第6話
唐突に昔の約束事の話をされ俺が困惑していると礼奈は悲しいと言ったきり何も話さなくなった。ただ無言で俺を見つめているだけだ。その瞳はどこか冷たい。俺はこの状況にいたたまれなくなって沈黙を破ろうと口を開いた。
「そういえば、住谷さん文化祭の準備を手伝ってもらったって礼奈に凄い感謝してたよ」
俺は彼女が住谷さんに接近した理由を探ろうと住谷さんの話題を持ち掛けてみることにした。
「住谷さん?彼女ほんとに人懐っこくて可愛いわよね。なんて言うか人を疑うことを知らないみたいな」
「なんかその言い方は少しトゲがあるように聞こえるな……」
「……?別にそんなつもりはないわよ」
「なんで礼奈は住谷さんを手伝うことにしたんだ?」
「その質問こそトゲがあるように聞こえるのだけど……?私が手伝ったら何か変?私は生徒会役員としての責務を全うしただけよ」
「そんなつもりはなかった。変なことを聞いてすまない」
「あとは……純粋に彼女の頑張っている姿をみて力になりたい!って思ったからかしら」
彼女はそう言って俺に微笑む。その笑顔が俺には眩しく見え、同時にその言葉を聞いて自分が恥ずかしくなった。
俺は彼女が何か目的をもって住谷さんに近づいているのではないかと疑っていた。しかし彼女はただ生徒会役員としての責務を果たしていただけだった。それに彼女は住谷さんを純粋に思いやる気持ちを持っていたんだ。それなのに俺は目を曇らせて彼女を疑ってしまった……
幼馴染を信じられなかった自分が恥ずかしい。礼奈すまない……
しかし俺の反省も数秒で撤回させられることになる。
「ふふ……そう言って欲しかったんでしょう?」
「え?」
「あなたは私にそう言って欲しかったんでしょう?私が住谷さんを純粋な気持ちで手伝ってるって……」
「何を言ってるんだ?礼奈」
「あなたは昔から信じ込みやすいから……私がちょっと適当なこと言うとすぐに騙されるんだもの……」
「じゃあ住谷さんの力になりたいってのは嘘だっていうのか?」
「……さあ、どうかしら?」
そう俺に告げる彼女は先ほどの微笑みが消えいつもの無表情に戻っていた。彼女の本心が分からない。一体何がしたいんだ……礼奈
「ふふ……そんなに不安そうな顔しないでよ?住谷さんは私にとっても大切な友人よ。私は住谷さんの相談にも乗るほどの仲なんだから」
「相談って?住谷さんは何か悩んでることでもあるのか?」
「流石に相談内容を教えるようなマネはできないわ。強いて言うとしたらあなたのこととしか」
「俺のこと?」
「ええ。彼女はあなたのことについて最近、私によく相談してくるわよ」
俺のことって何だろう?気になるが、ここで訊いたところで教えてはくれなさそうだな。礼奈は昔から口は堅いほうだ。彼女は用事があると言って帰っていった。
俺がひとり廊下で立ち尽くしていると妻原が声をかけてきた。
「浅井、こんなとこで何やってんだ?」
「いや何も。あ、妻原って住谷さんの悩み事とか何か知らないか?」
「住谷の悩み事?知らないな……―――いや、一つだけ思い当たることがあるが俺の口からお前に言う訳にはいかねえな」
「何だよそれ」
「鈍感野郎、お前自身で気づくべきだろそりゃ。俺に言わせんな」
妻原が少しキレ気味に俺を詰る。なんで住谷さんの悩み事を尋ねたくらいでここまで言われなければならないんだ。それにしても礼奈も妻原も知っているというのになぜ俺だけ住谷さんの悩みを教えてもらえないのだろう……
まあ仕方ない。今日は帰って寝よう……俺は非常に疲れていたので一刻も早く帰宅しようと学園を出た。
学園を出て、自宅の前までついたところで俺のスマホの通知が鳴った。俺はその場では確認せずに玄関に上がり、自分の部屋へと向かった。
そして部屋に入ってスマホを確認すると……
どういう状況だよこれ……
なぜかSNSのグループに招待されており、そこには礼奈と住谷さんがいた。どういうことだ?なぜ俺がこの二人のグループに?色々疑問が浮かんだが深く考えずにその招待を受けた。
俺は早速メッセージを送る。
『招待ありがとう。これどういうグループ??』
するとすぐに住谷さんから返信が来た。
『浅井君さえ良ければ今度3人でちょっと遠出して遊ぼうと思って……どうかな?』
遊びの誘いきた!これは住谷さんと仲を深めるチャンスだと思った俺は二つ返事で了承した。
『もちろんOK!楽しみだよ』
『日付はまた追って連絡するから』
住谷さんと遊ぶ約束か……楽しみだな。しかし住谷さんは俺のSNSを知らなかったはず。恐らく礼奈から聞いたのだろう。礼奈が仲を取り持ってくれたってことか?そういえば俺が前に住谷さんとの件を前に話したときに応援してくれるとか何とか言ってたような……それが本心かどうかは分からないが……
しばらくして個人メッセージが礼奈から送られてきた。
『今回の遊びで住谷さんと距離が縮まるといいわね』
『ありがとう。礼奈が取り持ってくれたんだろ?本当に助かった』
『気にしなくていいわよ。幼馴染をサポートするなんて当然だもの。ただ、私もついていくからね』
『3人で遊ぶってことだもんな。りょーかい』
とりあえず3人で遊ぶことになった俺。礼奈の本心はいまいち分からないが、住谷さんとの仲を深める絶好の機会だ。
俺は期待に胸を高鳴らせている。
だが同時に不安を感じていた。それはこの遊びが悪夢の始まりになるのだと俺はどこかで気づいていたからなのかもしれない。
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