FPSの配信
『よろしくお願いします‼︎』
『よろしくお願いしま〜す』
「よろしくお願いします」
味方との声掛けと挨拶、そしてドンドン、バチバチ‼︎ と、けたたましく鳴り響く銃声。
翌日のこと、同時刻20時過ぎ。
ザクは一人称シューティングゲーム、所謂FPSのゲーム配信を一人、していた。
【味方に迷惑かけんなよw】
【キルできるといいなぁ笑】
【勝てたら奇跡まである】
配信を始めて早々、コメントは言いたい放題の嵐。流れてくるコメントのどれもこれもがザクのプレイヤースキルを煽るものだ。
それは、開始早々にザクが『今日は5キルしてみせるから、見とけ‼︎』といったことが原因でもあった。
通常、5キルというのは並みのゲーム配信者であれば容易にこなせる難易度。
だが、ザクのプレイヤースキルを鑑みるとなればその難易度は一気に跳ね上がる。
結果、コメントは【5キルとか無理やろ笑】などといった意見で埋め尽くされた。
ザクはめげずに、キレを見せながらFPSをやっていくが……。
有利な位置を取れなかったり、敵に銃の照準を合わせられなかったり……と味方チームに迷惑をかけてしまっていた。
『おい、このganbaってやつ下手すぎやろ』
『ganba、戦犯やんけ』
野良のVCにあたり、きつい言葉をザクは投げかけられた。ちなみに『ganba』というのはザクのIDアカウント名だ。
このマッチはチーム戦となっているため、勝利や敗北というのは自分だけのものではない。
そのために、このVCの発言というのは、至極当然の意見であった。
【野良、ガラ悪っ‼︎】
【けど、正論でしかなくね?笑】
【神回不可避w】
【突然の辛辣VCきちゃぁぁぁ!】
野良の発言にコメントの流れる速度は加速を見せ、盛り上がっていく。
普通なら、こう正論を言われてしまっては黙り込むか謝罪を何度もするか、の二択に迫られてしまうものの、ザクはVCをつけてこう溢すのだ。
「ganbaは頑張っとるんやから、そんな怖いこと言うなって‼︎ ごめん。こっから、こっから‼︎」
『は?』
『意味分からん……』
テンションを一人だけ高めて頑張ろうとするザクに野良の二人はついていけないようだった。
「sorry。マジごめん……次当たったらまた一緒に頑張ろな!」
『二度とやるか‼︎ もう当たりたくないわ』
『下手すぎなんだよ‼︎』
と、散々に言われてしまい……結果としては敗北。
戦犯をかましたザクのせいでチームは負けたといって過言ではなかった。
ザクは罪悪感を抱きながらも、ふぅと内心で息を吐く……。
(実戦を積まないとどうしても上手くなれないからなぁ。マジで申し訳ない)
現に、一人での練習はしてきたが中々上手くいった試しはなく……友達からも実戦あるのみだと上達方法としては言われてきている。
【鬼のメンタルで草】
【これだからザクは……】
【まだ0キルなのが最高w】
と、いった具合に野良VCに視聴者は大変喜んでくれた。ザクは目標の5キルを目指して、散々の言われようだったにも関わらず、FPSの試合をし続ける。
「さっきの野良さん、見てたらいいけどな。これからの俺の活躍をよぉ〜!」
【敗北促進の活躍ですw】
【ある意味の活躍笑】
【こいつのメンタルどうなってんだw】
【次も野良VCこい! VC勢こい!】
流れるコメントを確認しながら、ザクは次の試合へと移行する。
当たった野良は今回も二人でそれぞれザクと同じく
『よろしくお願いします』
『よろしく〜』
「よろです‼︎」
三人とも挨拶を交わし、協力する姿勢を見せる。視聴者も再びの野良VCの参戦にテンションを高めている様だった。
「おっけぇ、良いよ‼︎ 雰囲気良いよ‼︎」
【その雰囲気を直ぐにぶち壊す男】
【これがいつまで持つか楽しみだw】
【野良さーん、こいつ戦犯かましますよ(震え声……)】
またザクを煽るようなコメントが目立ち、ザクは『分かってないな……』と言わんばかりにチッチッと視聴者を宥める。
「俺の活躍はこれから、これから。次こそはいけんだって‼︎ マジで‼︎」
