第36話 ダブ再び
盗賊団ダブの構成員は三人。
リーダーのダークエルフと、サウムよりも上級の悪魔。
それと種族も性別も不明の者。
前回の戦闘で知り得たのはたったそれだけ。
そして知り合いの冒険者から金で買った情報によると、彼らはカリットという街に奴隷を売りに来るらしい。
正確には、誘拐してきた少年少女を奴隷商人に売りつけるのだ。
カリットといえば、前回俺たちがダブに挑み、敗北した地だ。
しかしあの頃とはなにもかもが違う。今回は、パーティーメンバー全員で挑む。
逃しはしない。
「セント」
馬での移動中、ウェスタが声をかけてきた。
「勝てるわよね?」
「当たり前だ。今回は母さんに、イステもいる」
「……今度はバカしない」
「ああ、それは頼む」
「ところで、今回も運良く見つけられるのかしら?」
おっとそうだった。
敵を捜す術として、スーノを頼っているのだが、ウェスタには秘密だった。
ダークエルフは同じダークエルフが近くにいるとわかる。この特性を利用すれば今回も見つかるはずだが、ウェスタに知られてはまずい。
スーノに目配せすると、彼女は頷いた。
「ねえセント〜」
今度は母さんが問いかけてくる。
「そんなに強いの? ダブ」
「まあね。母さんも油断しないように」
「や〜ん♡ ママを心配してくれるなんて、そんなにママが好きなのね」
無視することにする。
ちなみにあのお喋りイステだが、なんと喉を痛めてだんまりを決め込んでいる。
ホントラッキー。ホント僥倖。
なんでも昨晩、第三〇〇五回竜人族カラオケ大会があったらしく、丸一日歌いまくって喉をやっちゃったのだ。
一応戦えはするので、まあ大丈夫だろう。
もうすぐ川を超える。そしたらカリットに到着する。
橋が見えてきた。馬の速度をあげる。
「セント、止まって」
母さんが真面目な口調で指示してきた。
決してイタズラでもおふざけでもない。
なにかあるのだ。
命令に従い、馬を止める。
「どうしたの、母さん」
「いるわ。敵がいる。殺気を感じる」
こんなときに、別の盗賊か。
辺りは木々。敵が隠れるにはもってこい。
水筒を飲み干したイステが近づいてくる。
「セントー、水くれー」
「ちょっと待ってろ」
スーノが腕を引っ張ってきた。
「どうしたスーノ」
「……います」
「え!?」
すると、
「もういい、お前ら出てこい」
木々から、見覚えのあるダークエルフと、フード被った者が二人現れた。
彼らだけじゃない。他に何人も、あらくね無法者のような男たちが姿を見せたのだ。
しかも、橋の向こうにも。
待ち伏せされていた?
橋で挟み撃ちにするつもりだったのか?
「ようお前ら、久しぶりだな」
ウェスタが槍を握る。
落ち着け、非常事態だが、まだ戦闘は早い。
とにかく情報を集めるんだ。
「驚いた。偶然だな」
「なに言ってやがる。懲りずに俺たちを捕獲するつもりだったくせに」
「……」
「なんで知ってるんだ、って顔をしているな」
「情報を売られたのは、俺たち」
その通り、といった風にダブのリーダーが笑った。
あの冒険者、こいつらの仲間だったのか。それとも俺たちより報酬がよかったのか。
「してやられたな」
「……目的は? 俺たちを捕まえてどうする」
「おいおいおいおいおいおいおいおい、わかってんだろ坊主。わかってないならとんだマヌケだ。お前の仲間は良い金になるんだ。……近頃ちょっと金がなくてよお、んで、お前らの存在を思い出したわけだ」
「なに言ってる」
悪魔であるサウムのことか?
竜人族のイステ?
まさか……。
「そこの小娘、俺と同じ生き残りのダークエルフの小娘。お前はマニアが高値で取引してくれる」
全身の血の気が引いた。
ウェスタは眉潜め、目を見開いているスーノを見つめている。
くそ、くそが。
こうなったらとにかく、これ以上余計なことバラされる前におっぱじめる。
後フォローならいくらでもできる。
「お喋りはたくさんだ。母さん、イステ、みんな、こいつらを蹴散らそう!!」
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