第5話 大幅レベルアップ


 レベルアップ。

 それは、『強くなる』という事らしい。


 紘一からそう聞いても、最初は理解できなかった。



「――けど、今なら分かる」



 現在、俺のレベルは43。

 速度、筋力、跳躍力、しなやかさ、硬度。

 全ての身体能力が、現実世界に比べて飛躍的に高くなっている。


 もし、現実世界でこの力があったとすれば。

 間違いなく個人能力で俺は世界最強だ。

 それほどの力。


 あれから、丹生夜見に遭う事も無く。

 順調に、俺はこの世界に慣れていった。

 

 1日1時間のハントを10日続けた。

 討伐数は既に数えきれない。

 麓に参列する亜人の死体は、数えるのも馬鹿らしい。


 大量殺戮。

 これを俺がやったのだ。


 しかし、相手は俺を見れば即座に襲い掛かって来る獣。

 それほど、心の痛みは無い。


 というか、既に数回殺されている訳だし。

 同種だから同罪という訳では無い。

 だが、俺の『誘い出し』が失敗した事はまだ無い。


 接触すれば追い掛けて襲いかかって来る。

 防衛。そんな言い訳も成り立つだろう。

 まぁ、一応合掌くらいはするけど。


「さてと、そろそろ行ってみるか……」


 今日は金曜。

 今日の放課後と土曜のバイトは全て休みにした。

 それは、山中の森林に足を踏み入れる為。


 後方を見れば、続くのは草原のみ。

 歩き始めても、人里がある保証はない。

 どうせ、食料は帰還があれば関係ない。

 植物鑑定あるから、最悪食い物は分かる。


 レベルが上がり、スキルも多く習得した。


 『命中lv4』『速射lv1』『集中lv2』『明鏡止水lv1』『回避lv2』『身体操作lv2』『気配察知lv3』『魔力回復lv2』『強敵鑑定lv1』『雷属性付与lv1』『加速陣lv1』『鉱石鑑定lv2』


