第20話 説得
※途中からサウム視点になります。
クマ退治をした日の夜、宿の部屋にサウムを呼び出した。
サウムはなんだかそわそわしていて、心なしか顔が赤い。
セックスをするとでも思っているのか?
「ついに、この日が来ましたわね」
「サウムは、どうして俺が好きなんだっけ?」
「わたくしより強いからですわ! それに、セント様は優しく、頭もいいですもの」
「ふーん。嬉しいな、サウムみたいな美人に褒められて」
「あーん♡ 今日のセント様って大胆ですわ♡」
この様子じゃあ、俺への忠誠心はそうとうなものだ。
なら本題に入っても問題だろう。
「俺の言うこと、なんでも聞けるか?」
「もちろんですわ」
「ならさ、ウェスタを殺すの協力してくれよ」
「……は?」
「邪魔なんだ。ていうかもういらない。穏便にパーティーから消したい」
サウムの瞳孔が開いている。
さすがに素直に受け入れられないのだろう、夢や幻なんじゃないかと、半笑いを浮かべている。
「協力って言っても、なにもしなくてい。本当に、なにもするな。こっちで上手くやる。お前は雰囲気を察して、邪魔さえしなければそれでいい。今日のクマ退治のときみたいな」
「ほ、本気で言ってますの?」
「本気だよ。ウェスタを殺したら、俺はお前を一生愛す。結婚しよう」
なにも言い返してこない。
まだ飲み込めていないのか、グズめ。
「あの、わたくし……」
強引に、サウムをベッドに押し倒す。
軽くキスをしてやって、耳元で囁いた。
「こんなこと、俺だってしたくないんだ。俺が好きなら、俺の辛さを理解して、協力してくれ、頼む」
泣く演技をしてやると、サウムはようやくマトモに喋り出した。
「き、きっとわたくしはわからない深い理由があるですわよね」
「あぁ」
「わ、わかりましたわ!」
「ありがとうサウム。愛してる」
もう一度キスしてやると、サウムは起き上がった。
「今日は自分の部屋で寝ますわね。キスで満足しちゃいましたの」
「そうか」
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自室に戻った直後、わたくしの体はいままでにないほど震え、立っていることさえ困難になってしまいました。
「違う、あれは、セント様じゃない!」
記憶を失って、やはりセント様は変わってしまった。
でもどうすればいいのでしょう。どうすれば、あの優しいセント様に戻ってくれるのでしょう。
賢者の書、これを消滅させれば、セント様は記憶を取り戻すのでしょうか。
書は現在、スーノさんが所持しています。
いますぐにでも彼に会いに……。
ドアノブに手をかけた瞬間、なにかとてつもなく、嫌な予感がしました。
もし、裏切る素振りを見せたら、セント様はわたくしのことも……。
そのときです、ドアの向こうから、セント様の声がしました。
「サウム、調べたんだけど、悪魔との契約はこっちが一方的に破棄できるみたいだな。そうなったらお前は、無差別に人間の生気を吸わなくちゃあこの世界にはいられない。また、お尋ね者になるな」
「……」
「そのときはスーノには内緒で、イステと二人で討伐しにいってやるよ。ははは!!」
「……あの!」
「余計な真似はするなよ」
セント様の足音が遠ざかっていきます。
わたくしはいったい、どうすれば……。
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