第22話 脱走
わたくしたちが挑む次なるクエストは、ゴーレム退治。
もちろん、セント様がお決めになりました。
おそらく、セント様はここで殺すつもりなのです。ウェスタさんを。
「スーノ、そこの根っこにつまずくなよ」
「はい、ありがとうございます、セントさん」
いつものように、ウェスタさんを先頭にして森を進みます。
セント様はいつ、どのようにウェスタさんを殺すのでしょうか。
わかりません。想像すらできません。
わたくしがどうにかしないといけませんのに、恐怖と緊張を抑えるので精いっぱいです。
それでも、全神経を集中させてセント様を邪魔するしかありません。
このパーティーの平和を維持するために。
「どうしたのサウム。顔色悪いわよ」
「ちょ、ちょっと肌寒いだけですわ、ウェスタさん」
「そう」
この森に、罠が仕掛けられているのでしょうか。
落とし穴とか、張っている線を踏んだら刃物が飛んでくるとか。
一歩、また一歩歩くたびに嫌な汗が背中に流れます。
途端、セント様が喋り出しました。
「少し休憩しようか。ゴーレムの巣はまだ先だし。確か地図だと、近くに滝壺があるはずだ」
「あ、それならあっち側にありますよセントさん。滝の音が聞こえてましたから」
「さすがエルフ、耳が良いんだな」
滝壺。水場。
そこで溺死させるのですか?
セント様、あなたはいったい何を考えているのですか?
ウェスタさんに肩を叩かれます。
「ねえサウム、本当に大丈夫? 息荒いわよ?」
「あ、いえ……」
ふと、セント様と目が合います。
輝きのない、鈍く暗い瞳。
淡々と獲物を追い詰める獣のように冷血で、人を人と思っていない禍々しい瞳孔。
悪魔であるわたくしでさえ、耐えられない。
怖い、セント様が怖い!!
「っ!」
わたくしは衝動的に、ウェスタさんとスーノさんの手を握り、走り出しました。
セント様が追いつけないほど速く、できるだけ遠くへ。
「わっ! なんですかサウムさん!」
ようやく立ち止まり、感情に身を任せたまま、言葉を紡ぎます。
「逃げましょう! セント様から!!」
「何言ってんのよサウム」
「あの人は、ウェスタさんを殺そうとしているです!!」
「はあ?」
やはり、お二人とも素直に受け入れず、互いに顔を見合わせています。
「どういうことですか?」
「セント様から直接聞いたのです。邪魔になったから殺すと。この前のクマ退治でも、わたくしとスーノさんが乱入しなかったら、どうなっていたか……」
「邪魔って……ウェスタさん、何をしたんですか?」
その問いはわたくしにではなく、ウェスタさんへ向けられていました。
当のウェスタさんは、俯いて一点を見つめたまま、なにも答えません。
代わりに、スーノさんが続けます。
「もしその話が本当だったとしても、信じられません。だってセントさんですよ? 私たちを先導して、いつも優しくしてくれるセントさんじゃないですか」
「それは、記憶を失う前のセント様です」
「けど同じセントさんですよ!」
わたくしだって同じ意見です。
記憶がなかろうが、セント様はセント様。
けれどいまなら、ハッキリと断言できてしまうのです。
「あれが、本性なのですわ。きっと」
言っていて、涙が溢れてしまいます。
あのころのセント様はもういないのだと、実感してしまいます。
私の涙を目にして、スーノさんも瞳が潤みだしました。
本当だと、察したのでしょうか。
「お二人とも、逃げましょう。セント様は、わたくしがどうにかしますわ」
「どうにかって……」
「恋人として、責任を取ります!!」
瞬間、ウェスタさんがようやく口を開きました。
「なんにせよ、一回話すよ。あいつと」
「しかし!」
「これはパーティーの問題でしょ。みんなで話し合って決めないと」
「……戻ったら殺されるかもしれないのですよ?」
「それでも、セントと話したい」
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