだまは息を詰まらせる。

 見かねた裏方の者は、ゆうだまの肩を持つことにした。


「まぁダメ元で……ザクさんに招待のメールを送るのはありだとは思います。ダメ元ではありますが」

「え、ほんとに!? やったぁ……」


 目に光を宿らせて笑みを浮かべるゆうだまだがそんなゆうだまを認めると、ヤミは小さく息をついた。


「組みたがる人がいるわけないじゃないですか………いるとしても、マホぐらいですよ。それ以外は断じていないと言い切れます」


 今回の参加メンバーを見ると間違いなく断言できる。危険分子を持ち込みたがるプレイヤーなんて一人もいないのだから。

 そんな言葉を気にも留めず、ゆうだまはザクへと招待のメールを送る手続きを進めていく。


 随分と余裕な態度を取るゆうだまにヤミは腕を組んでため息をついた。


♦︎♢♦︎


 一方、その頃———ザクはといえば。

 有名配信者、紫桃マホとオフでFPSをプレイしていく中。


(これ、もう……先輩じゃね? 嘘だろ……)


 と、確信にいたり嫌な汗を額ににじませていた………。

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