有名配信者との接触

 沢山のぬいぐるみが置かれたベッドに、もこもこ感あふれるピンク色の壁一面。

 可愛い女の子らしい部屋の中には、似つかない銃声の音が画面から聞こえていた。


「み~んな、今日も蹴散らしちゃうよ♪」


 午後二十二時過ぎ。規則正しい生活をする子ならもう寝る時間帯であるが、可愛らしい声をマイク越しに溢す彼女は元気よくFPSのゲーム配信をしていた。


 その正体は登録者700000人、同接4500人を超えるVtuber『ゆうだま』本人である。

 画面の中——ドンドンとFPSで撃ち合う銃声の音が聞こえる中でゆうだまの声は似つかないものの、ゆうだまの実力は紛れもない本物である。


 客観的に見て勝てないと言われる局面でも一気に巻き返せるだけの実力を彼女は持っているのだ。


 現に彼女は多くのキル数、そしてダメージ数を獲得しており、彼女のプレイングにコメント欄は賞賛の声が多数あがり加速を見せていた。


【ゆうだま、マジ最強】

【マジ上手すぎだろ笑】

【勝てる気せんw】


 ゆうだまは可愛らしい声の割にはゲームの実力はピカ一なことで有名な配信者だ。

 トークはそこまでだが、ゲームの実力で言えばプロにも引けを取らないだろう。こと、FPSに置いては尚更である。


 さて、そんなゆうだまが一位を取って、もう一戦始めようとしたときだった。


「よろしくお願いしま~す」


 彼女の甘い声に続いて野良ソロのプレイヤーが一人挨拶を返す。

『よろしくお願いします』

 続くもう一人の味方の野良は、無言であった。

 特にそのやり取りだけでは盛り上がる場面はないのだが、このマッチングが後々今日一の取れ高となるのだ。

「この野良の人、声いいね~♪ 強かったら守ってもらっちゃおうかな」


【ゆうだま、守るとか無理にも程があるw】

【俺が守ってもらいたい(笑)】

【野良の人、期待値上がりすぎだろ笑】


 流れていくコメントを確認して『ゆうだま』は『そうかな~期待したいけどな~』と零して、茶番を入れつつ、プレイを進めていく。

「え~と、ここに敵がいると思うので確認の方して貰って大丈夫です」

 そんな中、ふと野良の味方であるプレイヤーの一人がそう言った。

「ねえねえ、聞いた聞いた? 皆。その位置に敵が隠れてることなんて滅多にないよね~」

 あはは、と笑い流すゆうだま。視聴者も視聴者で————。


【この野良なに言ってんだ(笑)】

【え、なにギャグ言ってる、これ】

【野良の人おもろいw】


 など、いってコメント欄は加速していった。

 コメントの加速を確認し盛り上がっているのを実感すると『ゆうだま』はニヤリと画面越しに邪悪な笑みを浮かべだす。

「ね、ね! この野良の人……一回信じてみてもいいかな? 面白そうじゃない?」


 私強いから大丈夫、と言わんばかりにゆうだまは目の色を変えて好奇心に満ち溢れていた。


【良いんじゃない?】

【面白そうだな(笑)】

【悪いゆうだまちゃんでた(笑)】


 コメント欄のGOサインを確認したところで、ゆうだまはチロりと赤い舌先を出した。

VCをつけて『了解です』と甘い声を漏らす彼女。それからVCを切って視聴者と笑いあうのだ。

「本当にいるのかな~、こんなところに、さ」


 言いながら銃の照準を合わせていくと、本当に野良の味方が言った位置に敵の姿が確認できた。

 思わずゆうだまは目を見開いて自然と口角が緩んでしまう。


「えっ、ホントにいるんだけど……ははは、はははっ」

 ゆうだまは笑いを隠せずそのまま敵を一撃——ヘッドショットを決めてノックアウトさせる。

「……なに、この野良の人。ひょっとして凄い人なのかな? 声とかは聞いたことがないけど」

 ゆうだまが問いかけるとコメント欄は加速を見せて一時、驚きに包まれていた。


【あそこ、確認できないから読みで敵の位置当ててるってこと? やばいだろ】

【天才野良……現るだな】

【この野良の正体、何者なんだろ……】

【分かんね……】

【期待値えぐいぐらい上がったわ】

 と、いった具合に味方の野良にざわめくコメント欄。

 このゲームは五セット制で今は一セット目のため緩くやるプレイヤーも多いのだが、ゆうだまはスイッチが入った様子である。


「あっ、ギウンさん……装備とここに武器落ちてましたのでぜひ使ってください。ブラウさんも」

 今、配信内で話題に上がっている野良の味方である人が、そうゆうだまともう一人の味方に問いかけた。


 ちなみにこのゲームはそれぞれキャラクターを選ぶことができ、それぞれに役割が与えられている。


 ゆうだまは、攻撃特化のギウン、ずっと沈黙を貫いている野良の味方は防御型のブラウと言った具合だ。


「……ははっ、落ちてるっていってるけどこれ君が買ってくれたんじゃん。自分だけ弱い武器でいこうとしてくれてるって……きゅん」


 VCはつけずにゆうだまはおどけた様子で言って見せた。ゆうだまは続ける。


「みんなごめん♪ 私、この人についてっちゃうね」

 と、そんな爆弾発言を溢したことで、コメント欄は荒振りを見せた。


【は? 俺たちのゆうだま取るのは許さん】

【嘘だよな……】

【それはダウト】


 様々な反応を見せるコメント欄だったが、その後、すぐにその味方の野良はノックアウトしてしまう。

「え、嘘でしょ!? ははっ、褒めたらすぐにこうなるの一体どうなってんの? お腹、お腹痛いんだけどっ」

 ゆうだまは心底面白そうに笑ってみせた。

