第4話 モンスターハント
「ギギ……」
緑色の肌のモンスター。
紘一に特徴を話すと教えてくれた。
こいつはゴブリンって名前らしい。
武器は基本的には木製の太い棒。
稀に、金属の武器を持ってる奴も居る。
しかし、総じて言えるのは遠距離攻撃の不足だ。
弓持ちも居るが、精度は良く無い。
その射程は良く見積もっても30m。
トカレフは、俺の腕換算でも50m弱だ。
拳銃を構え。
ちゃんと両手で狙う。
一応、猟銃免許を持ってる人に銃の使い方を見せて貰った事がある。
ライフルと拳銃ではかなり違うが、そこは経験を増やして補おう。
「ギ……?」
っべ。
外した。
もう一発。
「ギッ……!」
そんな、短い悲鳴を漏らしてゴブリンは絶命した。
この森じゃこいつ等が一番弱い。
他には、
命名は、全て委員長と紘一だ。
2人とも俺がゲームの話をすると、喜々として付き合ってくれる。
何処か嬉しそうなのは、きっと俺の境遇に関係しているのだろう。
でも、心配されるのは本望じゃない。
心配を掛けない様に自立しないと。
「にしても、思ったより楽だったな」
こいつ等には致命的な弱点が存在する。
それは、山から出てこないという事だ。
山の麓の森部分。
浅い場所に入り、敵を探す。
見つければ、そいつ等を引き連れて森から出ればいい。
そうすれば、あいつ等は投石や弓での攻撃しかできなくなる。
なら、敵の射程外から銃撃で倒せばいい。
逃げるのは簡単だ。
パルクールをカメラで追いかけるバイトをしてた事があるから。
植物や動物の調査の荷物持ちとして、森林に入る事もあったし。
それに、地球より身体が軽い気がする。
森から出ないと気付くまでに2度死んだ。
しかし、やはり屋上で復活するのみ。
本当に、死ぬ事は無いらしい。
――LVアップ。
――スキル獲得。
そんな文字が、視界に映る。
ステータスをイメージすると勝手にそれは表示された。
『
職業 【バイトマスター】
称号 【貧乏異世界人】
LV 4
攻撃 40
防御 40
速力 40
器用 40
信仰 40
魔力 40
ギフト 【
スキル 【
』
大体、ゴブリンを10匹倒した程度でレベルは2になっていた。
さっきので、既に50匹強は殺してる。
これでもレベルは4。
4が高いのか低いのか……
けど、今回は新たにスキルを獲得した。
植物鑑定:植物を目視する事で、その植物の学術名称と人体に対する主な効能を知る事ができる。
「なるほど」
呟きながら、地面の草を抜いて見る。
ギヨマ:消化器の働き促進。
そんな文字が現れた。
微妙な能力だな。
この変な葉っぱの奴とかは。
――ヒールソウ:接着細胞再生。
は?
見た事無い効能の草だ。
漢字をそのまま解釈すると、接着する事で細胞を再生させるって事か?
試してみるか……どうせ死なないし。
丁度、森の中で引っ掛けた傷が腕にある。
そこに、ヒールソウの葉をくっ付ける。
「なんか、ちょっと痒いな」
そのまま10秒程待つ。
そして、剥がしてみると。
「マジで塞がってる……
跡もないし」
地球の植物じゃあり得ない現象だ。
詰められるだけぽっけに詰めよう。
10分程、俺は草を刈る事にした。
複製登録する選択肢もあるけど、他にもっといい物があるかもしれないし。
複製は、登録数が限られてるっぽい。
軽々しくは使えない。
因みに登録解除はできなかった。
そのまま、適当にゴブリンを殺す。
ここに来れるのは、放課後の1時間程。
それ以降はバイトだ。
スマホの時計を見ると、そろそろ時間だ。
帰還と呟き、学校へ戻る。
そのまま起き上がり、階段へ続く扉を開く。
「あ……?」
「きみ……」
扉の前に、生徒が居た。
見女麗しい。
そんな感想を誰もが抱く。
彼女は、学校の有名人だ。
初めて話す。
父親は資産家で、彼女は蝶よ花よと育てられた生粋のお嬢様。
俺とは、正反対の人種。
「丹生夜見、さん……」
「なんで、私の名前、知ってるの?」
彼女がコトリと首を傾げる。
耳に掛かっていた長く艶やかな黒髪が流れる様に落ちる。
自然と、視線が胸の辺りに移った。
それを自覚して、俺は直ぐに目線を逸らす。
「先輩は、有名ですから……」
そう返事をしてみるが、彼女は興味の無さそうな表情を浮かべる。
「なんで、屋上のドアから出て来たの?」
脈絡ねぇなこの人。
なんていうかマイペースな感じ。
「立ち入り禁止は分かってるんですけど……
ちょっと、そういう気分で」
俺がそう言うと、先の返事より早い反応速度で、彼女は俺の目を見て、口を動かした。
「自殺とかするの?」
「しませんよ。
丹生さんこそ、なんでここに?」
ここは、屋上と4階を繋ぐ階段だ。
この先には屋上しかない。
そして、屋上に生徒は立ち入り禁止だ。
「えっと」
そう言いながら、彼女は自分の制服の胸ポケットを漁り始めた。
「これ」
そう言って丹生夜見が取り出したのは、煙草の箱だった。
「……未成年は吸っちゃ駄目ですよ」
「だから?」
「俺が先生にチクったらどうするんですか?」
「君が嘘を吐いてるって訴える」
それは、確かに俺が負けるな。
美貌も経済力も。
何もかも、生きる世界に差が有り過ぎる。
「黙っててね」
「はい……」
俯きがちにそう答える。
態々面倒事に首を突っ込む気は無い。
そんな事しても、俺に良い事は何も無い。
この人の肺の心配なんか、俺がする事じゃないし。
「それと君、屋上で変な物見なかった?」
階段の下から、俺の顔を覗き込む様に彼女は俺と目を合わせに来る。
まるで、蛇のように体をくねらせて。
やばい。
俺の直観が何かを警告してる。
色々、命賭けの仕事も何度か経験がある。
でも、それ以上の恐怖が。
今までとは比べ物にならない悪寒が。
告げる。
――この人は、何かマズい。
「例えば……鏡……」
「見てないです!」
食い気味に俺が言うと、彼女は顔を引かせる。
「……そっか、なら、いいの。
そこ、通ってもいい?」
俺は、道を開ける様に脇へ避ける。
その前を、彼女が通過していく。
高そうな香水の匂いがした。
もう、話しかけないでくれ。
そう思いながら通り過ぎるのを待つ。
彼女は階段を上がり、屋上のドアノブに手を掛けた。
胸を撫でおろす。
冷や汗が凄い。
「――ねぇ」
「はい!」
急に喋りかけるな。
ビビるだろ。
「君、嘘吐いてないよね?」
三日月のように笑う口元。
深淵のように黒い瞳。
それは、人を惑わす悪魔の様で。
丹生夜見は俺に問いかける。
「……吐いてないですよ」
平静を装いながら、俺はそう返事をする。
「なんか君、可愛いね」
そう言い捨てて、丹生夜見は扉の向こうへ消え、扉は閉まる。
昇降口に、俺一人だけが残る。
腰が抜けた。
土方の親方より。
ヤクザのおっさんより。
エキストラのバイトで見た、テレビに出るような大スターより。
迫力を感じた。
「何だったんだ、あの女……」
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