そんなザクの発言には聞き飽きたのか、視聴者は【でたぁ……】と引いているコメントを続けた。
そして、ザクが野良の味方二人と、敵との撃ち合いをしている最中——。
「うわぁ、sorry……あれには勝てる気しない」
「マジかぁ……こっちもやられたsorry」
野良の味方二人が同時に敗れて、ザク一人だけが取り残されてしまう……。
このゲームでは、敗れた味方は残った味方の視点で味方を応援することになるのだ。
『ganbaさん、マジ頑張ってください‼︎』
『ganbaさん、期待してます……!』
野良二人からの期待を受けた『ganba』ことザクは———
「よし、任せろ‼︎」
と、豪語し敵残り四人を索敵していく。
敵の位置を予測しながら、銃の照準を恐らく敵が隠れているだろう建物に合わせて様子を窺っていると——不意にそこから、敵が姿を覗かせた。
『おけ、今です!』
『これは貰いましたね‼︎』
味方のVCに反応するかの様にしてザクは敵を倒せると思ったのだが———直前で照準がズレ、逆に敵の弾が自分の頭に直撃してしまう。
つまりヘッドショットを決められたのだ。
【これで負けるの才能あるだろw】
【途中までの読み完璧だったのに笑】
【うっそやろw】
【これで負けるのマ?笑】
ザクの負けが決まったことにさすがの視聴者も驚きを隠せない。それだけザクの読みは優れており、勝てそうであったのだ。
なのに負けてしまうため、ザクは弄られる。
味方からは呆れられてしまう……。
『ま、まぁ……次、頑張りましょ!』
『最終ラウンドまでは耐えっす』
そう励ましてくれるものの、結果は……変わることなくザクが勝てるかもといったところで負けが続き、チームの負けが確定してしまったのだ。
『あ〜もうっ!』
『うざっ……』
途中までは温厚だった
「おい、なんであれ当たんねぇだよ! 意味分からんだろあれ」
【それはこっちが聞きたいw】
【エイムまじでどうなってんの?笑】
【ゲーム下手の才能って逆におもろい笑】
と、いった具合にザクのキレぶりにいつも見てくれる視聴者は様々な反応を示した。
「もう、このゲームまじで勝てんからやめるわ。ちょっとの間引退する……。まじふざけとるって……」
苛立ちながら溢す一言。
そのザクの発言に視聴者はこう返答した。
【このあとはなにすんの?】
【練習とかしないの?】
【ちなみにゲームってどれくらいやってるの?】
などのコメントが寄せられる。
ザクは仕方ない、とため息をつきながら配信を今日は閉じる旨を伝えた。
「このあとは特にないけど、ん? ゲームの練習? 全然しないわ。練習とかなにそれ美味しの? 感覚に決まってるだろ」
【まぁ、そりゃそうだような笑】
【ゲームに愛を持てw】
【適当にやりすぎやろ笑】
そう言ったコメントが続くがザクは、今からはもう寝る、とだけ伝えて配信を閉じた。
配信が切れたのを確認してから、ザクはふぅと一つ息をはく。
「あんなに惜しいとこまでいったんだし、練習あるのみだな練習……」
そう言い、視聴者には内緒の裏で練習に励むこと三十分前後。
『よろしくお願いしま〜す〜』
女の子のとりわけ可愛らしい声がザクの耳に届いた。思わず胸がドキッと跳ねてしまう。
基本的にこの手のゲームは男性プレイヤーが多いため、女性が来てくれるだけでも心臓が跳ねてしまうものなのだ。
(……配信者なのか? 声はめちゃ可愛いらしいけど)
そう思いながら、情報共有のためにマナーとしてVCをつけるザク。
だが、ザクは知らなかった。
この可愛らしい声の持ち主である人物が大手の個人系のVtuberである『yuudama』本人であることを。
そして、ザク側は先ほど配信を終えたばかりだが、向こう側は配信を始めたばかりなのだ。
この、ふとしたマッチングがバズってしまう一因となってしまうことをザクはこの時はまだ知らなかった。
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