第6話 狼と兎
思う存分もふり倒してしまった。
2メートル以上あるから、もふり甲斐があるよね。
色は少し青みがかった白で、足先に向かって青が濃くなっているが、腹毛と顔周りは純白だ。
「なあ、お前はどこから来たんだ?」
特に答えを求めている訳ではなかったが、独り言が癖になっているんだよ。
『えとね、森の中からなの』
「え?」
何か頭の中に聞こえた?
『良い匂いがしたから来たなの』
「ふえ?」
変な声が出た。
『そしたら寝てたなの』
「あ?」
気のせいじゃない?
『気持ち良さそうだったから、つられて寝たなの』
「えええ?犬が喋った!」
『むぅ。犬じゃないなの!』
「なら何だよ」
『フェンリルなの』
「ファンタジーの定番!キタコレー」
『ふぁたじ?違うよフェンリルなの』
「うんうん。フェンリルな」
『そうフェンリルなの。アナタいい匂いなの』
食べる気じゃないよね?
「なあ、さっきまで喋らなかったよな?」
怖いので話しを逸らしておこう。
『ずっとお話ししてたの』
「そうなのか?」
『そうなの。挟まった時も出してあげるって言ったのに、ジタバタしてたの』
「それは忘れろ!」
間抜けな格好はなかった事にしてくれ。
『ごめんなさいなの』
「いや怒ってないから」
モフモフ撫でてやる。
『舐めていい?』
「それはダメ!」
やっぱり食べる気か!?
しょんぼりしても駄目だからね!
『嗅いでいい?』
それならまぁ…
クッ…その上目遣いがあざと可愛い。
「そんなに良い匂いがするのか?」
転生した身体はおかしなフェロモンでも出しているのか?
『うん。優しい匂いなの』
フンスフンスと嗅がれて擽ったいが、しれっとオレもモフモフを堪能する。
美味しい匂いとか言われなくて良かった。
「オレはフィカス。お前の名前は?」
『フィカス?アタシはフェンリルなの』
「ん?それは種族じゃないのか?」
『種族って何なの?』
「あ~オレの場合は種族は人間で名前がフィカスだよ。そうだ鑑定しても良いか?」
人を鑑定する時は、相手の了承がある方が見えやすいから、フェンリルでも同じかと思って聞いてみる。
『人間って何なの?鑑定はしてもいいなの』
「あ~人間ってオレみたいな二足歩行で…って説明が難しいな。ちょっと見させてもらうよ」
【名 前】
【年 齢】8歳
【性 別】雌
【レベル】126
【能 力】咆哮Lv.3 牙突Lv.5 噛砕Lv.4 爪撃Lv.5
&%$;! 氷魔法Lv.6 ?@:=#¥ 回復魔法Lv.5
全異常耐性Lv.5 念話Lv.1
名前はなしで種族は見えないからフェンリルかは不明だが、
年齢が8歳って年下だね。
そして雌か。
わ~レベル高いね。
126とかオレなんて瞬殺されるな。
能力は所々見えないのもあるが、8歳なのになかなかのレベルだね。
咆哮は"吠える"の上位能力だし、噛砕も"噛み付き"の上位能力だから、1度Lv.MAXまで行ってるって事だと思う。
最後の念話のお陰で話しが出来たんだな。
Lv.1だから、さっき覚えたの?
『お腹すいたなの』
「え?オレは食べないでね」
『フィカスは美味しいの?』
「全然美味しくないよ!」
『なら食べないなの。えとね、ウサギとかキツネが美味しいの』
思いの外普通の答えで良かった。
ゴブリンとかワイバーンみたいなファンタジーな獲物かと思ったよ。
『一緒に捕まえに行くなの』
「え?」
『ウサギが近くにいるなの』
兎くらいなら大丈夫か?
レベルアップが出来たら、今より能力もマシになるかもしれないし。
背中に乗せてくれると言うので、伏せてもらってよじ登る。
首周りのモフモフに掴まってみるが、大丈夫かな。
『行くなの』
うひゃ~!
「落ちる!もっとゆっくりぃ」
『ごめんなさいなの』
スピードが落ちて、オレが落ちる心配はなくなった。
だが、ぐわんぐわん揺れる。
フェンリルって乗るのに向いてないね。
『いたなの』
「どこ?」
木が生えている草原との境目まで来たが、兎らしき姿は見えない。
『静かになの』
黙ってキョロキョロと兎を探す。
『来るなの』
え?どこ?
バキバキッと音を立てて目の前の木が倒れて現れたのは、3メートルはある茶色い物体だった。
「…ウサギ?」
『そうなの。茶色はアタリなの』
これがアタリ?
てか兎?
目が真っ赤だし、長い牙が生えてるよ?
「キュキュ」
鳴き声かわいいな!
でも開けた口が怖いな!
草食動物の歯じゃないよ、肉食動物の歯だよ!
『えい!なの』
氷で出来た杭が現れたと思ったら、兎の額に刺さって頭が吹っ飛んだ。
これが氷魔法Lv.6の威力なのか…
ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!ピコン!…
何だこの音は!?
『フィカス食べるなの』
オレを食べないで!
『ウサギ美味しいなの』
あ、兎ね。
ピコンピコン煩い音に気を取られている間に、フェンリルが兎の側まで近付いていた。
…まさか?
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