第32話 ホント、めんどくさい

 ウェスタと話したあと、スーノを捜すことにした。

 小さな村だが、歩き回るにしてはやや広い。

 何軒目かの家に入ると、穴だらけの床の上に佇む、スーノを見つけた。


「スーノ」


 振り返る彼女の頬に、涙がそっと流れていた。


「セントさん、すみません。こんな、お見苦しい姿」


「いや、ぜんぜん見苦しくなんかないよ」


「ウェスタさんは平気ですか? ダークエルフ恐怖症なのに」


「え? あ、うん。大丈夫そうだよ」


 家の中をよく見渡してみれば、あちこちに血の染みができている。


 スーノが家の奥へ進んでいく。

 別室にあったボロボロのベッドに座ると、スーノは、過去を懐かしむように目をつむった。


「私の家です。ここ」


「そうなんだ」


「あの日、お母さんに会いに森の外に行っていたんです。ほら、私、エルフとの混血じゃないですか。お母さんはエルフで、別の森に住んでいたんです。そのおかげで、生き延びることができた」


「……殲滅クエストのあと、お母さんと一緒に暮らそうと思わなかったの?」


「私は混血なので、他のエルフ族が許しません。それに、私には目的がありますから」


 一族の復興と、復讐。

 スーノは、そのために願いを叶える玉を求め、俺の仲間になったのだ。


「ここに来てよかったです。しっかりと、覚悟できました」


「俺も協力するよ、復興」


「それもですけど……セントさん、実は私、恐れていたんです」


「なにを?」


「殲滅クエストに参加した人に、復讐することを。だって私は、あまり強くないですから。刺し違える覚悟でしたけど、それすら無理だって、本当は気づいていたんです」


 攻撃魔法を覚えたスーノは、出会ってころに比べて強くなった。

 しかし、戦闘が本職の人間の足元にも及ばないだろう。


「でも、決めました。私、絶対に復讐してやります。これからはちゃんと、クエストに参加していた人を捜して、全員……。そのうえで、復興するんです」


 深く、黒く、スーノの瞳が沈む。

 友や、家族、大事な人を無惨に殺された恨みが、彼女の胸で燃える。

 決して嘘でも口先だけでもない。スーノは本気だ。


「なあ、ダークエルフは本当に、人間に危害を加えてないのか?」


「どういう意味ですか」


 はじめてスーノに殺気を送られた。


「そりゃあ、些細な害は与えています。でもそれは!!」


「元をただせば人間のせい」


「そうです!! ダークエルフは平和を望む種族です!!」


 この感じ、やっぱりスーノはテロ計画を知らなかったんだな。

 はたしてダークエルフの実態はどうなのか。ウェスタの話はどこまで正しいのか。

 よそ者の俺が詮索するには、あまりにも闇が深すぎる。


「もしさ、俺がクエスト参加者を仲間にしちゃったら?」


「……殺します」


「そっか」


 ウェスタとスーノ。

 お互いに大切な友達でありながら、因縁の宿敵。

 本当にこいつらの関係は、めんどくさい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でやがった、こいつらがツヨスギオークだ」


 ダークエルフの住処を抜けてしばらくしたあと、俺たちは目的のオークたちと対峙した。

 というか、囲まれている。侵入者に気づいて、群れで始末しにきたんだろう。

 ざっと数えて、二〇体。ずいぶん繁殖したもんだ。


「作戦を伝える!」


「いらないわ、セント」


「はあ?」


 母さんが指を組んで印を結んでいく。

 あぁそうだった。母さんは元ニンジャだったんだ。


「分身の術!!」


 母さんは二〇人に増えると、


「忍法、即死の術!」


 オーク(二〇体)に触れただけで、ぽっくり即死させた。


「ふー、さすがにこの術を使うと疲れるわー。でも、うふふ♡ まだまだ現役ね」


 冷めるなー、こういうチートキャラ。

 俺が一生懸命パーティーメンバー集めていたのがバカらしくなってくるじゃん。


 ほら、女の子たち目を見開いてドン引きしてるよ。


「ねーねー、どうセント。見直した?」


「別に。母さんが強いのは知ってたし」


「相変わらずドライねー。んふ、ねえ知ってたウェスタちゃんたち、セントねえ、こんな性格してるけど、母の日はいつも……」


「黙れ!!」


 余計なことをペラペラと……。

 グイグイっと、サウムとスーノが母さんに接近する。


「なんですの! セント様がなんですの!!」


「セントさんのこと、もっと知りたいですっ!」


 知るんじゃねえ!


「母さん、言ったらキレる」


「えー。んふふ、可愛い女の子の前だからカッコつけてるのね」


「違えよ!」


「可愛い女の子って、わたくしのことですの?」


「あれ? サウムさんっておと……」


「うわあああああ!!!!」


 スーノとサウムも黙ってろ!!


「セントー、私久しぶりに忍術使って疲れちゃったから、一緒に温泉入りましょう?」


「入らねえよ!!」


「お母さんと一緒に入るの、嫌なの? 反抗期? これまで誰が育ててきたと思ってるの?」


 めんどくさいめんどくさいめんどくさいめんどくさい!!


「まったく、女の子の前だからってカッコつけすぎ!! 逆にダサいわよ!!」


「だーかーらー!!」


 苛立つ俺の肩を、ウェスタが叩く。


「お母さん大好きなのね、セント」


「今のどこをどう見たらそうなるんだよ」


「いーじゃない、素直になりなさいよ。ね、セントママ」


「ウェスタちゃん、いいこと言う!! セントのお嫁さん候補ポイント追加!!」


「義母さん、私もポイントほしいです!!」


「わたくしもですわ!!」


 もう……わけわからん……。

 ぜってー母さんを追放してやる。

 ったく、どうして俺のパーティーにはマトモなやつが入ってこないんだ。

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