 コメント欄も『w』や『草』といったワードで埋め尽くされていく。


「はぁ~おかしっ。でも、私がいるからこのチームは負けないよ。見ててね、さっきの野良の人……」

 と、VCはつけずに配信内で言って、それからは彼女の独壇場だった。


 もう一人沈黙を貫いている野良はいたものの目立つことはなく全てをゆうだま自身で持っていってしまう。それで、第一セットは圧勝。


 続く第二セットでも、味方の野良の指示は的確で読みも完璧に近かった。

「あははっ、この人ホントに感覚、長けすぎてるんだけど」

 笑いながら、なのに、とゆうだまは付け加える。

「この人、全くエイムが当たらないし……ダメージも稼げてないし、キルされてばっかりなの本当にどうして?」

クスクスと可笑しな様子でゆうだまは笑ってみせた。

コメント欄では———。


【ワンチャン、ゆうだま本人だと知って取れ高意識してるニキじゃね?】

【取れ高考えてるファンっぽそう】

【それ。本当はめちゃ上手いプレイヤーだろw】


 ゆうだまを知るファンが仕込んでやっていることなのではないか、との意見が目立っていた。

 コメント欄の反応を確認すると、彼女は小首を傾げた。その様子から納得がいかない様子である。


「う~ん、と。じゃあこの人に聞いてみよっか。私のこと知ってます? ってさ。私は違う様な気がするからね」


 彼女とこれまで偶々マッチングしてきたファンは皆がそれぞれ歓喜に打ち震えた反応を示したり、まず『本物ですか?』と聞いてくることが多かったため……彼女の中でファンが狙ってやったことだとは考えにくかったのだ。


 ゆうだまが疑問に思いながらも聞いてみようとした第三セット時——。

 驚いたことに先に口を開いたのは向こうの方だった。


『あの~すみません。良かったらなんですけど……FPSの上達方法を教えていただけないですか?』

 突然のことに一瞬、呆気に取られたゆうだまだったがすぐさまVCをオンにする。


「急にどうされたんですか?」

『いえ、ギウンさんめちゃめちゃ上手なのでコツをお聞きしたいなと思いまして……。あっ、ブラウさんにもお聞きはしたいんですけど聞き専でされてるみたいなので』

 この野良の発言からゆうだまの視聴者は察する。またゆうだまも察する。


『彼は、ゆうだまのことを知らないのだ』と。


 ゆうだまは、その味方の野良に応えた。

「え~と、まずコツは———」

 ゆうだまはプレイングを褒められ、気分が良くなり様々なコツを視聴者にも向けて発信した。

 キルするためのコツや、銃の照準を安定させるコツなど初心者に向けた基礎の中の基礎のこともゆうだまは伝える。

 伝え終わった後、ゆうだまは何げなくその野良に尋ねた。


「ちなみに、普段はどれくらい練習されてるんですか?」

「う~ん、結構練習してますね。するときは十時間以上プレイしますし」

「あ~一緒です、一緒。お互いに頑張りましょうね」

 とのやり取りをした後、ゆうだまはVCをオフに切り替えた。

 コメント欄は十時間以上プレイするときはすると零した野良の味方に上達してほしい、といった意見が募っていく。


【ゆうだまのアドバイス……これで、この野良強くなればいいんだけどな】

【成長してまたマッチングして欲しいな】

【この野良、礼儀正しいし面白いからまたマッチして欲しい】


 再びマッチングすることを望む視聴者の声にゆ、うだま自身も頷いた。

「あの野良の人、読みとか感覚は完璧だから上達すればバケルのは間違いないし、私もまたやれたらいいな~」

 そう零し、このマッチもゆうだまの独擅場となって勝利が確定。

『お疲れ様でした』

「お疲れさまでした~」

 と、互いにねぎらいの言葉をかけてこのマッチングは終了を見せた。


 マッチが終わった後も————。

【あの野良マジで面白かった】

【今回神回だったな】

【それ】

【マジでまたマッチして欲しい】

【成長して帰ってきて欲しいな】

 コメントはそんな温かいメッセージばかりで溢れていた。


 それからしばらく、FPSの対戦をして、一通りの時間が経ったところで配信を終了させるゆうだま。


 次は投げ銭してくれた視聴者の人への感謝とコメントを読み上げるコーナーへと移行する。


 特に今回の投げ銭の時にでも多かったのは味方の野良についてのものだった。


 そして、彼女の元には何件かこんなメッセージが寄せられていた。


【この動画、切り抜きオッケーですか?】とのメッセージが。


「あ~いいよ~私って切り抜き基本、自由にしていいスタンスだから」


 そう溢すゆうだまだったが、後々……これが大きな波乱を呼ぶことになるのを彼女は知らなかった。



 そんな配信があってから、二日後。

 こんな切り抜き動画が編集されて、投稿されたのだ。


『悲報;ザク、裏でめっちゃ練習してること発覚』との切り抜き動画が。


 そこには普段キレ芸をするザクの紳士的な姿と裏ではゲームなんて練習してない、と零すザクが実は裏ではめちゃ頑張っているゲームに対しての姿勢が好意的に映る様な編集が加えられたいたのだ。


 その結果、ザクの登録者はみるみる内に増えていき気づけば100000人を突破していたのだ。


 その登録者を確認したザクはというと————。

「……ふぇ、ふぇっ?」

 素っ頓狂な声を漏らして自分の目を何度も疑っていた。

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