第18話 電界複製


「君が誰なのか。

 その制服を見れば何となく理解できるよ」


 金髪の男が前に出て、俺を見る。

 姿を、恰好を、服を見て。

 納得する様に頷いた。


「良く居るよ」


 にやけ面でそういう男。

 俺は思ったままの疑問を返す。


「何が?」


「ギフトは異世界人に高い優位性を持つ。

 現実が上手く行ってないんだろ?

 だから、持ち上げてくれる異世界人で発散する」


 そういう意味か。

 まぁ、確かにこの男の言う通りだ。

 俺は、この世界に逃げた。

 気に入って、ここに居る。


 でも、それは隣に居る女に行ってやった方が良いだろ。


「でも、ギフトは君の努力の成果じゃない。

 現実が上手くいかないのは君の問題だ。

 ハーレムとか、貴族とか、はぁ……

 持ち上げられ、調子に乗り、異世界に住み着こうとする。

 君はもっと、現実の解決策を模索した方がいい」


 ため息交じりにそう言って、男は気持ち良さそうに笑みを浮かべる。


「僕は一条ノア。

 君の隣の高校で生徒会長をしている。

 この仕事も生徒会として引き受けている。

 それと、大手自動車メーカーの御曹司だ。

 君の名前を教えてくれるかな」


 長々と自己紹介をしてくれる。

 有難い限りだな。

 けど悪いが、俺にお前みたいな自慢できる出生は無い。


「望月充」


「じゃあ望月君、選びたまえ」


「なんだよ?」


「1000万上げるから、僕の言う事を聞く。

 もしくは、僕に負けて僕の言う事を聞く」


 御曹司か。

 その言葉に嘘は無いのだろう。

 少し前に委員長が言ってた奴だ。

 金持ちなんだろう。


 俺なんかじゃ、どれだけ足掻いても稼げない金額を、片手間に使い捨てられる。


 そんな人間は普通に居る。


 昨日までの俺なら。

 この世界で1年を過ごす前の俺なら。

 きっと、簡単に頷いた。


 でも、もう違う。

 俺は知った。


 俺の欲しかった物は金じゃ無かった。


「お前が死んで帰る。一択だ」


 俺の答えに、一条ノアは溜息を吐く。

 ワザとらしく。

 何度目か忘れるくらい。

 溜息が好きな奴だ。


「僕は最高位のギフトを持っている。

 君が仮に僕と同ランクのギフトを持っていたとしても、僕は中学の時からこの仕事の経験がある。

 最高位ギフトは強くなる。

 分かるかな。君が僕に勝つ可能性は0%だ」


 最高位ランクギフト保有者。

 展開が急過ぎるだろ。

 俺は、まだギフトを持つ人間を夜見と一条しか知らない。

 あと、先生も多分ギフトを持ってる。

 けど、能力は分からない。


 つまり、自分を含めた4分の3が最高ランク。

 これじゃあ、珍しいなんて言われても信じられねぇな。


 まぁ、それでも俺の仮想敵は丹生夜見だ。

 そして、彼女は言った。


 私の力は、確認された全ギフト中――最強だと。


 つまりこいつは……


「テメェ如きに躓けるかよ。

 さっさと掛かって来い。

 隣の女に追い抜かれた、幸運擬き」


「……何を」


 笑みが固まる。

 あぁそうだよな。

 生まれながらの勝ち組で。

 思う事も望むまま。


 そんなお前が唯一手に入れられない力。


 だから、夜見を転校させようとしてる訳だ。

 自分が隣の女を越えるんじゃ無く。

 自分の隣にその女を添える事で。

 お前は、最強を名乗ろうとした。


「諦めたなら消えろよ部外者。

 お前が無理なら、俺が隣の女をぶっ殺してやるって言ってんだよ。

 それと何が一千万だ? 親の金だろうが」


 俺がそういうと、一条は片手で髪を掻き揚げる。

 顔も整っていて、金もあって、身長も高い。

 態度が鼻につくが、それも実績と実力で黙らせられる。

 権威と力と財産の全てを持ち合わせる。


 本物の対局。


 だから、俺がお前の事を嫌う理由は、それで十分だ。


「いいだろう……」


 目を見開いて、一条はう。

 それは、能力発動のトリガー。



「――騎士王アルセイラ」



 赤い光が地面から漏れる。

 円形の魔法陣。

 その中から、一人の女が姿を現す。


 碧眼に赤い髪。

 黄金の聖剣を携え、ハーフプレートメイルに身を包む。

 髪は結ばれ、殺気というよりも覇気に思える闘志を感じさせる。


 歴戦の猛者。

 異界の英雄。


「異世界の人間を呼び出せる。

 それが、お前のギフトか……」


「僕の契約者は計53人。

 どれも英雄と呼ばれた存在だ」


 確かに強い。

 夜見とは違い、一点に力を集中できない分劣りはする。

 けれど、俺の力に比べれば格は上だろう。


 メサイアに会う前の、俺の力ならな。


 俺は、トカレフを召喚する。


「拳銃……?」


 困惑する様に、一条は呟く。

 それを無視して俺は即座に発砲した。


 狙いは赤髪の女。

 アルセイラと呼ばれた騎士。



 ――ギロリ。



 と、碧眼が俺を見た。


 女の身体がブレる。

 銃弾が消滅した。


 いや違う。

 いつの間にか騎士の手が、剣の柄を持っている。

 剣で何かしたのだ。

 それこそ……


「銃弾を斬りました。

 ノアの敵なら私は断罪せねばなりません。

 貴方の異能では、私には勝てない。

