第38話 ギルドマスター昇格!!

 ダブの生き残りの竜人族を差し出して、多額の報酬を得た。

 酒場で受け付けを済ませて、ついに俺は、ギルドマスタークラスの冒険者となった。

 長かった。これまでたくさんの苦労を重ねてきた。


 あとはドリングス迷宮を攻略して、願いを叶える玉を手に入れるだけだ。


「このままでいいの? セント」


 酒場のテーブルで、母さんが肘をついて吐き捨てた。

 あれから一夜明けても、俺はウェスタたちを捜していない。

 正直なところ、あいつらのことはもうほっとこうと思っている。


 散々世話になったが、いまさらどうしろというのだ。

 俺の嘘がバレた。信用のない俺が適当なことを言ったって、聞く耳持たないだろう。

 あいつらには悪いが、ここまでだ。


 迷宮は、母さんとイステの三人で挑む。


「しょうがないだろ。こうなった以上、俺の出る幕じゃない」


「大事な仲間なんでしょ?」


「じゃあ母さんならどうするんだよ」


「うーん。少なくとも、殺し合いにはならないよう、間を取り持つかな。巻き込んだのはこっちなんだし」


「その方法は?」


「さあ?」


 ったく、無責任だろ。

 それは俺も同じだが。

 ウェスタとスーノ、そしてサウムを同じパーティーに入れたのは俺自身なわけだから。


 母さんがため息をついた。


「本当はなんとかしたいんでしょ?」


「別に」


「素直じゃないわねえ。じゃあこうしましょう、あの女の子たちを見捨てるのなら、私はドリングス迷宮に参加しない」


「はあ?」


「私だって、セントのお嫁さん候補をみすみす見殺しになんてしたくないものー。頑張りなさいよ、男の子」


 いまさらなに言ってんだこの人は。

 あいつらを嫁に取るつもりなんか微塵もないのに。

 とはいえ、母さんまで失うのはよろしくない。


 まったく、しょうがねえ。


「なら、そっちも協力してくれよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ウェスタは王都にいるだろう。

 居場所を突き止めるのは難しくない。広い街とはいえ、人が多い分目撃者も多い。

 というわけで、


「ほら、いた」


 街外れの小さな宿に、ウェスタはいた。

 部屋には、手足を縛られ口と目を塞がれたサウムがいた。


「セント……」


 俺の声に反応したサウムが唸る。

 ウェスタは、目を真っ赤に腫らし、酷くやつれた様子であった。

 全身から気力と精神力が抜け落ちたような、亡霊のような姿。

 見ていられない。


「やっぱり、サウムは殺せなかったようだな」


「臆病者だと笑いなさいよ」


「気にすんなよ。お前はそういうやつだ」


 部屋に母さんが入ってくる。

 その肩には、カリットにいるはずのスーノが担がれていた。

 大人しく眠っているが、どうやら母さんが強引に連行したようである。


「早いな」


「急いで来たのよ」


 スーノをおろし、頬を叩いて目を覚まさせる。

 正気を取り戻すと、スーノはハッと警戒気味に部屋の隅へ逃げた。

 サウムの拘束も解く。


「これで、全員集合だな」


 スーノが睨んできた。


「どういうつもりですか。また嘘で騙すつもりですか」


「まあ、なんつーか。一旦話を聞いてくれよ。スーノ、はっきり言ってお前を騙してた。それは認める」


「……」


「でもさ、ウェスタと友達になれて嬉しかったんだろ? なら一回、話し合おうぜ。……ウェスタだってそうだ。姉さんのことは本当に残念だが、サウムを責めたってしょうがないだろ。サウムは、好きで召喚されたわけじゃない。お前だってわかってるから、殺せなかったんだ」


 三人が三人とも黙ってしまった。

 昨日まで仲良しだったのに、いまじゃ憎しみを向け合う関係。

 ずっと避けてきた光景が、広がっていた。


「私だって」


 スーノがつぶやく。


「ウェスタさんにも事情があるのはわかります。おねえさんのためだって、言ってましたし。だけど……」


 ウェスタとサウムも視線を合わせた。

 申し訳無さと、やるせなさが、言葉のように行き交う。


「お前ら、俺がパーティーから抜けるとき、引き止めただろ。お互いに利用し合う道具であろうって言ってただろ。なら、俺を引き止めた責任を取れよ。最後まで、俺の道具でいろよ」


 ウェスタが槍を握る。

 矛先がサウムに向けられる。


「ウェスタさん……わたくし……」


「最後に答えて。どうして黙ってたの?」


 数秒の間をおいて、諦めるようにサウムは答えた。


「怖かったんですの。みんなに嫌われるのが。……このパーティーから、追放されるのが」


「……」


「孤独だった魔界での生活から解放されて、大事な友達に巡り会えた。この『いま』を、失いたくなったんですの。……本当に、ごめんなさい」


 だから、お前が謝ることじゃないだろうに。

 ウェスタはぐっと歯を食いしばったのち、


「……セントの言う通り、サウムを殺したってしょうがないわよね」


 槍を落とした。

 殺したってしかたない。姉はもう戻ってこない。そんな向かう先のない悔恨が、涙となって溢れる。


「ごめん、サウム」


「ウェスタさん……」


 これでウェスタとサウムは大丈夫か。

 この二人はもう平気だろうが、はたして。


「スーノは?」


「私は……」


 簡単に許せはしないだろう。

 それでもいい。お互いの間にできた溝がちょっとでも埋まるなら。

 まずは仲直りして、それから少しずつ解消していけばいいのだ。


「なかったことにしてくれなんて言わねえよ。ただ、ウェスタのことが大好きだったなら、少し時間をくれ」


「私、は……」


 スーノが懐からナイフを取り出した。


「やっぱり無理です」


「スーノ……」


「私、言いましたよね。差し違えても、絶対に殺すって」


 ウェスタが急いで槍を拾おうとする。

 しかし、あまりにも近すぎた距離に対応が遅れ、


「みんなの仇!!」


 スーノのナイフが、ウェスタの胸を突き刺した。


「ウェスタ!!」


 うずくまった彼女の体から、とめどなく血が溢れる。

 確実に致命傷だ。回復魔法をかけてほしいところだが、スーノは決してウェスタを助けない。


「ふふ、やった……。殺した……」


「スーノ、頼む。ウェスタに回復魔法を!!」


「嫌です」


「……仲間だろ!!」


「その仲間を裏切ったのは誰ですか!! 私は、誇り高きダークエルフです。もう、人間には騙されない。人間は、ダークエルフを苦しめる悪魔なんだ!!」


 そう言い残し、スーノは部屋から立ち去ってしまった。

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