第23話 対峙

 サウムのバカが他の女共を連れて逃げ出してしまった。

 結局は俺よりも友情を取ったわけだ。

 こうなるんじゃないかと、予想はしていた。

 それならばそれでいい。


 正直、あいつらはウザすぎる。

 煩わしい女共の相手をするのはもうおしまい。これからはイステと二人でやっていこう。

 あいつがいれば女共がいなくてもギルドマスターまで昇れるだろうし。


 まあ、万が一の時の回復役がいなくなったのは痛手だが。


「好きにしろよ。歪なパーティーを組み続ければいいさ」


 踵を返し、来た道を戻っていく。

 すると、


「待ちなさいよ」


 背後から、ウェスタの声がした。

 スーノとサウムも一緒のようである。


「なんだよ」


「話がある」


「サウムから聞いたんだろ? じゃあその通りだよ」


 ウェスタが唇を噛み締めた。

 悲しみに耐えるように、強く。血が出るほどに。

 スーノが泣き喚きだす。


「いったいどうしてですか!! ウェスタさんがなにをしたんですか!!」


 お前の仲間を殺したんだよ。

 さて、どうするか。こいつらに未練はないし、喋ってしまってもいいが。


 やめておこう。質問攻めになりそうで面倒臭い。どうせ俺がいなきゃそのうちバレる。殺し合いなら他所でやってくれ。


 俺が適当な理由を探していると、ウェスタが口を開いた。


「私が、足手まといだから、でしょ」


「……」


「姉さんの情報がほしくて、頭に血が上って、結果ダブの連中に呪いをかけられた。セントたちが地下城を攻略してくれたけど、生還できる保証なんかやかった。だから、二度とこんなことが起きないように……」


「あぁ、そんな感じ」


 だからってと、スーノが反論しようとしたが、ウェスタが静止した。


「あんたの意見はごもっともよ。だけど、もう一つ聞かせて。……私を消したいなら、どうして私を助けたのよ。地下城は攻略できませんでしたで、帰ってくればよかったのに」


「さあね。前の俺に聞いてくれ」


「サウムは、いまのあんたが本当のセントだって言っていたわ。でも、私は違うと思う。あんたの根幹には、優しさがある」


 はあ?

 なに言ってんだこいつ。

 寒いセリフ吐いて自分に酔ってんのか?


 ウェスタは俺に近づくと、槍の持ち手をこちらに向けた。

 このまま槍を持ち、前に力を込めれば、ウェスタを貫けるだろう。


「あんたは私を殺せない」


「なにがしたいわけ? 俺はもうお前らと縁を切る。それでいいだろ」


「よくない! あんたが目的のために私たちを使ってたのなら、私たちにだって、あんたが必要なのよ!! 私は、命をかけても姉さんを見つけ出す。その協力をしてほしい。だからこれからも、パーティーにいてよ!!」


「……」


 槍を握り、ウェスタの腹部を突き刺した。

 悲鳴ひとつ上げなかったが、致命傷たりうる血が流れていく。

 スーノが駆け寄るが、


「このままでいい!!」


 力強く、ウェスタは俺を睨む。


「どうしたの。まだ生きてるわよ」


「意味不明だな、お前」


 ムカつく。イライラする。

 わかったような口を効きやがって。

 そんなに死にたいなら殺してやるよ。

 使わないおもちゃを捨てるように容易いことだ。


「……くっ」


 なんだ? 力が入らない。

 サウムに生気を吸われたのか?

 いや、だとすれば立っていることすら困難なはず。

 じゃあ、どうして。


「ほら、やっぱりやれない。あんたは非情になりきれない」


「黙れ」


 スーノが叫ぶように訴える。


「もうやめてくださいセントさん!! セントさんはそんな人じゃないはずです!」


「お前まで……」


「セントさん言ってたじゃないですか。お父さんみたいな人を増やさないよう、願いを叶える玉を消滅させるって。そんな人が、人を殺せるはずありません!!」


「父親なんて覚えてない!!」


「記憶がなくなっても、セントさんはセントさんです!! 心の根っこの部分は同じです!!」


「黙れ!! お前たちは所詮道具なんだよ。前の俺だってそう思っていたはずだ。使えるからパーティーに入れた。便利だから気を使ってやった。それだけだ!!」


「それでもいい! 私はセントさんに救われた。その事実は変わりません!!」


 ウェスタは貫かれた槍を自分で抜き、真っ青な唇で言葉を紡いだ。


「もう感情に任せて暴走しないわ。だから、私たちがあんたの道具なら、あんたも私たちの道具でいなさいよ!! 勝手に抜けるなんて許さない。私たちをまとめてくれるのはあんたしかいない……。私たちには、あんたが必要なの!!」


「こいつ……」


 槍を構え、今度はウェスタの胸を狙う。

 途端、スーノは賢者の書を取り出し、


「元に戻って!!」


 攻撃魔法で消滅させた。

 それと同時に溢れてくる。

 こいつらとの出会いの記憶。苦労した日々。

 同じパーティーのなかで過ごした時間が、蘇ってくる。


 そして、過剰な出血でウェスタが倒れた。


「ウェスタさん!」


 スーノが回復魔法をかけていく。

 それを横目に、俺はこの子達に背を向けて、歩き出した。


 サウムが追いかけてくる。


「セントさん、記憶は……」


「戻ったよ」


「な、なら!」


「無理だね。いまさらパーティーに戻ったって、居心地が悪いだけだ。俺はこれからも、心のどこかでお前たちを道具として見てしまう」


 気を失いかけているウェスタが、笑った。


「別にいいじゃない」


「は?」


「こいつこんな一面があったんだ。なんて、長く付き合ったらよくあることよ」


 スーノとサウムも微笑んだ。


「どこまでバカなんだ、お前ら」


「でも、あんたが作り上げた、最高のパーティー」


「……」


 あぁそうさ、このパーティーより完璧なチームは存在しないと断言できる。

 ウェスタさえいなくなれば。


 しかし、こうなってしまった以上ウェスタを消しても意味がない。

 俺も利用されろだって? 偉そうに。

 つくづく、能天気なやつらだ。


「後悔するぜ」


 謝罪の念なんかない。

 罪悪感もない。

 むしろまだイライラしてる。


 最低で、冷たい性格。

 今回の件で俺自身が知った、本当の俺。

 それでも、まだ一緒にいたいと言い張るのなら。


「だったら責任もって最後まで俺に利用されろよ道具ども」


 ウェスタの傷が完全に塞がった。


「さっさと立てよウェスタ。ゴーレム退治がまだ残ってる」


「ふふっ、そういうあんたも、嫌いじゃない」


 ドリングス迷宮を攻略したい俺。

 姉を見つけたいウェスタ。

 一族の復讐と復興を願うスーノ。

 ただ俺といたいサウム。


 全員の利害関係によって成立する歪なパーティー。

 自慢の、完璧なパーティーだ。


 サウムとスーノが抱きついてきた。

 暑苦しくて鬱陶しい。

 でも、これほど俺のことを想ってくれることは、少し嬉しい。

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