ゲーム実況者、切り抜きにより大バズりした結果、多くの美少女配信者にネタにされ始める

脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー

キレ芸のゲーム実況者ザク

 配信者。

 それはインターネット上で動画の配信を行う人全般を指す言葉の意だ。

 昨今では配信ブームが起きており、配信者の数も少なくない。

 そのため、視聴数の取り合い競争が起きておりそれぞれの配信者たちは苦戦を余儀なくされている。

 キャラ付けからネタ作りに至るまで。

 配信者は視聴者の目に見えないところで、数字を伸ばすための工夫を施しているのだ。


 さて、そんな配信ブームが起こっている中。


「いょ〜し、今日もやってくぞ〜」


 夜の20時を回った頃。

 とある配信者(ゲーム実況者)——ザクはアイテムを使って一位を競う運転式ゲームのプレイ画面を開いて、配信をし始めた。


【こんザク〜】

【こんザクっす】

【きたきた!】

【カートか、楽しみ】

【こんざく】


 待機画面から、すでに数件かのコメントが寄せられている。

 ただの垂れ流し配信に近く、思ったことをただ適当にザクが話しながら色んなゲームをする、といっただけの配信なのだが有難いことに登録者は現時点で20,000人、同接——配信中に見ている視聴者数——は250を超えている。


 凄く伸びているといったわけではないものの、ザクの配信にはファンが一定層いるのだ。


 ——その理由として。

「おいさ。じゃあお前ら今日は俺10回連続一位になるまで終わらねえからマジ見とけ?」


【絶対無理だろw】

【ゲーム下手なのによくいう】

【耐久枠になってて草】

【でた、終わるわけないやつw】


 大言壮語。それは実力不相応な大きなことを言うことの意であるが、ザクの配信スタイルはまさにこれだった。絶対無理なことを最初に言ってプレイをし始めるのだ。

 流れてくるコメントに対して、ちょくちょくキレを見せながらザクはオンライン対戦の画面に移行する。


「俺の配信は視聴者参加全然OKだからな。IDはこれだから適当に入ってくれ〜」


 そうして、視聴者から人数を集めてプレイすることになった。

 このゲームは3・2・1の合図でカートを発進させるのだが、これの調節がなかなか難しい。アクセルを押しすぎたらパンク、押さなすぎると加速ができない……といった仕様をしていた。