 これだけスキルを使える様になった。

 俺も相当強くなった筈。

 いや、実感として分かる。

 俺は多分、かなり強い。


 走る速度。殴る力。反射神経。

 全てが強化されている。


 銃の扱いに関するスキルもかなりある。


 紘一や委員長が教えてくれた。

 「閃き型」とか言うらしい習熟方式。

 行動次第でどんなスキルが得られるのか変わるらしい。


「行くか」


 俺は、森林へ足を踏み入れた。

 いつもの浅い場所では無い。

 今日は奥まで行く。


「ブヒィ……」


 そう、声が聞こえた時。

 既に、俺は気が付いてる。


 気配察知は正常に機能している。


 だから、既に俺は銃口を豚面に向けて。


 命中。

 集中。

 明鏡止水。

 速射。

 身体操作。


 5つのスキルを同時に使う。

 これは、5本の指をバラバラに同時に動かすくらいには難しかった。

 まぁ、フィンガースタイリストのマネージャーをやっていた時よりは楽だ。


 パンと、破裂音が耳をつつく。

 煩いと思った時には、既に豚の頭には穴が開いていた。


 最初はビビって逃げた相手。

 銃で殺せたけど、あの時は乱射しただけ。

 それと比べて今回の戦闘は雲泥の差だな。


 トカレフの装填数は8発。

 撃ち切れば、複製を使い直す必要がある。

 だが、複製のギフトは精神力を使う。


 その精神力もレベルアップで強化されているし、魔力回復のスキルは、精神力の回復速度を上げてくれるが……


 それでも、節約するに越した事はない。


「SYAHhhhhhhhhh!」


 そんな鳴き声で現れるのは蜥蜴男リザードマン

 蜥蜴の尻尾と青い鱗を持った種族だ。

 こいつ等の厄介な所は鱗だ。


 鋼鉄並みの強度。

 それは銃弾すら弾く。


「まぁ、眼球から通せばいいだけ」


 今の俺のスキルがあれば簡単だ。

 20m圏内なら、ほぼ狙った部位へ当てられる。


「シャッ……」


 そんな声を残して蜥蜴男も絶命する。


 そのまま、見慣れた顔を撃ち抜きながら進んでいく。


 スキル様々だ。

 不意打ちは不可能。

 命中精度は軍人以上。

 体力、身体能力、共にアスリート超え。


 これで負けろって方が無理がある。


 山登りも、この身体には大して堪えない。

 警戒しながら進む分、普通より体力消耗する筈なのに。


 荷物が無いのもデカいな。

 薬草だけだし。


 これで制服じゃ無ければ完璧だった。

 まぁ、文句は言っても意味がない。


「って……今度は群れかよ……」


 基本的に、群れるのはゴブリンとコボルトだけ。


 だが、俺が見つけた群れはオークだった。

 深い所は、こいつ等も群れ始めるらしい。


 個体毎の能力では、オークとリザードマンが最強。

 ゴブリンとコボルトは最弱だ。

 だから、群れるのはゴブリンとコボルト。


 じゃあ、この先にはこいつ等が群れなきゃいけないような存在が居る?


 いや違う。

 オークの群れの中に、一匹。

 赤い皮膚のオークが居る。

 そいつだけ、他よりもサイズがでかい。


 統率者が居てこその群れ。


「スルーしてもいいが……」


 レベル上げ。

 威力偵察。

 殺す理由が2つもある。


 幸い、相手はこちらに気が付いていない。


 俺は、銃口をそれに向ける。

 もし善人だったらごめん。

 まぁ、他のオークの雰囲気からして、それはない。

 っていうか、善悪を判断する知能すら無さそうだ。


 もう、頭を弾くのは慣れた。

 慣れってのは偉大だ。

 絶対無理だと思う様な仕事量も、慣れれば熟せる様になる。

 ブラックバイトのコツは、何も考えない事。


 【集中】は、狙う場所を良く見せる。

 【明鏡止水】は、時を遅く感じさせる。

 【命中】は、その角度で銃を撃った場合の軌道を幻視させる。


 

 ――更に。



「雷属性付与・加速陣」


 2つの魔法陣が、銃口の前に並ぶ。

 詳細曰く、通過式魔法陣。

 陣を通過した物体に、特殊効果を付与する。


 内容は文字通り。

 雷属性と加速だ。


 命中の予測軌道は眉間中央。

 ここで撃てば、当たる!



 ――パン!



