第7話 世界樹パワー

 オロロロ…

 テレビでモザイクがかかる状態になってしまった。


 兎の腹にかぶり付く狼を間近で見てしまったせいだ。


 リアルで内臓を見たらヤバい。

 臭いもあるから余計に駄目だ。


 兎の頭が吹っ飛んだ時は、現実感がなさ過ぎて夢でも見てる気持ちだったけど、これは夢ではなく現実だと思い知らされたよ。


『美味しいなの。フィカスは食べないなの?』


「肉を、生では、うぷ、食べれないんだ」


 そっちを見ないように、臭いからも遠ざかっているが気分は最悪だ。


『このまま食べないなの?』


「うん。うっ、お腹を壊すからね。全部、うぷ、フェンリルが食べて良いよ。おぇ」


 食欲もないしね。


 吐くものがない方が辛いとは…


 フェンリルから遠ざかって何とか落ち着く。

 水筒を出して口を濯ぐ。


 ここの草の匂いは癒されるなぁ。


 ふと収納した草の中に、癒し何とかがあった事を思い出す。


 もしかしたら薬草とかで、この気分の悪さもどうにかなるのでは?


 その前に回復魔法のキュアを使ってみるが、なんとなくスッとしたかな?って感じだな。

 レベルが低いから効果も低いんだろう。


 収納のリストをよく見てみると、癒し苔と言うのがあった。

 苔か…草なら野草でも食べられるのがあるから、抵抗が低かったのに…

 苔を食べるとか聞いた事ないわ。


 取り出して、鑑定をしてみる。


【名前】癒し苔(S)

【備考】匂いを嗅ぐと心身が癒される。聖域の中でしか育たない。


 何か情報が増えた!

 鑑定のレベルが上がったのか?


 ステータスを見てみる。


【名 前】フィカス

【年 齢】10歳

【性 別】男

【レベル】12

【能 力】鑑定Lv.2 収納Lv.2 隠蔽Lv.5 回復魔法Lv.1

 戦闘術Lv.2 生活魔法MAX 念話Lv.1

【契約獣】フェンリル


 レベルが上がってる!?

 なんてこった、フェンリルが倒したのに経験値がオレにも入ったのか。


 と言うかレベル上がり過ぎだろ。

 兎のレベルどんだけ高かったんだよ。

 鑑定するのを完全に忘れてたわ。


 能力は鑑定と収納と戦闘術のレベルが上がってるな。

 そして念話が増えてる。

 これはフェンリルがオレに念話を使っているからか?


 それと一番の問題である契約獣だ。

 契約した覚えは全くこれっぽっちもないぞ?


 ちょっと混乱したから癒し苔の匂いを嗅いで癒されてみよう。


 はぅ…これは癒される。

 世界樹の根元で嗅いだ花のような匂いは、この苔の匂いだったようだ。


 まさか苔がこんなに良い匂いだと思わないもんな。

 あんなに悪かった気分もスッキリ爽やかだ。


 そうだ他の草も鑑定してみよう。


【名前】キュア草(A)

【備考】食べると体調が良くなる。清らかな場所に生える。


【名前】エリー草(SSS)

【備考】食べると怪我が治る。世界樹の近くでしか育たない。


【名前】エイジン草(A)

【備考】食べると身体がリフレッシュする。清らかな場所に生える。


【名前】パーフェク草(S)

【備考】食べると体調が凄く良くなる。聖域の中でしか育たない。


 んんん?

 何か苔の時は内容が増えた事に気を取られていたが、名前の後ろに括弧で表示されてるのはランクでは?


 SやSSSって超が付く高ランクじゃないか!

 この世界のランクは、素材以外にも冒険者やダンジョンなど共通の設定がされている。


 低い方からG~Aが基本で、その上に規格外としてS~SSSが設定されている。


 冒険者はGが見習い、Fが駆け出し、Eから漸く冒険者と言う感じだ。


 素材のGは買取がギリギリ出来るくらい傷んだ物の事だから、例え元のランクがAだとしても痛み過ぎるとGになる。


 Fからが本当のランクで、低級ポーションの材料や森の果物などだ。

 Eになると魔物の素材などが入ってくる。


 ダンジョンはEからしか設定がないのだが、動物や弱い魔物が住みついてる洞窟をGやFなどと呼ぶ事がある。


 だいたい冒険者のランクが他のランクとイコールと考えれば良い。


 Eランクの冒険者が受けるクエストの素材はEランクだし、入れるダンジョンもEランクだ。


 魔物のランクは少し違う場合がある。

 GとFは普通の動物が含まれているからだ。

 魔物は魔力を持つ動物の事で、体内に魔石と呼ばれる魔力の塊がある物を指す。


 植物に魔力が宿った物も動物のカテゴリーになるのは、魔力を持つ植物は動くからだ。


 それに全てひっくるめて魔物になるから、動物か植物かなんて些細な違いらしい。


 それを踏まえてAのキュア草やエイジン草は、偶然見つけたと言えばギリギリセーフ?って所だが、S以上は絶対に知られたらヤバい。


 足元の草を鑑定すると、ほとんどは草としか出ないから、収納に入れて名前が判明した草は見えるって事のようだ。


 見えない草も収納に入れると名前が判るから、生活魔法の切断カッターで適当に刈り取る。


 オレの周囲1メートル以内なら、手を触れなくても収納出来るようになったから便利だね。


 この辺はAが多くてたまにSがあり、極稀にSSがある。

 どうやら世界樹から離れるほどランクが下がり、世界樹の近くはS以上がほとんどでAを探す方が難しいくらいだ。


 これが世界樹のパワーなのか。


 ヤバいと言いながらも草を収納してしまう。


 あの兎みたいな魔物がいるなら、回復アイテムは必須なんだもの。


 暫くはレベル上げをしないと、ここから出る事も出来ないのが解ったし。


 聖域に魔物は入って来ないみたいだし、生きて人里まで行くために出来る事はやっておかねば。


『フィカス』


「食べ終わったか?」


 名前を呼ばれて振り向いたまま固まる。


 口を真っ赤に染めたフェンリルが目の前にいた。

 やっぱりオレを食べるの?

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