第3話

 俺はブラインド越しに覗いていた場所とみられる3階の教室へと向かっていた。急いで階段を駆け上がり三階の奥の方にある閑散とした場所に着いた。


 確かこの辺りの教室だった気がするが……。生徒会室か……

 

 俺は躊躇することなく扉を開けた。するとそこには見慣れた幼馴染の姿があった。


「礼奈……?なんでここに……?」

「どうしたの式影君、そんなに慌てて。なんでって私は生徒会の役員よ?」


 教室内は礼奈以外誰もおらず彼女はきょとんとした顔でこちらを見ていた。


「ここに誰か入らなかったか?」

「いいえ、私以外は誰も来ていないわ」

「そうか……単刀直入に聞くけどさっきブラインド越しにこっちを見てたのは礼奈か?」


 別にブラインド越しに覗いていたからといって俺にトランシーバーを仕込んだ犯人だと決まったわけではない。だが、明らかにこちらを伺う目線が怪しかったのは事実だ。そして最近の様子がおかしい礼奈を俺は少し怪しんでいたもの確かだった。彼女が俺のカバンに仕込んだのでは?そう疑ってしまう自分がいた。


 自分の幼馴染を信じたい気持ちと礼奈を疑ってしまう自分に対しての憤り、色んな感情を混ぜ込んで俺は彼女にそう問いかけた。


 俺が礼奈にこうして単刀直入に聞いたのは否定してほしかったからなのかもしれない……


しかし……


「ええ。私よ?」

「えっ……?」

「だからあなたの方を見ていたのは私ってこと」


 彼女は何ともないような顔でそれを肯定して見せた。


「何で見ていたんだ?何か理由があるんだろ。ほら、例えば急に外の景色がみたくなったとか!」


 俺は彼女が何か理由があってしているに違いない。いやそうであってくれなくては困る。俺の良く知っている幼馴染がこんなことするはずがないという感情に支配されていた。


「私がどういう理由で外を見ていたって別にいいじゃない。私ってあなたにとっては『幼馴染以外の何物でもない』んだもの……」


 その言葉を聞いて俺の微かな希望が打ち砕かれた。それは俺と住谷さんの会話を盗聴していないと出てこない言葉だった……礼奈が俺にトランシーバーを仕込んだっていうのか……


「……―――自分のしたことが分かってるのか!?なんか最近おかしいぞ。こんなことがバレたらどうなるのか頭の良い礼奈なら分からないはずがないだろ!」

「何を一人で興奮しているの?私は何もしてないわ……」

「じゃあ何で俺の言った言葉が分かるんだ!?」

「私、勘がいいから」


 彼女は表情一つ変えることなくそう言い放つ。確かに礼奈が仕込んだという証拠は何もない。スパイグッズに通信記録が残るとは思えない。しかも彼女は手袋をはめていたため指紋もついていないだろう。客観的に見るとただの俺の言いがかりでしかない。


 どのくらいの時間が経っただろう。俺はもうパニックを引き起こしており頭がフリーズして何も喋ることができない状態だった。彼女の方も無言でこちらをただ見つめているだけだ。その瞳は酷く冷たく見える。


 しかし、静まり返った教室で唐突に彼女が笑い出した。


「ふふふ……。ごめんなさい、あなたの反応がおかしくってついからかっちゃった」

「え?」

「これ弟のおもちゃなの。あなたに仕掛けたらどういう反応するかなーって。スパイごっこ?」

「なんだそうだったのか……。いやビビらせるなよ」


 礼奈はおもちゃのトランシーバーを自分のカバンから取り出した。これで俺の声を聴いていたのか……彼女は冗談と言って笑っている。俺も彼女に合わせて笑った。


 しかし内心では恐怖に打ち震えていた。今までの彼女は絶対にこんな悪質な冗談などつかなかったはずだ。何かがおかしい。


 俺は今、目の前にいる人物が幼馴染の姿をした別の何かに見えていた。彼女の言葉からは情緒が感じられない。まるで感情のないモンスターのような……


 俺はそんな恐怖心を隠して今はひたすら彼女に合わせるしかできなかった……


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