 どうか、投降を……」


 真っ直ぐ目を見つめ、そう言う女。

 あぁ、凄いな。

 説得されそうだ。

 言葉じゃない。

 態度でもない。

 その心が、伝わって来る。


 真っ直ぐな勇気。

 希望を感じさせる安心感。

 これが英雄様か。


 けど。


「何、勘違いしてんだ」


 俺の異能は仮想世界を1つの世界と定義した。

 しかし、それには様々な条件がある。


 全知全能の権能を持つ杖とか、そういう法則に準拠しない物品は複製できない。

 メサイアの定義した世界で、複製が認める世界は一つしか無かった。


 それは、この異世界の物理側の世界の法則に準拠した世界だ。


 メサイアでも世界を完全に創造はできないのだろう。

 けれど、現実なら物理的な計算が済んでいる


 その完成度は俺のギフトが認める程だった。

 故に、俺が模倣できるのはこの異世界の物理世界に存在できる物品だけ。


 しかし、一世界につき一つという条件は突破された。


「――来い」


 複製は手で持てるサイズの物しか召喚できない。

 だが俺の複製は、召喚場所をある程度自由に操作できる。


 なら、パーツ毎に登録すればいい。


 トカレフを起点に、パーツが組み上がっていく。

 この設計図を頭に入れるのは時間が掛かった。


 重量500kg。

 超大型光子銃。

 設置タイプ。


「攻城兵器の様な武装ですね」


「まぁ、中世の城程度なら消し飛ばせるからな」


「そうですか……」


 火力。

 速度。

 精度。


 全てに置いて、最強。


 科学文明の随分進んだこの世界で、最強の戦争兵器。

 俺の複製枠を100消費して、この一丁の銃は組み上がる。


「最初で最後の通告だ。

 降参しろよ」


 俺がそう言っても、騎士の顔色は全く変わらなかった。

 それ処から、真っ直ぐと剣を構えている。

 受ける気かよ……


「来なさい」



 ――対象捕捉ターゲット・ロック


 ――光子充填フォトンチャージ


 ――狙撃設定スナイパーモード



 設置された大型銃の引き金に手を掛ける。

 もう、トカレフなんて殆ど関係ない。

 ただのトリガーでしかない。

 けれど、この銃の威力は本物だ。


 反動は一切無く。

 銃弾の速度は光速と同義。

 射程は20kmに及ぶ。

 この世に存在する物質なら、全てに穴を開けられる熱力。


 自分の身体の数倍はある。

 戦車の砲筒の様なそれの引き金を。


「尊敬するよ」


 そう言った瞬間、騎士のこめかみを汗が伝っていた。


 そして、騎士は微笑する。


「精霊の導きよ、我が手に勝利を」


 剣が青緑に光る。

 どんな力か想像もできない。

 けれど、強い事だけは分かる。


 そんな、表情だから。



 ――引き金を、引く。



 狙撃設定の銃弾は0・3ミリ。

 それでも頭を撃ち抜けば、即死は免れない。

 この光は完全制御され、ターゲットに向かって曲がる。


 反射速度も追い付かない筈。

 直観で追い付けど、曲がる弾丸に回避は無い。

 そして、この銃弾を受け止められる物質は存在し無い。


 撃てば必中。

 当たれば必殺。



「はぁぁぁあああああああああああああああああああああ!」



 けれど、女の剣はその銃弾と拮抗していた。


 嘘だろ……


 鋼鉄だろうが黒曜だろうが、関係無く蒸発させる熱線だ。


 それを、受け止めている……?


 真っ直ぐターゲットに向かう光。

 相手の剣も、それを受け止め切ったというよりは、その途中だ。


「流石……」


 だから、もう一度。



 ――狙撃連射設定フルオートスナイプ



 引き金を引いた。


「え……」


 頭から血を流す。


 覚束ない足取りで、俺を見た。


「お、お前……」


「ノア! そんな!?」


 騎士の女が、慌てる声で叫んだ。


「貴方の相手は、この私でしょう!」


 恐怖も怒りもどうでもいい。

 一条ノアは、もう数秒で死ぬのだから。


「お前に一つ言い忘れてた。

 勝手に、人の事を不幸だとか決めつけてんじゃねぇ」


「聖女……ルミ……」


 円形の魔法陣が、また展開される。

 今度は緑。最後の力で何かを召喚しようとしてるのか。


 でもさ、させる訳ねぇよな。



 ――ヒュン。



 一条の光が、ノアを貫く。

 


 ――ヒュンヒュン。



 もう2発。

 この銃の保有電力は弾数換算で2000発。


 その中の100発分を全て一人の男に浴びせる。


 身体よりも、穴の方が増えた身体は、地面に倒れ。


 消えた。



 騎士も居なくなり、残ったのは俺ともう一人だけ。


「2人っきりだね。充君」


「夜見」


「呼び捨てにしてくれて嬉しいよ、充」


「俺は、全力のお前を殺す」


「あぁ、今日は最高の日だね」


 ニッコリと。

 三日月の様な唇で、丹生夜見を笑みを浮かべる。


 けれどもう、俺は恐怖を感じなかった。


「もし私を殺せたら、私は付き合って上げるね」


「……お断りだ、馬鹿が!」


「照れなくてもいいのに」


「照れとらんわ!」

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