第4話

「浅井君、大丈夫?何だかあまり顔色が良くないように見えるけど……」

「住谷さん、平気だよ。ちょっと貧血ってだけだから」

「もし体調が悪いのなら無理せずに休んでね?保健室一緒について行くから」

「ありがとう、でも本当に大丈夫だから。気持ちだけで嬉しいよ」


俺は今日の礼奈との出来事から自分の幼馴染が一体何だったのか良く分からなくなっていた。最近の礼奈は俺がこれまで見てきた礼奈とは似ているようでまるで違う。姿かたちそっくりな別人になったような感覚を覚えていた。


以前の礼奈ならあんな不可解な冗談はつかない。一体どうしてしまったんだ……?


俺はよほど思い詰めていたのだろう。住谷さんが声をかけてくれた。いつもそうだ。住谷さんは周りの人の機微に良く気が付いて率先して人助けを買って出るような性格だ。そういうところがやっぱりいいよな……


住谷さんと会話を終えて机に突っ伏していると背後から唐突に声をかけられた。


「君、浅井式影くんだよね?俺、隣のクラスの者なんだけど……闇夜礼奈さんと幼馴染って本当?」

「ん……?ああ、礼奈とは幼馴染だけど、どうかしたの?」

「実はさ、俺彼女と仲良くなりたいんだけど……彼女の連絡先とかさ、教えてくれないか?あと彼女の趣味とか何か知らない?」


昔からそうだ。俺は彼女の幼馴染ということもありこうして男子生徒が俺に彼女の連絡先を訪ねてくることがよくあった。確かに直接、彼女から訊くのはハードルが高そうだな……彼女はクールな性格もあってあまり人を寄せ付けない。おまけに超絶ハイスペックときたら男子がしり込みしてしまうのも無理はないだろう。だから、そういう男子は大抵、与しやすそうな俺を訪ねてくるというわけだ。


「悪いけど、俺そこまで彼女と仲がいい訳じゃないんだ。それに勝手に連絡先とか教えるのも彼女に悪いし……ごめんね?」

「そうか……まあ、それならしゃーないな。じゃあね」


俺はだいたいこんな風に断っている。流石に彼女の許可もなしに勝手に連絡先とか教えるのもどうかと思うし……


ふと、廊下の方に目をやると住谷さんが誰かと話しているのが見えた。その人物がちょうど影と重なっており横を向いているため、窓際の席の俺の方からは視認しづらく黒髪ロングの女性ということだけしか分からない。


通常であれば顔が微かにしか見えていないので、誰なのか判別できないはずなのだが……良く見知った雰囲気や佇まいを感じ取っているからだろうか何故か俺には誰なのかはっきりと分かった。あれは……礼奈だ。


そして礼奈と住谷さんは何やら談笑している様子だ。礼奈と住谷さんが二人っきりで話している所なんて初めて見た。いつの間にあんなに親しくなったんだ?しかも物凄く楽しそうだ。


今日の礼奈の不可解な行動を受けてから俺は礼奈の動向が気になり始めていた。

俺はおもむろに立ち上がると廊下へと向かった。


「礼奈、住谷さん、何を話してたの?」


俺は二人の会話に割り込んだ。何か最近の礼奈の行動を見ているとどうしても嫌な予感が頭から消えない。もし住谷さんにも俺にやったみたいに悪質な冗談とか言っているのだとしたら……それで住谷さんが傷ついたら……いや流石に礼奈もそんなことはしないはずだ。あれは幼馴染でお互いが分かりあっている間柄だからこそしたもののはず……そうであってほしい……俺はただそう祈ることしかできない。


「女の子同士の会話を詮索するなんて無粋だよ浅井君」

「住谷さん……」

「ふふ……式影君、どうしたの?そんなに不安そうな顔をして」

「いや……別にそんな顔してないだろ……」

「そういえばさっき浅井君、体調悪そうにしてたからそれじゃないかな?」

「あら、大丈夫?保健室一緒に行く?」

「大丈夫!ほんとに、大丈夫だから……」

「それなら悪いけど、今は住谷さんと二人だけでお話ししたいの。ごめんね?式影君」


彼女はそう言って住谷さんと二人でどこかへ行ってしまった。その表情はどこか俺をあざ笑うかのように見える。礼奈、急にどうしたんだ。何で住谷さんとあんなに親しくなっている?あの表情の意味は?俺は疑問で頭がいっぱいになっていた。


礼奈……お前は一体何を考えているんだ……?




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