第1話 運命と愛


「僕の運命の人に、なってくれない?」



「…はぁ?」

そう言うのが精一杯だった。運命も何も、私は今別れを切り出しているのだ。そもそも、運命の人とはなるものなのか。なぜこんなタイミングで文脈も無しに言い出したんだ。すべてがおかしすぎる。

私の混乱をよそに、彼はもう一度繰り返す。


「僕の運命の人になってくれないかな。君を愛したいんだ」


「__ちょっと待って。順番に聞く。まず、運命の人って何?」

脳の発するエラーコードをなんとか整理し、彼に問う。

「僕が心から大切にしたいって思える人のこと、だと思ってる」

「え、なに、じゃあ今までは大切じゃなかったってこと?」

「いや、違、そうじゃなくて…」

彼は言葉を探し、ゆっくりと語りはじめた。

「僕は、今まで君に恋をしていたんだ」

「はぁ…?」

本格的に何を言っているのかわからない。恋をしているならいいじゃないか。

「恋って、根本的には自分のためなんだと思う。幸福感とか、優越感とか、言い方は悪いけどそういうもので構成されてるっていうか。勿論それも素晴らしくて、自分を高めていけるんだけど」

「あー…ね?」

「でも、『愛』というものは、僕の思いなんて関係なく、君のことだけを想って行動できることだと思うんだよ。そして僕は、心から君だけを愛することができる、という意味で『運命』の言葉を選んだんだ」

「うーーん…なるほどね…??」

ニュアンスは伝わったが、わかるようでわからない話だ。

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