第9話 世界の常識・非常識

 世界樹の根元は何故か明るい。

 キラキラしているのは日の光だと思っていたが、どうやら世界樹から光が出ているようだ。


 暗くなってきたから木漏れ日なんかじゃないと判った。


 西側のレッドウッド山脈のせいで日没が早いのだが、光のお陰で暗闇になる事がない。


 生活魔法のライトが使えるとしても魔力は無限ではないから助かる。


 とは言え、もっと夜が深くなれば寒くなる可能性はある。


 焚き火で暖を取りたいが、世界樹の根元では苔が生えていない場所がない。


 だがオレには良い考えがある。


『フィカス何するなの?』

「焚き火をしたいから周りが燃えないようにするんだ」

『焚き火って何なの?』


 野生の動物は焚き火なんてしないから、ネージュも知らないか。


「枯れ木なんかに火を着けたのを焚き火って言うんだ。暖まったり料理をしたりするんだよ」


『キツネみたいに火を吹くなの?』

「あはは。違うよ。生活魔法だよ」

『生活魔法なの?』

「まぁ見てて」


 まずはなるべく根っこから離れた平らな場所で、焚き火をする範囲の苔を収納する。


 そこに生活魔法の粘土クレイを地面に敷き詰める。

 同じく生活魔法のストーンを使って拳大の石を組み上げる。


 1度の魔法で足りない時は何回もやれば良いからね。


 魔力切れにならないか心配したが、生活魔法は魔力が少ない人でも使えるから消費魔力が少ないのかも。


 魔法はイメージだ。

 石の形も自由自在だから、思ったより簡単に出来た。


 ピコン!


「え?」


 この音は兎もといヘルラビットを(ネージュが)倒した時に聞こえた音だ。


 ステータスを見ると、なんと土魔法を覚えた。

 え?生活魔法を使ったら土魔法を覚えるんだ?


 ああ、そんな事もあると思い出すように情報が出て来る。

 魔法を覚えるのは簡単ではないはずだが、適性があると覚えやすいと言われているから、オレの適性は土なのか。


 あのピコンと言う音はレベルアップの通知みたいだな。


『フィカス出来たなの?』

「ああ。バッチリだよ」


 ヘルラビットが倒した木を、ネージュに薪サイズにしてもらった物を出す。


 資源を無駄にしないのだよ。

 小枝も拾っておいたから、それも出しておく。


 鑑定すると、名前はエルダーオーク(A)だった。

 ならの上位品種のようで、切断カッターでは全く歯が立たなかった。


 乾燥ドライをかける。

 小枝についていた葉が着火材になるからちょうど良い。


 枯れてしまえば小枝なら手でも折れるようになったので、適度な長さにしていく。


 細い枝や太い枝を組み上げて、空気の通り道が出来るようにしておく。


 枯れ葉に着火をすれば、パキパキと音を立てて燃えていく。


『火が出たなの。フィカスはキツネなの?』

「キツネじゃないよ!生活魔法の着火イグニションだよ!」

『生活魔法すごいなの!ネージュも使いたいなの!』


 魔物じゃないや神獣なら覚えられるのか?

 しかしオレの場合は魂に刷り込まれた能力だから、覚え方がわからない。

 あ、情報が出たわ。


「オレが使ったのと同じ様に火を着けると思いながら、イグニションと言ってみて」

『イグニションなの!』


 ボワッ!


「うおっ!」


 着火と言うレベルじゃない火が出た。

 太い小枝はまだ燃えてなかったのに火が着いている。


 ええ~!?

 普通は細い小枝でも着くかどうかなのに、いきなり直径2センチはある枝に火を着けるとかあり得ない。


『やったなの!覚えたなの!』


 鑑定したら本当に覚えてた。

 フェンリルって氷属性じゃないの?

 いや、生活魔法は適性関係なく努力すれば誰でも覚える…って1回でなんて覚えないわ!


 人間じゃない生き物が生活魔法を使えるかは情報にないが、結構すごい事かもしれない。


 その後、全ての生活魔法を教えたら全部1回で覚えた。

 フェンリルさんパネエっす。


 薪を足して本格的な焚き火になった所で干し肉を軽く炙ってみた。

 おお、これなら香ばしくなってまだマシになるな。


 パンもナイフで薄く切ってから、軽く炙って干し肉とパーフェク草と一緒に食べれば…

 なんと言う事でしょう、現代日本の食文化に慣れた舌では、美味しいとは言えない物に早変わり。


 せめてバターが欲しい。

 でもパーフェク草の効果か、身体の調子は凄く良いよ。


 ネージュも食べたいと言うので少しあげた。


 でも美味しくないと言われたよ。

 ネージュは生肉派だしね。


 明日は兎を解体して焼いてみようと思っている。

 グロ耐性はないが、慣れなければ生きていけない世界だからな。


 ついでに解体の能力も覚えたらいいな。

 なぜ解体は生活魔法じゃないんだろう。

 魔法なら手でやらなくても良いのに…


 ここまで何度も異世界だと思ったけど、月が出た時に再認識したよ。


 この世界には月が3つあるという情報を思い出したんだ。

 月が見えるのは、1~4月は1つ、5~8月が2つ、9~12月が3つとなっている。


 そして今日は青と赤の2つの月が出ている。


 地球の常識だと衛星軌道はどうなってるんだと思うような感じだが、異世界の常識は地球の非常識なので、そんな物だと思うしかない。


 天動説が当たり前の世界なので、今は見えない白い月は地面の裏側で休んでるらしい。


 水平線や地平線があるから、惑星なんだと思うが地動説を証明する方法がないし、ガリレオみたいに異端審問にかけられたくはない。


 暦は1~12月で1ヶ月は30日で1年は360日だ。

 春夏秋冬も地球の北半球と同じだから覚えやすくて良いね。


 ついでに1日が24時間で1週間が6日という情報も思い出した。


 そんな世界の情報を思い出している内に眠くなってきた。


 寝る前にクリーンで歯も綺麗にすれば虫歯の心配はない。

 ネージュにもかけてあげたら喜んでくれた。


 ネージュの腹毛に包まれて眠れば、ぬくぬくで最高だよ。


「おやすみ」

『おやすみなの』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る