第10話 狼と狐

「んぁ?」


 目が覚めて自分の居場所がわからない事ってあるよね。


「ああ異世界か」


 世界樹を見上げて思い出す。


『フィカス起きたなの?』

「ああ起きたよ」


 でもこのモフモフにまだ包まれていたい。

 腹毛に顔を埋めてスハスハする。


『くすぐったいなの』

「ごめんごめん。ネージュの毛が気持ち良いから」

「フィカスの匂いの方が気持ち良いなの」


 昨日も言われたが、そんなに匂うのか?


『魔力の匂いなの』


 え?


『昨日は弱かったからわからなかったの』


 あ、そう。

 オレはレベル1の弱弱だったからね。


「魔力に匂いがあるのか」

『そうなの。フィカスの匂いは良い匂いなの』


 ふんふん嗅がれて擽ったい。


 朝はパンを炙って食べた。

 ネージュは狐が食べたいと言うから諦めて背中に乗ったよ。


『こっちなの』


 ふんふんと匂いを嗅いでは森の中を進んで行く。

 オレの事は守るから大丈夫と言う言葉を信じているからな。


『見つけたなの』


 獲物を見つけた時は降ろしてもらうように言っておいたので、昨日の様な大惨事にはならないだろう。


「大丈夫か?」


 見つけた狐はヘルラビットよりは小さいけど、ネージュより大きいから心配になる。


 鑑定してもレベル差があり過ぎるからか見えない。


『余裕なの』


 ネージュはあっという間に狐に肉薄して爪を振るう。

 ザシュッと肉を切り裂く音が響く。


「グガアッ」


 狐が叫び声と共に火を吹く。


「わっ」


 ネージュはヒラリと躱しているが、思わず声が漏れた。

 狐がこちらを向く。

 ひぃっ。


 目が真っ赤なのは兎と同じだが、やはり元祖肉食獣は迫力が違う。

 口からはみ出てる牙は兎の倍くらいある。


『させないなの!』


 ネージュが氷の杭を打ち出す。

 狐が跳び退くが、杭は1本ではなかったため残りの2本が腹と後ろ足に突き刺さる。


「ギャン」


 狐がたまらず鳴きながら横倒しにしなる。

 そこにネージュが飛びかかって喉元に喰らいついた。


『こんなものなの』


 モザイクが必要な状態になったネージュがドヤ顔で振り向く。


 そんな真っ赤な口で見ないで!

 大丈夫とわかってても食べられそうで怖いよ!


 ピコンピコン聞こえる通知に、これだけ離れてても経験値が入る事に胸を撫で下ろす。


 これ以上近くにいないと駄目だったら、心が折れるところだった。


『ホントに食べないなの?』


 兎ならまだしも、狐は食べられる気がしないから遠慮するよ。


「魔石と毛皮と牙と爪を貰えたら後はネージュが食べて良いよ」


 頑張って解体にチャレンジしたけど、オレの力では歯が立たなかったのでネージュ頼りで素材をゲットした。


 血塗れの素材もクリーンで綺麗になった。


【名前】ヘルフォックスの魔石(S)

【備考】ヘルフォックスの魔石。魔力が多くて固い。


【名前】ヘルフォックスの毛皮(B)

【備考】ヘルフォックスから剥がした毛皮。艶やかで頑丈。


【名前】ヘルフォックスの牙(S)

【備考】ヘルフォックスの犬歯。貫くのに向いている。


【名前】ヘルフォックスの爪(S)

【備考】ヘルフォックスの前足の爪。切り裂くのに向いている。


 ヘルフォックスか…ヘルラビットと言い、ここは地獄か。


 ヘルフォックス自体はSランクだけど、毛皮は状態が悪いからBランクになった感じだな。


 まぁ、ネージュの氷の杭で穴が開いてるし、力任せに引き剥がしただけだから千切れているし仕方ないよな。


 クリーンをかけて血は取れたけど、肉片が付いてるからナイフでこそぎ落とす。


 肉はナイフが通ったから、毛皮が頑丈なだけみたいだな。


 なるべく大きな部分を使えば、コートが1着くらいなら作れそうだ。


 綺麗にしたらAランクになった。

 こんな事でも変わるんだな。


 バリボリ音が鳴ってる方は見ない。

 ネージュが骨ごと食べてるとか知らない。


 ステータスを確認したら、オレはレベルが18になって、能力は鑑定と収納がLv.3に、回復魔法と念話と土魔法がLv.2になった。


 ネージュはレベルアップしなかった。

 昨日は丁度レベルが上がる直前だったのかも。


 せっかく森の中に来たので色々と収納しながら鑑定していくと、気になる物があった。


【名前】星苺(B)

【備考】星の形の苺。深い森の中に生える。美味しい。


 おお!苺だ。

 しかも美味しいって!

 レベルが上がったからか、備考が少し詳しくなった。


 さっそく食べる。

 甘酸っぱくて美味しい。


 色と形が苺に見えなかったから、美味しいって出なかったら食べなかったな。


 とりあえずあるだけ採取して収納に入れる。

 ネージュは好みの味でなかったのか食べなかった。


 森の中はSランク以上は少なくてAやBが多めだね。


 そんな感じで草原に近い場所を探索していたら、また兎が見つかった。


 やはり鑑定は出来ないが、昨日の感じではネージュより弱いから心配はない。


 ネージュが瞬殺して解体チャレンジをしたが、やはり毛皮にナイフが入らない。


 またまたネージュ頼りになってしまったが、全く嫌な顔をしない良い狼だ。


 兎の肉はナイフで切れたから、分けて貰って大きな葉に包んで収納した。


 この葉はラップルの葉で殺菌作用があると出たから、丁度良かったよ。


 レベルが22になったが能力は上がらなかった。


 鑑定のレベルは上がらなくても、パーソナルレベルが上がるとレベルが高い魔物も鑑定出来るようになるからね。


 収納しなくても見えるようにならないと、触っただけでヤバいのとかあると困るよな。


 ここは聖域だからか、毒草とかは今のところ見つからないけど。


 たまに土魔法とか回復魔法とかも使いながら探索を続ける。


 苺の他に三角葡萄と輪林檎も見つかった。

 粒が三角形の葡萄とドーナツみたいに穴の空いた林檎だ。


 ネージュは輪林檎が好きみたい。

 シャクシャクする食感が良いらしい。


 果物でお腹いっぱいになったから、お昼は食べずに済ませた。

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