第34話 お色気回? 温泉クエスト

 酒場に立ち寄ってみると、スーノがいた。

 深刻そうに、いろんな人に話しかけているようだった。


「よ、スーノ」


「セントさん」


「なにしてんの?」


「ダークエルフ殲滅クエストに参加した人を探してて」


 そんなことだろうと思ったよ。

 とうぜん邪魔する。スーノには悪いけど、この件には触れてほしくない。


「成果は?」


「まだ……。すぐ見つかると思ったんですけど」


「ふーん。協力してやりたいけど、そろそろ次のクエスト行きたいんだ」


「わ、私も一緒の方がいいですよね?」


「もちろん。スーノがいてくれた方が嬉しい」


「そ、そうですか? えへへ」


 スーノの頬が赤くなった。

 やっぱり、こいつも俺に惚れてるんだな。

 惚れられているってすごく便利だ。いくらでも言うことを聞いてくれる。


「それで、なんのクエストに?」


「そうだなー」


 酒場の掲示板に貼られた依頼を吟味する。

 最近、討伐クエストばかりで飽きてきたし、これまでとは少し違ったクエストに挑んでみたい。


「これなんかどうでしょう」


「なになに……。温泉街で魔猿討伐、か。また討伐クエストかよ」


「でも、温泉です!」


 スーノの目がキラキラしている。

 うーん、温泉か……。たしかに魅力的だ。疲れた体も癒せるし。

 でも待てよ、スーノとサウムはお互いを男だと思っているんだよな? マズくないか、それ。


 てか、もう本当のこと話してもいい気がするんだけど。


「あのさスーノ」


「はい?」


「もし、俺のことが好きな女の子がパーティーに入ったら、どうする?」


「え……」


 あ、キラキラしてた目が一気にダークサイドに。


「いいんじゃないですか。でも、セントさんの一番は……私がいいです。絶対に」


「そんなに?」


「正直、セントさんのお母さんが、ウェスタさんを気に入ってるの、気が狂いそうになりました。最近じゃ、男であるサウムさんにすら、暗い感情を抱いちゃって」


「……」


「ウェスタさんやサウムさんのことも大好きなのに……。こ、こんな私、どう思いますか?」


「いいんじゃない?」


 こりゃサウムが女だってバラしたら嫉妬で殺し合いが始まるな。

 こいつ、ダークエルフは平和主義者みたいなこと言ってたけど、絶対嘘じゃん。


 となると、温泉は厳しいか……。

 えー、でも温泉入りたいなー。

 温泉の気分になってきちゃった。


 なんか、大丈夫な気がする。大丈夫であれ。

 どうにかなるだろ。

 よし、行こう、温泉!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 サクッと魔猿を討伐して、俺たちはとある温泉旅館に入った。

 なんとここ、混浴露天風呂があるらしい。

 混浴なら男と入るのは普通。故にスーノとサウムの秘密は守られるわけだ。


 もちろん、全裸なわけがない。みんな体にタオルを巻いている。これで裸を見て女だとバレることもないわけだ。


 胸の膨らみは誤魔化せないけど、パットを入れているということにしよう。

 強引だが、それで押し切ろう。もう面倒くさい。


「あー、きもちー。すべての苦労から解放されてる感じ〜」


「そうですわね〜。わたくし、温泉なんてはじめてですわ」


 サウムがピトっと体を寄せてくる。

 こいつ年中発情してんのかよ。


「サウムさん、魔界には温泉ないんですか?」


 スーノもこっちに寄ってきた。

 いくら華奢な体とは言え、女の子。

 さすがに興奮してきた。


「それが残念ながら。……ところでウェスタさん、そんなところで何しをしてますの?」


 ふとウェスタを見やれば、脱衣所に立ったまま顔を赤くしていた。


「なにって、どうして混浴なのよ!!」


「そうは言っても、もう着替えているじゃありませんの」


「セント、あんた出ていきなさいよっ!」


 なにこいつ、照れてんの。

 乙女じゃん。ちょっと可愛いじゃん。


 俺より先に、サウムが返答した。


「嫌ですわっ! セント様と一緒がいいですわ! 恥ずかしがることないですわよ、ウェスタさん。完全な裸じゃないんですもの」


 確かに、タオルで胴体まるまる隠しているのなら、水着よりも露出度は低い。

 ウェスタは諦めたようにため息をつくと、隅っこにぽつんと入浴した。


 そんなウェスタに、スーノがすーっと近づいていく。


「ど、どうしたのスーノ」


「ウェスタさん、体、傷だらけ……ですね。肩とか、太ももとか」


「あぁこれ? 私、いろいろ無茶してたから。見苦しいもの見せて悪いわね」


「そんなことないですっ! かっこいいですっ!」


「そ、そう? 背中とかもヤバいわよ?」


「背中の傷は戦士の誇りです!」


「恥だと思ってたけど……」


 話題に入ろうと、サウムも近寄っていった。


「でも、肌自体は綺麗ですわね。魔界オイルを塗っているわたくしと同じくらいだなんて、凄いですわね」


「そ、そうかな〜」


 いまここで俺が全裸になったら、こいつらどんな反応するかな。


「サウムさん、魔界オイルってなんですか?」


「魔界にのみ存在する超高級品ですわ。塗るだけだ脂も角質も落として保湿も数日続く優れものですの」


「そこまで美容に気を使うなんて凄いですね、並の女性でも、手を抜いたりするのに」


「スーノさんこそ、本当の女の子のような肌ですわよ」


「え?」


「はい?」


 眠たくなってきちゃったな……。

 あー、永遠にここにいたい。

 迷宮攻略、こいつらだけでやってくんねえかな。


「もしかしてスーノさんって……」


「あ! 大変ですサウムさん! セントさん顔真っ赤になってますよ!!」


「のぼたんですの!? 急いで運びましょう!!」


 なんもかんも解決して、毎日こんな感じでのほほんとできたら、いいのになー。

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