第14話

 俺は放課後、文化祭準備に勤しんでいる紅音のもとに向かっていた。俺にも何か手伝えることがあればと思ったからだ。あと今朝の誤解も解いておきたかった。すると紅音のそばに礼奈がいるのが見えた。


「どうしようこのペースで文化祭までに間に合うのかな」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。私、去年も生徒会で手伝っててやることはほとんど把握してるから。一緒に頑張ろうね」

「そう言ってもらえると心強いよ。やっぱり礼奈がいると助かるなぁ」


 紅音と関わっている時の礼奈はいつものクールな様子ではなくフレンドリーで若干砕けた口調になっている。それに表情も朗らかだ。それだけ紅音に対して心を開いているということなのか?それとも意図的に親しみやすい人物を演じているのか……?いや、それは俺の考えすぎか。


 俺は紅音に声をかけるのはやめにした。礼奈が手伝っているのであれば俺の出る幕はないだろう。礼奈ほど頼りになる人物は他にいない。誤解はまた今度解けばいいか。俺は二人に見つかる前にその場を立ち去った。


「そこの君、ちょっといい?」

「はい? 俺ですか?」

「ええ、ちょっと話があるの」

「風紀委員の方が俺に何の御用ですか?」


 特にやることもないので帰宅しようという時に女生徒に呼び止められた。確か上級生だ。話したことはないが俺はこの人を認知していた。持ち物検査でいつも先陣を切って生徒を取り締まっているのを見ていたからだ。だが風紀委員を務めるだけあって模範的でおまけに美人ということで男子生徒からの人気はすこぶる高いらしい。


「クラスの催し物についてなんだけど、規定が配られていたはずだけど一部修正があったの。だからこのプリント、折を見てあなたのクラスの実行委員に渡してくれる?」

「分かりました。明日にでも渡しておきます」

「お願いね」


 彼女は笑ってそう言った。いつもは険しい顔をして学園の風紀を取り締まっている彼女だがそんな顔を見るとギャップで少しドキッとしてしまう。ってダメだ。俺には紅音がいるんだから。


 私は紅音の手伝いを終えてカバンを取るために教室へと戻っていた。すると式影君が誰かと話している所を目撃した。


「誰なの……? あの人は……」


 彼と話している相手の人……見覚えがある。確か上級生で風紀委員の武田先輩だ。なんで武田先輩と彼が話をしているのだろう。彼と接点なんてないはずなのに……。紅音に続き今度は先輩なんて……。どうなってるのよ一体。先輩の笑顔に対して赤面している彼を見て激しい怒りが湧く。


 そして先輩が行ったのを見て私は彼に話しかけた。


「武田先輩と仲、良かったのね。随分と楽しそうに盛り上がってたみたいじゃない」

「えっ……礼奈!?」

「なんでそんなに動揺しているの……? あっ、先輩と赤面するくらい楽しい話をしていたなら今度は私と紅音も混ぜて頂戴ね? 楽しい話はみんなで共有しなきゃね」

「ち、違うんだ。確かに先輩の笑顔を見てちょっとギャップに驚いたのは認めるが別にそういう意味の赤面ではなくて……」


 彼が必死に弁明する姿は何度見ても飽きないわ……。憎いけれどやっぱり可愛い。好き。私に何とか理解してもらおうとする姿を見るのは悪い気分ではない。この時間だけは私のことしか考えられないってことだもの。どうすれば私を納得させることができるか頭をフル回転させて考えている。もっと私のことを考えて。私を見て。


「だったらどういう意味の赤面だったの?」


 私は間髪入れずに追撃する。私を説き伏せて。私をやり込める言い訳を考えて見せてよ。私のために。


「正直に言う。本当は確かにドキッとしたが別にそれだけで深い感情などない」

「そうなのね」


 あぁ~、正直に白状しちゃった。どんな言い訳が聞けるのか楽しみだったけれど仕方ないわ。だって彼らしいから。昔から嘘が下手でそんなところがまた愛らしいのよね……。そして……憎くて憎くて好きで苦しくなる。


「まあそういうことなら仕方ないわよね。だって生理現象を止めることなんてできないもの」

「礼奈……」

「紅音には言わないから安心して」

「ありがとう……」


 よし紅音に武田先輩のことを言いに行こう。言い訳をしようが正直に言おうが赤面した時点でアウトよ。私がそんなに聞き分けのいい人間なわけないでしょう。紅音がこれで離れても味方がいなくなったあなたそのそばに私だけはちゃんと一緒にいてあげるからね。ふふふ……













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