配信者同士の対決!?

 ———カチャカチャ、カチャカチャ。


 コントローラーを操作する二つの音が室内にこだまする。


 早速、勝負をすることになった久道と鈴香がプレイし始めたゲームは、TVゲーム型のキャラが殴り合うことで対戦する所謂いわゆる格ゲーというやつだった。


(中々やるじゃない……)

(佐々宮さん……意外とゲームできるんだな)


 両者の実力はほぼ拮抗。

 開始時点でお互いのキャラが殴り合い、残機もすぐに減らされることはない状態が続く。


 守り。攻撃。守り。攻撃。


 一連の動作を繰り返し、勝負はジリ貧に。

 そんななか、久道は鈴鹿に対して関心を示し、鈴香は内心で焦りを見せていた。


(……この覗き魔。なかなかやる……)


 洗練された動き。考えられたコンボ。

 久道の操作するキャラクターには無駄な動きが見られなかった。

 プロゲーマーであるからこそ、鈴香には分かってしまう。


(……初心者じゃない。基本動作はモノにしてる)


 それに加えて、よく練習しているだろうこともプレイを通して彼女には伝わってきていた。

 鈴香は内心で久道に申し訳程度に謝罪する。


(悪かったわ……。ちゃんとここに入りにきたんだってことは伝わった)


 だが、彼女には負けられない理由がある。

 それは他ならないプロゲーマーであるから。

 誇り高いチームに所属している一員であるから……。

 鈴香は負けられないのだ。


 彼女はスゥッと瞳を細めると、テクニカルな動きを見せ、久道の動きを封殺していく。


(……え?)


 その動きに久道は唖然とした。

 数種類の攻撃に及ぶコンボ技。

 そのどれもこれもがすんでのところでかわされ始めたのだ。

 明らかに鈴香のプレイングは進化を見せていた。


(……いや、変態すぎるだろ、それは)


 思わず久道は鈴香をそう評したが、久道も必死に追い越されまいと奮闘する。

 それは、ゲーム実況者として一女子大学生に

ゲームで敗北するということは、沽券に関わることだからに他ならない。

 久道も本気のスイッチを入れて鈴香の隙を何とか突こうと、作り出そうと、キャラを操作した。


(さすがに……私の本気にはついてこれないか。まぁなかなかやるのは認めて———)


 あげる、と鈴香が内心で呟こうとしたそのとき。思わず鈴香は目を丸くさせた。


(う、嘘でしょ……これについてこれるの!?)


 そこには、鈴香の本気のプレイングに引けを取らない久道のキャラ動作が確認されたのだ。

 圧倒的な差を見せつけたと思ったのに、なぜか"いい勝負"へともっていかれる。

大差がつけれず僅差の勝負へと移行する。

 なんで、なんで? と鈴香の頭にははてなマークが浮かんだ。


(……っ。この覗き魔、一体何者なの? 私、プロなのよ? このゲームもそれなりに練習してきた……。私って強いはず。間違いない)


 自分に強く言い聞かせるが……なぜか"動き"が読まれている。

揺さぶりをかけられ、打撃をくらってしまう鈴香。

 少しずつ、少しずつではあるものの、劣勢へと鈴香は追い詰められ始めた。


(おかしい……おかしいこんなのっ!!)


 不思議と鈴香のコントローラーを握る力は強くなっていく。負けられないのに、と強く鈴香は自身に言い聞かせた。


 決して鈴香が引けを取っているというわけではない。ただ拮抗とした……いい試合をなぜかさせられるのだ。

 必然と緊迫、緊張感を生む試合運びとなってしまう。

 攻撃。守り。攻撃。守り。

 一連の流れを再びそうやって見せて、両者の残機が一つになったとき————。


(よしよし、これはいけるぞ‼︎ これは)


 久道は内心で勝利を確信して、プレイを進めていくものの、対する鈴香は内心で思わず眉を顰めていた。


(急に動きが鈍くなったんだけど……どういうこと? 単調になって分かりやすい動きね……これは罠?)


