第19話 実行
俺は三人の女を連れて、街から少し離れた山に足を踏み入れた。
この山に住む巨大人食いクマを退治するのがクエスト内容だが、俺の目的はあくまで、ウェスタを事故に見せかけ殺すことだ。
「遭難したら狼煙を上げること。じゃあ二手に別れて捜索しよう。俺とウェスタ、スーノとサウムかな」
スーノが意見してきた。
「別れて大丈夫ですか? 合流できるか……」
「倒したら狼煙を上げればいい」
「わ、わかりました。……あと、心配なんですけど、クマ見つかりますかね? 山は広いから……」
「そこは冒険者としての腕の見せ所だよ。あくまでもウェスタ復帰記念のレクリエーションなんだから。楽しもう」
「レクリエーションで生き物を殺すんですか」
反発的に目を細めてきた。
うざったい正義感を振りかざしやがって。
「悪い、スーノをリラックスさせたくて、つい」
「あ、いえ、そうだったんですね。私こそ、ごめんなさい」
黙って回復魔法だけ使ってろ。
運良く殺されなかっただけの、死に損ないのダークエルフが。
ちなみに、スーノとサウムも同行させたのには訳がある。
ウェスタを殺したあと、万が一にでも俺が疑われないようにするためだ。
いつも四人なのに、どうして今日は二人だったんだ。なんて、重箱の隅をつつくような疑念を持たれるのは面倒だ。
「それじゃ、またあとで」
それぞれのチームが歩きだす。
クマの居場所はわからないことになっているが、検討はついている。
事前に巣の場所をある程度特定しているから。
さて、肝心のウェスタを殺す方法だが、もちろん人食いクマに襲わせるのである。
ウェスタはバリバリの戦闘タイプだから、十中八九まともにやったら勝ってしまう。
しかし、俺が背後から切りつければ話は別。まさか俺に切られるとは思ってもいないだろうし、重症を負うだろう。
そうなればクマに勝てる見込みはグンと減る。そのまま原型が残らないくらい熊に食べられてくれたら、切り傷も目立たなくなるはずだ。
加えて、巨大人食いクマは獲物を狩ったらすぐ巣に持ち帰る習性がある。つまり続けて俺を襲うことはせず、逃げる隙きがあるってこと。
不安要素はあるが、まあ上手くいくだろう。
あとは適当に泣いたり悔やんだりして悲しいアピールすれば、俺を信頼している残りの二人も信じるだろうさ。
「人食いクマってことは、人間の匂いを嗅いだら襲ってくるわよね。クマの嗅覚って凄いのかな?」
「怖いの?」
「まさか、近づいてきたら殺気でわかるし、余裕よ」
「そりゃよかった。さすがウェスタだ」
「なんか、あんたの記憶が無くなったって知った時はどうなるかと思ったけど、前とあんまり変わってなくてよかったわ」
「あんまり?」
「ちょっとは変わった。いまは少し、壁を感じる。まあ無理もないけどね。あんたからしたら出会ったばっかりのやつだし…………待って、来るわ!!」
ウェスタの忠告通り、巨大なクマが前方から猛スピードで向かってきた。
俺の五倍はデカい。まだ十数メートル離れているが、凄い威圧感だ。
「一撃で仕留める!」
ウェスタが槍を構えた。
俺も剣を抜く。
じゃあな、厄介な女。手間をかけさせやがって。
ウェスタに斬りかかろうとした、そのとき、
「わたくしにお任せを!」
サウムが飛び出し、エナジードレインでクマの気力を奪った。
クマは力が抜けて、倒れてしまう。
「は?」
続け様に、ウェスタが一突きで頭部を貫き、クマを殺した。
遅れて、スーノもやってきた。
「なによ二人とも。私一人で充分だったのに」
「サウムさんが、どうしても二人が心配だからって」
サウムが擦り寄ってくる。
「セント様、お怪我はありませんか?」
「……二手に別れるって言ったよな」
「なんだか不安で仕方なかったのですわ。悪魔の勘ってやつですわ」
「……」
ゴミが。
素直に俺の言う通りに動けないのか。
エナジードレインがあるからパーティーに入れてやってるのに、余計なことしやがって。
スーノが顔をしかめた。
「セ、セントさん、怒ってます?」
チッ、つい表情に出てしまったか。
「怒ってないよ、思ったよりクマがデカくて、まだ心臓がバクバクしてるんだ。あー、怖かった」
イライラするな、こいつら。
特にサウム。心配になった理由が本当に悪魔特有の勘みたいなものだったら、厄介だ。
先にこいつから対処するか?
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