お化け屋敷

 私が過去に自宅として住んでいた一軒家が、なぜお化け屋敷のような状態になっていたのか不思議に思う時がある。私が十九歳──定時制高校(定時制高校は四年制の高校である)の学生をやっていた時に両親が離婚し、母・妹とともにその家を離れたのだが、私に物心がついた時には、すでにその家は「家族全員が常に『なにかしらの心霊現象』にあう家」と化していた。

 心霊現象としては些細なことで、たいして怖くはないのだが。うちの父が洗面所で歯を磨いていたら、なんの前触れもなく急に見知らぬ中年男性が背後に現れる──とか。うちの母が洗濯物を洗濯機で洗う準備をしていたら、父(母から見たら夫)のパジャマを着た人がトイレ方面に歩いて行った気がしたのに、実際には誰もトイレに行っていなかった──とか。妹にだけ聞こえる、毎年節分の日になると自宅のすぐ脇をドスン、ドスン、ドスン……と巨人が歩くような足音がする──とか。私自身も、私だけが自宅で留守番をしていると、見知らぬ幼女が妹の名前を一度だけ呼ぶ声が聞こえ、返事がないと、その幼女があからさまな噓泣きをするという経験があったり。数えだしたらキリがないが、家族全員が「なにかしらの心霊現象」にあっていた。

 あんまりにそういう現象とあうため、家族全員が、心霊現象と出会うたびに笑い話として心霊現象を話すようになっていたのだが。その家にいわくなんて一切なく、なんなら初めから「父の実家」として建てられたものだ。父方の祖父が、なにもない(曰くすら全くない)更地さらちをわざわざ買い、自分の家族と一緒に暮らすために建てた一軒家である。父と母の結婚を機に、父方の祖父母は一軒家のすぐ近く──近くといっても同じ土地の中に、祖父母が二人暮らしする用のプレハブ住宅を作ってそこに住み始めており、父の実家といえど祖父母とは別居状態だったのだが。祖父母の様子を見るに、プレハブ住宅の方は心霊現象なんて起こっていないようで、終始「心霊現象とはなんぞや?」という態度でいたため、たぶん私たちが住んでいた方にしか心霊現象はなかったのだろう。

 もしかしたら、私たち(祖父母を含む)が知らないだけで、土地になにか曰くがあるのかもしれないのだが、私が住んでいた方の一軒家だけがピンポイントでお化け屋敷化していた理由は一体なんなのだろうか?これを執筆しているのが二〇二三年二月であるため、あの一軒家から離れてから今年で丸十年を迎えるのだが、それだけの年月が経っても、ふと疑問に思うのだ。は、なぜお化け屋敷化してしまったのだろう──と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る