第33話 チーム隔離組

 今後、母さんはウェスタたちとの接触を禁ずる。

 実家に戻ってくれない以上、どうにかして隔離してやる。

 俺だって一人の男だ。女の子たちの前で親に甘やかされている姿など見せたくない。


 いやいや、女の子たちの前じゃなくてもあんなベタベタされたくはないが。


 というわけで、


「俺、イステ、母さん。今日はこのメンバーでやろう」


 同じ隔離組のイステと組ませることにした。


「イステくん、よろしくね☆」


「どうもおばさん」


「おば……」


「あはは、でもおばさん美人ですね。フリーなら付き合っちゃおっかなー」


「あらやだ。ふふふ」


 気持ち悪いからやめろ。


「とはいえ、おばさんだもんなー。やっぱり付き合うなら若い子がいいなー。俺さ、これまでの彼女、みんな年下なんだよね。あは! 年下好きなのよ俺。妹がいるからさ、その影響かもしれない。あ! そうだよセント! 妹、俺の妹がさ、セントに会ってみたいって。俺がお世話になってるからお礼しないとって。よくできた妹だろー。可愛いやつなんだよ。これがお兄ちゃん子でさー」


「イステくん」


「なに、おばさん」


「次おばさんって言ったら、殺ちゅ♡」


「……」


 お、イステが黙った。

 イステも感づいているんだろうな。母さんが強いってこと。


「よし、お互い自己紹介を済ましたところで、クエストを受注しよう。Aランククエスト『ゼッタイタオセナイスライム』討伐とかどう?」


「絶対に倒せないか〜。面白そうじゃん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ゼッタイタオセナイスライム。

 秘境の洞窟に生息していたそうだが、そのうちの一体が人里に近い森まで降りてきたのだとか。

 主食は雑草。人間を襲ったりはしない。習性としては無害なのだが、肝心なのはその臭い。


 腐臭とアンモニア臭が混ざったような、鼻が曲がるどこか鼻が落ちるレベルの異臭を放つのだ。

 しかも、かなりの広範囲で。

 森にいても人里まで臭いが届き、たいへん迷惑しているらしい。


 駆除しようにも、名前の通り絶対倒せないくらい耐久力があり、参っているのだ。


「イステ、母さん、ガスマスク外すなよ。……シューコー」


「平気よ。……シューコー」


 森を探索していると、すぐにスライムは見つかった。

 たいして大きくもない、一見弱そうなスライム。


「よし、まずは俺が」


 試しに剣を振り降ろす。

 が、


「硬いな、こいつ!」


 剣は弾き返されてしまった。

 母さんが接近する。


「忍法、即死の術!」


 一撃必殺の即死技。これで倒せなかったモンスターはいない。

 はずだったのだけど……。


「あら、ピンピンしてるわ」


「たぶん、魔法とか忍術にも耐性があるんだ。それより母さんは下がってろ、即死の術を使ったらしばらく戦えないんだから」


「は〜い。ママに気を使ってくれるなんて、優しいのね♡」


 イステが竜に変身し、ビームを発射する。

 山を吹き飛ばしたり、魔獣ケロベロスをも倒せる威力なのだが、傷一つついていない。


「ぐえ、ガスマスクが取れて臭いが〜」


「人間態に戻れ、イステ」


 うーん、これが絶対に倒せないスライム、か。

 このメンツでも苦戦するとは、思っても見なかった。


「どうするの? セント」


「物理攻撃は無駄、術も無駄。……向こうから攻撃してくることはないけど、臭いがキツすぎる。……しかもこいつ、かなり重いな。持って移動させるのも面倒だ」


 なにかでおびき寄せて、秘境に戻せないだろうか。

 大好物がわかればいいんだけど、困ったな……。


「よし、最終手段だ。イステ、もう一度竜になってくれ」


「ほい」


「どこでもいい、地面に向かってビーム発射して」


「ん? うん」


 地面に深い深い穴が開く。


「母さん、一緒にスライム持って」


 二人でスライムを持ち上げて、穴に落とす。


「埋めよう」


 地中深くに埋めれば臭いも気にならなくなるだろう。

 どうせなら一瞬で楽にしてやるか、故郷に戻してやりたがったが、しょうがない。

 人里の近くに来ちゃったお前が悪いってことで。


 そんなこんなで、無事にスライムを森に埋めた。


「あ〜ん♡ 立派だったわよセント。私たちとセントがいれば、ドリングス迷宮だって攻略できるわ」


「そうだぜセント。なんなら今から行っちゃう?」


 その前にギルドマスターに昇格しないとだろ。

 でもまあ……正直もうずっとこのメンバーでも良い気がしてきた。

 いや、ダメだ。母さんを頼りにするなんてこっ恥ずかしすぎる。


 やはりこいつらは、最終兵器として隔離しておこう。



 ちなみに、その夜。


「セ、セント様」


 俺の部屋に入ってきたサウムが、顔を歪めた。


「に、臭いが……」


「え、まだ落ちてないのかよ」


「で、でも、どんな臭いのセント様でも愛していますわ」


「じゃあこっちに来てキスしてくれよ」


「そ、それは……」


「ふーん、その程度なんだ。お前の愛」


「ひぃん!」


「ははは」


 体に染み付いた臭いが落ちるまで、とうぶんクエストはお休みだな。

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