第5話

 突然、住谷さんに急接近した礼奈。彼女が何を考えているのか俺には分からない。しかし一つだけ確かなことがあった。それは、彼女が何らかの目的をもって住谷さんに近づいているということだ。以前までの彼女はそのクールな性格もあって積極的に他人と関わろうとしなかった。ましてや、知り合って間もない短期間のうちにあんなに親しげに話すような性格ではなかったはずだ。何か裏がある。俺はそう予感していた。


住谷さんが教室に戻ってくるのが見える。どうやら礼奈との会話を終えたようだ。俺はすかさず声をかけた。


「住谷さん大丈夫?」

「えっ何が……?」

「いや……何か相談でもしてたのかなーって」

「さっきも言ったけど女の子の話を詮索するのはどうかと思うよ?」

「そんなつもりはないよ……あ、そういえば礼奈といつの間に親しくなったの?」

「私、今文化祭の実行委員をしてるんだけどちゃんとできるか不安だったんだ……そんな時、闇夜さんが生徒会として手伝ってくれたの。そのお陰で円滑に準備が進んでるんだよ。そういった縁で仲良くなったの」


なるほどそうだったのか。礼奈が住谷さんを手伝ってたんだ。確かに礼奈は昔から何でも完璧にこなしてしまうからな……味方に付けばこんなに頼りになる人物は他にいないだろう。逆に敵に回したら……考えたくもないな……


「そうだったんだ。でも確かに、昔から礼奈はクールに見られがちだけど面倒見がいいところもあったから」

「本当にそうだよ。闇夜さんの方から話しかけてきてくれたんだもん。意外と気さくな人だよね」

「へぇ~……そっか……」

「あんなに綺麗で頭も良くてリードすることもできるなんてもう完璧だよ。私もう闇夜さんに一生ついて行っちゃう!」


おどけてそんなことを言う彼女。それにしても彼女は礼奈に対して相当、信頼を置いている様子だ。


しかし、俺はある一つのことが引っかかっていた。それはわざわざ礼奈の方から話しかけて手伝ったというところだ。確か生徒会役員は文化祭の準備をする際に大筋を決めるだけで細かいことは実行委員に委任されていたはずだ。それなのになぜ礼奈は住谷さんに積極的に手を差し伸べたのか……


これは幼馴染の俺だからこそ覚える違和感だが礼奈が他人に対して積極的に関わっている所を今まで俺は見たことがなかった。もちろん、最低限の挨拶はするし基本的な協調性もある。面倒見が良いというのも別に嘘ではない。ただ、それは身内に限られるという話だ。


とにかく昔から礼奈は自分から話しかけてまで友人など必要ないという性格だった。


それが何故か今になって住谷さんと急に親密になり始めた。もちろん住谷さんと意気投合してただ純粋に友人になりたいだけという可能性もあるが……うーん……


そうこうしているうちに休憩時間が終わり俺と住谷さんは私語をやめて授業を受ける態勢に入った。


ダメだ全然頭に入ってこない……


俺は今日の幼馴染のあらゆる不可解な行動に気を取られており授業に全く身が入らない状態だった。


そして終始ぼーっとしたまま授業をこなし放課後になったので俺はカバンに机の中の荷物を詰め込んでいた。今日はもう帰って休もう。なんか疲れた……


教室を出て廊下に出ると俺の聞きなれた声がして一瞬で気を引き締めさせる。


「式影君、今帰り?」


声はいつものように起伏なくまるで感情がないかのように冷たい。


「礼奈……」

「どうしたの恐ろしいものを見ちゃったみたいな顔して」

「……そんな顔してないよ」

「……――昔、私とした約束を覚えてる?」

「……?」


突然どうしたんだ。脈絡のない昔話に俺は返す言葉もなかった。


「すまん、礼奈が何を言っているのかさっぱりだ」

「やっぱり忘れてるのね……私、悲しいな……」


何か昔に約束をしていたらしい。しかしそれを思い出すことはできなかった。

彼女の表情は能面のように無感情、無機質そのもので彼女の感情を読み取ることができない。『悲しい』と言ってはいるが声に抑揚がなく、それが本心なのか、その言葉にどういった感情が込められているのか俺には知る由もなかった。




















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