 火薬の爆ぜる音が鳴る。

 共に弾丸は、2つの魔法陣を通過。

 加速は物理限界に到達し、光速に近い速度で頭を穿つ。


「ブヒィ!」


「ブヒヒヒヒィ!」


 その声は、赤いオークの物ではない。

 既に、赤いオークは絶命している。

 その声は、赤いオークの死体を見た別の声だ。


 集中を切らすな。


 俺は、次のオークへ狙いをつける。

 距離45m強。

 スキル効果により、有効射程は100mオーバー。


 拳銃で狙撃していく。


 豚面オーク10。

 討伐完了。




 ――そのまま俺は進んでいく。




 ははっ。

 まじか。

 やばいなこれは。


「BURrrrrrrrrrr!!」


 通常のオークより大きな鳴き声。


「KISSYAAAAAAAAAAA!」


 通常のリザードマンより大きな声。


 ゴブリンもコボルトもマーマンも。

 普通のそれとは違う。

 巨体で、力強く、速く。

 そんな、上位種。


 それが、森の奥には跋扈していた。


 強敵鑑定のスキルを使えばそれは一目瞭然。

 このスキルは相手の強さを数字で教えてくれる。


 通常種を1とした場合。

 こいつ等の強さは3。


 つまり、3倍の強さの敵という訳だ。

 それが、山の中には大量に居た。


 俺は木の上に昇り、彼等を観察する。

 幸運な事に、こいつ等は種族毎に敵対している。


 いたる場所でバトルしてる。

 だから、隠れれば攻撃して来る奴は少ない。


「何なんだよこいつ等。

 縄張り争いか?」


 しかも、よく見れば強さ『3』だけじゃない。


 『4』や『5』、稀に『6』も居る。

 真面にやり合うのは面倒だな。

 こっちには弾数、精神力の限界がある。


「取り合えず探索してみるしかないか。

 この奥がどうなってるのか……」


 そう思い立ち、俺は動き始める。

 パルクールのスキルを発動。

 木と木を飛び移って移動する。


「GYAGYAGYAGYA!!」


「UUOOONnnnnnn!!」


 稀に、身軽なゴブリンやコボルトが襲い掛かって来るが、気配察知と回避で掻い潜る。


「もしかすれば、何か宝があるのかもしれない。

 それを一目見れば、複製できるかも……」


 そんな思いで、俺は進んでいく。



 そして、見つけたのだ。



「なんだこれ……」


 真っ白な木。

 枝も、根も、葉も、全てが白い巨木。

 周りに木は一本もなく、広間の様な聖域が完成している。

 その周りの雑草も全て白く変色している。


 その白い空間。

 その前に、強敵鑑定『10』。

 一際力強く、歴戦と思わせる存在が居た。


 緑色の肌はゴブリンに似ているが、風格は全く違う。

 巨大な黒い大剣を担いでいる。

 侍の様な鎧を身に纏っている。


「……勝て無さそうだな」


 木の上から、それを眺めてそう呟いた。


 その瞬間。



 ――ギロリ。



 そいつの目が、俺を向いた。


「バレた……!?」


 背負う大剣を抜く。

 構えは一瞬で、薙ぎ払いはもう完成している。

 突風が、大剣から巻き上がる。


 その強風は、俺の乗っていた木を掘り返す程の威力を持っていた。


「ッチ……!」


 舌打ちをしながら、吹き飛ばされる。

 銃撃で反撃してみるが、横にした大剣で防がれた。

 どういう予測能力だよ……


 だけど。


「まだだ!」



 雷属性付与。

 加速陣。

 集中。

 明鏡止水。

 命中。

 速射。

 身体操作。



 ――狙え、俺。



「ここっ!」


 照準を合わせ、引き金を引く。

 狙いは完璧。

 角度は百点。

 威力は十分。


 しかし。


 奴は、手を前に翳し。


「有り得ねぇだろ……」


 口を開けて、俺はそれを眺めていた。


 そいつは、俺の銃弾を素手で受け止め、掴んだのだ。


「ギィ……」


 目が赤く光る。

 身体がブレる。


 身体が、消える。


「ギィ……?」


 その声は、後ろから。


 待てよ、俺はまだ空中だぞ。

 回避するにしても足場も無くちゃ。


 そんな俺の思考を汲み取って、剰え待ってくれる相手な訳もなく。


「ギァ!」


 空中で、そいつは大剣を振るう。


 幸い、大剣自体が俺にぶつかる距離じゃない。

 だが、さっきの風圧を見た後だと。



 竜巻染みた旋風が、俺の身体に直撃し、大きく吹っ飛ばす。





 ――ドサリと音がした。





 やばい。身体の感覚が無ぇ。

 白い地面が見える。

 あの中まで吹っ飛ばされたらしい。


 白い草花が、赤く染まっていく。

 それは、俺から流れてる血なんだろう。


 まずい、指一つ動かねぇ。


 4回目か。死ぬのは。

 でも嫌だな。


 痛いのは慣れてるからいいんだ。


 でも。


 この寂しさというか。


 虚無感と無力感がとてつもなく嫌いだ。


 ひもじい。苦しい。寒い。

 そんな、現実を思い出すから。


「じにだぐねぇ……」


 そう、声を出すのが俺の限界だった。



『まさか、この様な魔境へ単身乗り込む馬鹿が居るとは思わなんだ。

 その愉快な無謀は儂を楽しませた。

 褒美だ。我が実を一つ、くれてやる』



 朦朧とした意識の中。

 そんな誰かの声が聞こえた気がした。

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