キレ芸配信者、修羅の予感?

(ふぅ、食べた……食べた)


 謎多き先輩——先導美也と食事を共にしてからのこと。

 あれから、食事を終えると先輩は忙しいのかそそくさと空き教室を後にした。


『……また会えたらいいね』

 との言葉を最後に残した美也だったが、それに対して久道は苦笑いを溢すことしか出来なかった模様である。


 さて、美也に続いて食事を終えた久道は大学のゲーム組織がある場所へと一人、足を運ばせた。


(こ、ここ……だよな)


 調べてでてきた位置情報が間違っていないかを久道はスマホの液晶画面を見つめて確認を取った。

 間違いがない、ということが分かると久道はホッと安堵の息を漏らす。

 それから、暇な時間を潰すためにふと『ザク』のSNSアカウントを起動させるのだ。


 というのも、現在の時刻は十三時三十分で、調べた情報によるとこのゲーム組織については十四時からの活動となっているため、三十分ほど空き時間ができてしまう。

 その空き時間を埋めるために、何とはなしに久道は『ザク』のSNSアカウントを起動させたのだった。


(……え? おいおい、嘘だろ)


 確認するや否や内心で絶句し目を丸くする久道。

 ここ数日、バズってしまった気恥ずかしさから沈静化を図る意もあって……ザク用のSNSアカウントは確認すらしていなかったのだが……。

 ザクはこの時、初めて気づく。

 バズった影響というのは決してすぐにほとぼりを冷ますわけではないということに……。


「……まじかよ」


 思わず小さな声でぽつりと呟く。

 大量に届いている通知を確認すれば、そこには羞恥の権化ごんげと言っていいほどの切り抜き動画を自分宛てに何件も送られていたのである。


 何件も渡って送られている切り抜き動画を確認すると、思わずザクこと久道は羞恥で顔を真っ赤にさせた。


(勘弁してくれ……マジで)


 その切り抜き動画には上手いこと編集がなされていた。


 コメント欄の指摘に対して、いつもの様にキレるザク。そのあとに例の有名配信者『ゆうだま』の動画からの切り抜き。

 ザクが律儀にゆうだまに教えを乞う姿が写される。その次には、ザクが『あれ俺じゃない‼︎』と弁明する配信の姿。

 ……が、あまりに酷似したプレイングで『嘘』とコメント欄で指摘される始末。

 ザクは居心地が悪くなって、配信を切ることにしたものの、最後に視聴者に登録者100000人を突破したことを感謝する。


 その一連が纏められた優秀な切り抜き動画だったのだ。

 ……結果として。


【やっぼ、ツンデレ。次の配信いちゅかな?♡】

(……勘弁してくれ)


【ツンデレザク君。今は裏で練習中なのかな? 次の配信待ってる‼︎】

(うるせぇ、練習とか言うんじゃねぇ)


【ツンデレなの可愛いぞ、ザク‼︎】

(ツンデレ、ツンデレ……ちげぇわ)


 おかげさまで、SNSアカウントに届いているメッセージは9割型、『ツンデレ』とザクを弄るものになっていた。


(メッセージ……確認しない間にどうなってんだよ、マジで)


 弁明の動画配信からまだ数日しか経っていないにも関わらず、ザクの登録者は気づけば125000人を突破。

 ザクが最後に確認した登録者からもう2.5万人増えていることになる……。


(みんな、おかしいってマジで)


 嬉しい気持ちと弄られる現状に歯痒い思いもするザク。

 バズるのは配信者として嬉しいことには違いないのだが……ゲームスキルの上手さでバズって欲しかったザクである。


 いつの日か、ゲームが上達し視聴者から。

【ガチ上手すぎだろ】

【まじ、ザクしか勝たんわ】

【ザクにゲーム教えて欲しい】

【ザクのFPSが配信者の中でダントツ】

 などと言ったプレイヤースキルを誉め称えるコメント欄を夢見ていたが……。


 たとえ、たとえである。

 今のまま……ゲームが上達したとして。

 きっとコメント欄はこうなってしまうだろう。だからこそ、ザクは焦ってしまうのだ。

 上手なプレーで視聴者を魅せても……。


【裏でれんちゅういっぱいしたもんね、ザク‼︎】

【上手くなりまちたね♡】

【ザク、上手になったけど裏で律儀に練習してそ♡】

 などといった具合に誉め称えるどころか弄りをエスカレートさせる未来しかザクには見えなかった。


 ザクの配信スタイルは基本自由。

 定期配信ではなく完全な不定期配信。

 そのため、沈静化するまで、ほとぼりが冷めるまでは配信ができそうにない……と、ザクは配信用のSNSアカウントを起動させることは例の弁明配信以降はしなかったのだが、思わず確認してしまったことをザクは後悔した。


【次の配信楽しみにしてる】


 弄られつつも、こう言われてしまっては素直に憎むこともできない。

 逆に配信できてなくてごめん、といった申し訳ない気持ちにさせられるのだ。


「はぁ。マジで……どうしたもんかなぁ」


 いても経ってもいられなくなったからだろう。

 ……また、落ち着きが見られずそわそわとしてしまったからだろう。

 ザクはまだゲーム組織の開始時刻十四時を回っていないにも関わらず、ドアノブを捻りドアを開けてしまうのだ。


 ……すると、そこには。


「………は?」


 数瞬。

 侮蔑の表情を浮かべる大学の有名人、佐々宮鈴香が確認されたのだ。

 ザクは目を見開いて冷や汗をぞっと思わずかいてしまう。

 何故なら彼女——佐々宮鈴香は着替え途中の姿であったのだから。

 衣服をはだけさせさせながら、彼女は正真正銘、着替えていたのだから………。


「あ〜、えっーと、お邪魔いたしましたぁ!」


 反射的に大きな声でそのまま踵を返そうとするも———。

 背後から、ゾッとする声を鈴香から久道は受け取ってしまうのだ。


「……逃げないで」

「は、はいっ‼︎」


 思わずピンと背筋を伸ばす。

 どうやらバズりよりも怖い未来しかザクこと久道には残されていない様である。


(どうしてこうなるんだあああああああ)

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