「これ、むっずいよなぁ。調節調節っと〜」

 素の反応でザクが言うとコメントはほんの少し加速した。


【そこでミスるやつほぼいないんよ……】

【そこで泣き言いうやつ初めて見た】

【こーの配信、終わりませんw】


 どれもがザクを弄るコメントで、ザクは『うるせぇ! 見とけ』と視聴者を威圧する。

 ……だが、ザクは思いっきりパンクをさせてしまい、最初の段階では遅れが確定した。

 すると……

【ナイスパンク】200円

【メンバーシップに加入されました】

 投げ銭とメンバーシップの加入がそこでなされた。


「はい、パンク加入とパンクスパチャセンキュって………ふざけんな、おい」

キレながらザクはコントローラーを握ってプレイをしていく。

 現在の順位は9位。

 このゲームは三周した時点での順位が決めてとなるため、今の時点で焦る必要はない。

 だからザクは余裕のある言動を見せた。


「うぇい。これからこれから……‼︎」


 画面を食い入る様に見つめながら、ザクはアイテムを使って加速していく。

 と、そこで前方にいる相手のアイテムにザクは直撃し……加速は無駄となってしまった。


「おーい! そこで甲羅はおかしいって。なんで前じゃなくて後ろなん。意味分からんって」


 だが、今のは意図的にプレイヤーが後ろにアイテムを投げたのではない。ザクが一方的にアイテムあるところに突っ込んでしまっただけなのだ。

 つまり、ザクの一方的な思い込みである。


【ここまでくるともはや才能】

【初見です。ゲーム下手ですね笑】

【まぁどんまい。頑張……】

 など、多くのコメントが寄せられる。


「サンキュー、初見さん。『ゲーム下手ですね』ってそんなわけないやろがい‼︎ ここからなんだよ、このゲームは」

 そう自信満々に言い切り、ザクは気合いを入れて、二周目に突入するも、結果は振るわず順位は9位のまま。


 ———コメントでは。

【最初の言葉はどこいった……】

【これは配信終われないだろ】

【負け確定だね〜】


 その負の連続するコメントにザクは屈することなく迎えた三周目。

 ——唐突に転機は訪れたのだ。

 終盤のアイテムゲットで強力なアイテムを二つ手に入れたザク。

 一つ目のアイテムを使って一定時間最強状態となってザクは波に乗っていく。


「よしよし、いいぞ!!」


 そして、順位を上げていき5位まで上がってきたところ——二つ目のアイテムを使い、自分以外のキャラクターを弱体化させる強力なアイテムを使用した。

 キャラクターが弱体化すると必然的に速さが落ちてしまう……。

 ザクは今や一種の無敵状態だった。


「これは貰っただろ……!」

 と、思うザクである。


【お、これは……?】

【ワンチャン………?】

【え、嘘だろ】


 などと言ったコメントがいくつか見られる。

 ———が、曲がり道のところでザクは障害物の木にぶつかってしまった。


【うん、知ってたw】

【あー笑】

【ここまでがテンプレ】


 などと言ったコメントが少し早く流れていった。同接人数は増えていないものの、ザクはドンッと思わず台パンをする。


【台パン助かる】350円。

 との投げ銭が一件とんで、ザクは感謝の言葉を読み上げるものの——


「マジでこの木ここに置いてる意味なんなん? 邪魔でしかないだろ……」

 苛立ちを抑えきれずにザクはその場で呟いた。

 ———コメントでは。

【邪魔するために置かれてますw】

【そういうゲームなので笑】

【ゲーム向いてないw】

 などと言った意見が目立つ。

 ザクは『くぅ〜』と唸りながら、視聴者に言ってみせた。


「———俺、ぜってぇ9回連続で勝つまで配信やめねぇから!!」


【さっきの勝ってる扱いになってて草】

【さぁ〜今日は何時に終わるかなぁ……】

【今日の謝罪が楽しみだ】

 コメントではザクの宣言に対してはそんな意見が流れていた。

 無理もない。それが彼——ザクの実況スタイルだからである。


 ——そう宣言してから、五時間が経つと同接人数は減っていたものの——。


【お、きたきた】

【これを待ってたw】

【やっぱこうなるか笑】

 などと言ったコメントが目立つ様になってきていた。

「えー、今日は不調だったから……これにて配信は終了する。もうこのゲームはしない‼︎」


【草】

【ちょっと申し訳なさそうなのおもろいw】

【とか言ってすぐまた始めるのがテンプレ笑】

 といった具合にコメントが流れていく。

 ザクは罰が悪そうにしながらも、配信を終えた。

【乙ザク】

【おつざく〜】

【ざく乙】

 流れていくコメントを何件か確認して、そっとPCを閉じたザク。



「ゲームが上手くなりたいだけなんだけどなぁ……」


 配信が終わると、自分以外に誰もいない部屋の中でポツリとそう溢す。

 元々よく一緒に遊ぶ友達に『ゲーム配信、向いてる』と言われて始めたこのゲーム実況チャンネルだが……。


「完全にキレ芸チャンネルだよなぁ、これだと。全くいつからこうなったんだか」


 ぶっちゃけて言うなら真面目にゲームをやってゲームスキルを褒められたい、尊敬されたい、というのがザクの本音であった。


 そのため、下手なプレイングに対して視聴者の突っ込みにキレを見せるというのは本来の理想とするザクの配信スタイルには反しているのだ。


「うーん、ゲームの練習あるのみだな。この配信スタイルから抜け出すには……!」


 ゲームスキルの上手さでいつかは皆から尊敬されたいと思うザク。

 だからこそ、裏で練習に励む日々だが、なかなか上達せず、結局キレ芸のゲーム実況をしてしまい………。


「今ではネットで弄られつつある、と……」


 ザクは単にゲームが下手なだけだが裏で実は必死にゲームの練習している事実を視聴者は知らない。いや、ザクが言えるはずもない。


 下手なプレイでキレ芸している実況者が実は裏でめちゃゲーム頑張っていて……それでも下手な事実を。


 そんなことを発言してしまえば、今以上に弄られるのは目に見えている。

 思わず想像すればザクはぞっとした。

 そのためザクはいつも『裏で練習なんかしない、ゲームでそんな頑張らない』と豪語していたのだ。


「この配信スタイルから抜け出すためにも、練習頑張るぞ……」

 そう言って、裏の配信外で練習に励むザクだが彼はまだ知らない……。

 野良ソロで参加するゲームで大物の有名配信者と当たってしまい、その知られてはまずい事実が周囲に広がってしまうことを。


(俺は絶対、このキレの配信スタイルから抜け出してやるからな……)

 そんなことなんて露知らず。

 ザクは律儀に裏で早速練習をし始めるのだった。

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