第4話 テーマ「氷」
製氷機に、カビが生えていた。
新たな生命の誕生である。
そんな妙なことを考えながら、私はそれを見ていた。
私は記憶の糸を手繰った。確か夏にオレンジジュースで氷を作ろうとして、製氷機を使ったのだ。そのせいかもしれない。
よく洗ったはずなのだけれど、洗い残しがあったのかもしれない。自分が大雑把な性格であることはよくわかっている。完璧に清潔な部屋で暮らすことなど、考えたことはない。
今のうちに洗っておこうか。だが冬に氷が必要になることなどあまりない。今日これに気が付いたのだって、たまたま冷凍室から鶏肉を出そうとしたとき製氷機の棚を引き出してしまっただけに過ぎない。
製氷機のカビと顔を見合わせながら、私は思案する。その時。
「ぷわ」
水中から泡が沸き上がってきたような妙な音が耳に入ってきた。
私は周りを見回すが、音の出るようなものは何もない。近くにあったシンクの中は、珍しく空だ。
「ぷう」
私はまた周りを見回し、下に視線を落とした。
目が合った。
製氷機の一番右端。
小さな子供が、体育座りをしてこちらを見上げていた。
どうやら本当に、新たな生命が誕生していたらしい。
半ば放心した状態で、私はそれを見つめる。
全体的に色素が薄く、白目と黒目の区別がないことを除けば、それは驚くほど人に近い形をしていた。まるで精巧な人形のようである。しかしそれゆえに、体の底からおぞましさが生まれてくる。
「きゅい」
それは言った。いや、鳴いたと言った方が正しいか。
なんだ、何かを求めているのか?それとも、冷凍庫を閉めてほしいのか。私はそれの様子をうかがったが、わかるはずもない。
製氷機を洗うべきか、否か。
私は散々悩んだ挙句、すべてを忘れて冷凍庫の扉を閉めた。
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