疑われます?

 FPSのデュオ。それは二人でチームを組んでオンライン対戦していくという形式である。

 鈴香の一対一でバトルする時とは違って今回はあくまで二人で協力するプレイングが求められるだろう。

 勝ちに貪欲になるより、協調性が大事になってくるのだ。

 久道はキャラクターの選択から慎重に選んでみせた。


(……本当は他に得意キャラいるけど、サポート重視のキャラの方がいいだろうな)


 と、あまり自分の意見を優先することはなく協力の姿勢を見せることにした。


「……ん、ガッド使うんだ。私はブラウだから相性は良いかな……」

「防御重視のキャラ選択ですか……攻撃はこちらが頑張りますね」

「ん、そうしてくれると助かる」


 奇妙な緊張感が胸を支配し、久道はふぅと軽く息を吐いた。

 久道はサポート重視なキャラを選んだこともあって、美也がやりやすい様なプレイングをしようと努めたのだが………。



 結論を言おう。

 久道と美也の相性はすこぶる悪かった。


「ん、そこもっとガ〜ってしてくれると助かる‼︎」

(が、ガー〜って何!? ガー〜って!?)


 恐らく久道の攻めが足りないからもっと攻撃ということなのだろうが、久道は攻撃特化型のプレイングをしたことはない。

 そのため、美也の指示についていくことが困難だったのだ。

 文句の一つでも付けたいところだったが、足を引っ張ってしまっているのは久道のため黙って言うことしか聞けない。


(めちゃくちゃ上手いんだよな……プロかと錯覚するほどには)


 実際に美也とプレイをして感じ取ったのは、天性の感覚の持ち主だということだ。


 美也の敵を撃ち抜く能力。

 それが並外れており、スナイパーライフルの腕は久道も目を張るほどだった。


「……どうなることかと思ったけど、なんだかんだで生き残れてるね……」

「みたいですね」


 迷惑をかける時間が続き一時はどうなることかと思わされたが、なんだかんだで久道と美也の二人は最後まで生き残ることができていた。


「……ありがと」


 ふと美也が久道に感謝の言葉を伝えた。


「……え?」


 呆然とした声を漏らす久道を認めると、美也は柔和な笑みを浮かべて続ける。


「私の無茶なプレイングについてきてくれて……それと回復薬も本当は持ってないのに持ってるって優しい嘘をついて私に回復薬譲ってくれた。あのときは助かった。だから……ありがと」


 美也の真っ直ぐな言葉に久道は息を詰まらせた。

 どうやら見抜かれてしまっていたらしい。

 そう。久道は自分の回復よりも美也の回復を優先させる立ち回りをしていたのだ。

 気恥ずかしさから久道は話題を変えて誤魔化した。


「……まだあと三組残ってますから、集中していきましょう」

「……ん、でもギアが上がってきたからこれは勝てそう」

「頑張りましょう」


 そうして、互いに声を掛け合って試合を円滑に運んで行ったのだが……結果は敗北。

 最後の一組に綺麗に漁夫の利を取られる形で完全にやられてしまうのだった。

 久道は自分のやられ方、そして最後に勝ちきれなかったことに唇をかんで、美也に頭を下げた。


「スーっ、ごめんなさい。あのときもっと俺がっ!」

 と、久道はしばらくの間……頭を下げていたのだが美也からの返事がない。

 無理もないだろう。勝ちを確信しての試合運びだったのに最後は綺麗にやれてしまったのだから、その屈辱は相当大きなもののはずだ。

 が、美也は珍しく目を丸くさせ呆然としていた。


「……この、プレイングの才能。この、声……この気遣い」

「え?」


 驚愕と言わんばかりの顔でこちらの方を見てきた美也に久道は困惑の声を漏らす。

 もしかして、と美也は続けて口を開いてきた。


「ザクさん?」

「……ん?」


 聞きなれない言葉に久道は目を丸くする。瞬間的に、反射的に久道は首を傾げてしまっていた。


(ザク……ザクっていったか? え)


 困惑と動揺が内心では隠し切れない久道に追い打ちをかける様に美也は再度、その名を口にする。


「配信者の……あの話題のザクさんですか?」

「い、いやぁ……誰か分からないですね」


 乾いた笑みを浮かべて久道は誤魔化した。

 身バレほど配信者にとって恐ろしいことはない。クリーンな配信ではなく、キレ芸をしている久道にとってはその恐ろしさは並みのものではなかった。

 久道は平静を装って美也に尋ねる。


「ザクさんですか。でも……どうしてそう思ったんですか?」

「私、ファンだから……分かる。もしかして違う?」


 確信を持った双眸で見つめられるが久道には誤魔化すという選択肢しか頭の中にはなかった。


「いやぁ……申し訳ないんですけど人違いかと」

 言って苦笑を受かべると、表情を変えぬまま美也は続ける。

 心なしか頬をちょっぴり膨らませて。


「じゃあ、もし嘘だったら罰をつけてもいい?」


 こてん、と無表情ながらに首を傾げる美也だが、久道は内心で冷や汗をかきながらも努めて冷静に言葉を紡ぐのだ。


「いいですよ」


 もっとも、それが断言できる理由については、絶対バレることはないという確証を久道はもっているからなのだが……。


(ファンなら、明言さえしなければ俺がザクだっていう証拠は持ってこれないだろうからな……)


 嘘をついていることに多少の罪悪感を抱く久道であったが、彼は知らないのだ。

 目の前にいる相手が近々コラボする相手の張本人であるという事実を。


 そして、今夜に。

『今日もしよかったら、一度配信前に練習しませんか?』

 なんて文言が紫桃マホから送られてしまうことにも。


(……夜が楽しみ)


 ザクが久道だと絶対的な確信を持つ美也は、久道に詰め寄りたい気持ちをぐっと堪えて、不適に内心で笑ってみせていた。


(……嘘ついた罰として配信でネタにしちゃうんだから、ね)


 そんな風に美也が邪悪な笑みを浮かべていることを久道は知らない。

 

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