 そう勘ぐってしまうほどには久道のプレイングは急激にレベルが落ちていた。

 鈴香は油断することなく、それから、久道と残りの残機をかけて戦いをするも。


(よっっわくなりすぎでしょ。なにこれ、ふざけてるの? どういうこと?)


 一気に形成は逆転。

 鈴香が圧勝する運びで久道は敗北を期してしまう。


(うっわ。まじか……いいところまでいったんだけどな、マジで)


 内心で落胆する久道だが、鈴香は納得がいかない様子である。

 思わずキリッと目を細めて、久道を咎めようとした。

 明らかに最後のプレイは舐めていた、と思わされたからである。そう思うほどに久道のプレイングは退化しつつあったのだ。


(……舐めないでよ。最後で手を抜いて負けてないって言い張るつもり?)


 そう思いつつ、鈴香は久道の方を見やると彼女は固まった。


 久道は悔しそうに表情を歪めていたのだ。

 鈴香は小さな頃から、人間観察をすることが

多かったため、嘘か真かの表情を見抜くことができる。

 優れた観察眼を彼女は持っていた。


 そのため、久道の表情から作りものでない、つまり嘘の表情ではないことは伝わってくる鈴香。


 それが、分かると鈴香は提案せざるを得ない。


「……ね、ねぇ」

「いやぁ〜、負けた。佐々宮さんってゲーム上手なんだな」

「そんなことはいいの! もう一回、もう一回私と勝負して」

「え、う、うん」


 食い気味な鈴香に苦笑を浮かべかながら、久道は頷いた。

 互いに同じキャラクターのまま二試合目に移行する……。

 内心で鈴香はどくどく、と胸を高鳴らせた。


(……もし私の見立て通りだとしたら、面白すぎるでしょ、この男子。いやきっとないとは思うけどね)


 ほんのりと口角が釣り上がるのを鈴香は実感する。

 僅かな期待にかけながら、プレイを進めていくと一試合目と同じ様に序盤から中盤にかけては、互いに引けを取らない試合運びへ。

 そして、終盤になると勢いを見せる久道だがなぜか最後の最後で弱体化し敗北へと至った。


 悔しそうに表情を歪める久道を認めると、思わず鈴香は笑みをこぼした。


「……っぷ、ふふっ……こんなことホントにあるんだ、ふふっ」

「……え?」


 思わず唖然とする久道に鈴香は続ける。


「……そういえば、ここに加入できるか否かで勝負してたわね、私たち………。合格にするわ。今後、ここに来てもいいことにする。ちゃんとゲーム初心者じゃないことは分かったから」


 にこやかに、柔和な笑みを浮かべる彼女を認めると久道はホッと安堵の息をつくと共に内心でガッツポーズを決め込んだ。 


(よく分からないけど……とにかくよしっ‼︎ これで、俺もゲームスキル上達できそうだ。佐々宮さんめっちゃゲーム上手みたいだしな)


 頼もしいゲーム仲間ができた、と思うと久道は胸を躍らせた。

 もっとも……大学の有名な美少女と接点が持てて嬉しい、というのが一番の嬉しい気持ちではあるが。


♦︎♢♦︎


 さて、そんな久道に対して鈴香はというと。

 決して久道と接点を持てて嬉しいから、また彼のゲームスキルが上手だから彼をに入れようと決断したわけではなかった。


 ——何事にも建前と本音というものがある。


 ゲームをしっかり練習してたから。

 ちゃんとゲーム初心者ではなかったから。


 久道をに入れたわけではない。


 鈴香が久道をに入れた理由。

 ことごとく、参加希望者が集まるなか全然加入させようとしなかった鈴香が久道を加入させたのは……利己的なものに過ぎなかった。


(こんなゲームの才能……聞いたことないわ。配信で触れれば、必ず伸びる……ふふっそれだけは言えるわ)


 ただ、それだけ。

 それだけの理由で……いや、鈴香からすればその理由があるからこそ、久道をに加えたのだった。



——当然、鈴香こと『桜ヤミ』登録者410000人を超えるV tuberの配信で、この一連の流れが公開されることを久道はまだ知らない。


 同時に久道が配信者である事実をこの時はまだ『桜ヤミ』も知らずにいるのであった。

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