第11話 お魚咥えた狼
それから北の川に行く事にした。
ネージュに乗るのにも慣れてきたから、初めの頃よりスピードアップしたのもあって10分程度で着いた。
ネージュも揺れない走り方が出来るようになったので、景色を見る余裕も出来たから体感で時速40キロは出てたと思う。
世界樹から数キロメートルは草原で、川に近付くほどゴツゴツした岩が増えていく。
そして川は崖の下にあった。
そっと覗き込んだら20メートル以上ありそう。
背中がゾワゾワするような高さだ。
「これは魚は無理か」
釣竿があったとしても釣り上げるのは厳しい高さだ。
『フィカスは魚が食べたいの?』
「絶対に食べたい訳じゃないけど、捕れたらいいなと思ってたんだよ」
『ネージュが捕ってあげるなの』
「え?どうやって?」
『えい!なの』
ファッ!?
「ちょ、ネージュ!?」
崖に飛び込んだネージュに慌てて下を見る。
だがザブザブと川を泳ぎまわっているネージュは、何でもなさそうだから杞憂だったみたい。
その時、ネージュが前足で川の中を叩くような仕草をした。
魚が見つかったのかな?
「ええ?!」
プカリと浮かんだ魚の大きさにビックリした。
どう見てもネージュと同じくらいあるんだけど!
この川ってそんなに深さがあるように見えなかったよ。
川幅は10メートル以上はあるかもだけど、そこまで大きな川でもないのでビックリだよ。
そしてピコンピコン鳴る通知に、この距離でも上がるんだと、更にビックリさせられた。
もしかしたら契約獣だから、距離に関係なく経験値が入るのかもしれない。
その魚を咥えてネージュが崖を駆け上がって来たのを見て、もう絶句するしかない。
『これ美味しい魚なの』
「あ、うん。ありがとう」
目の前の巨大な鮭を見て茫然としながら礼を言うと、ブルブルブルッとネージュが水を飛ばして来た。
ビショビショになったオレが我に返ってネージュを見ると、伏せてこちらを上目遣いで見ている。
あざとい…でもこれは怒れない。
生活魔法のドライで簡単に乾かせるから、今度からはブルブルする前にしてくれとお願いした。
それから魚を鑑定してみたら、ヘルサーモン(S)だった。
この辺りにはヘルな生き物しかいないの?
そのままでは収納に入らないから、捌かないとと思ったけど案の定ナイフが通らなかった。
ふと、キツネの爪を試してみたら切れた。
ただ爪の根元以外を持つとオレの指が切れそうだから、結局ネージュに捌いて貰ったよ。
三枚おろしは無理かと思ったら、意外と器用にカッターを使って骨から身を剥がしてくれた。
これで暫くは食べ物に困らないね。
素材は魔石(S)とヘルサーモンの牙(S)とヘルサーモンの骨(S)だった。
ヘルサーモンの骨が持つのに良い感じの太さで、キツネの牙と組み合わせたら短いが槍になりそうだ。
骨と牙をくっつける方法がないけどね。
皮の鞣し方がわかればなぁ…
キツネの丈夫な皮で紐でも作れば括りつけれそうな気がするのに。
鞣しの知識はないから、洗って干しておくくらいしか出来そうにないな。
とりあえず収納を圧迫しないよう骨は3本だけ入れておく。
収納もレベルが上がって広くはなってるけど、これから先も素材を入れるからね。
ネージュは狐と兎を食べたはずなのに、鮭も食べてる。
魚なら血塗れにならないから、気にせず食べておくれ。
ここなら焚き火をしても大丈夫そうだから、肉と魚を焼いてみよう。
ストーンで囲いを作ってから、昨日の残りの枯れ葉と枝を入れて火を着ける。
細めの枝を串代わりに、一口大にした肉と魚を刺して、岩塩をナイフで削って振りかける。
実は探索中に胡椒に似た物が見つかったから、それもドライで乾燥させて石で砕いて振りかける。
その内に石臼も生活魔法で作ってみたいね。
遠火になるように串を周りに刺してしく。
粘土で串を刺す場所も作っておいたのだ。
固まりのままの肉や魚にも塩を振って、ラップルの葉に包んでから粘土で更に包んで火の中に放り込んでおく。
ラップルの葉は皿代わりにもなるから、何枚か収納しておいたからね。
上手く蒸し焼きに出来れば良いんだけど。
まだまだ肉も魚もあるから失敗しても大丈夫さ。
『美味しい匂いがするなの』
「ネージュはまだ食べるのか?」
『まだ食べるなの』
まぁ、ネージュが獲った物だから良いけどね。
干し肉と干物にしようと思ってた分も焼いてしまうか。
犬って人間より薄味じゃないと駄目だったと思うから、塩は控え目にしておいて胡椒は使わない。
串に刺している間にも焼いている魚と肉を回転しておく。
鑑定では美味しいと出ていたから大丈夫だと思うが、異世界の寄生虫とかは判らないから良く焼いておく。
脂が乗っているのか、ジュワッと滴るのが見える。
軽く焦げ目がついたら完成だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます